時音さん

butterflycarry

(プロフィールはありません)

ピアプロバッジ

フォロー(4)

  • Shig
  • さも
  • ツキシキ
  • 青磁(即興電P)

作品に付けられたタグ

イチオシ作品

欲に殺された歌姫、奇跡を残して 完結

『ミク……』 『カイトお兄ちゃん、一緒に歌って? ワタシの想いを、マスターに、ルカちゃんに、届けるのを手伝ってほしいの』 ――最期の願い。 媒体を壊されたボーカロイドが望む、ただ一つの。 あれだけひどい仕打ちを受けながら、ミクは必ずマスターの名を忘れない。 一番届けたい相手にだけ、最期にそれぐらい望んでも罰は当たらないだろうに、それでもミクは……。 『……わかった』 暫しの沈黙を経た後、カイトは口元を綻ばせて承諾する。 ルカの為だけではなく、マスターの為にも。 それで皆が少しは救われるなら……。 そんな風に思った自分に、カイトは引っ掛かりを覚えた。 短い間に、情というものが芽生えたのだろうか。 それとも、プログラムに仲間思いという設定でもされていたのだろうか。 経験が浅いカイトには、よく理解できない変な感覚に思えた。 (まあ、いいか……) 心中で、そう結論づける。 感情の分析は、ボーカロイドの苦手分野だ。 どうして、なんて考え込み悩むぐらいなら、今自分が出来ることをやればいい。 ミクはカイトに協力を求め、カイトは受け入れた。 今はそれで充分だ。 妹の最期の願いを聞いてやればいい。 カイトは口を開き、低めの音を紡ぎ出す。 ミクもまたそれに合わせ、高く綺麗な音を響かせていく。 『!?』 ソフトを投げ捨てられて気を失っていたルカは、聞こえてきた声に耳を傾けると愕然とした。 姿を現わす気力すら奪われて、ソフトの中で恨み言のように呟く。 『っ、やっぱりあなたは……はっ!! こ、これは……っっ!?』 人間の耳には聞こえない音。 歌を歌うためだけのプログラム、ボーカロイドにしか聞こえない音。 それは、美しくも柔らかなメロディ。 カイトには出せない、ミクですら出せなかった――至上の高音域が混ざる。 遥か天空まで飛翔するかの如く力強くも、甘やかに透き通る声。 人間ですら辿り着けないかもしれない。 ――この領域は。 けれどルカには、それがミクのものだと何故か確信できた。 『ずっと、伝えたかったことがあるの』 (もう遅すぎるけれど、どうか聞いて) ミクの歌声に重なって、言葉にならなかった想いが伝わってくる。 『本当は、生きている間に言いたかった』 (ワタシはルカちゃんのことが大好きだったの) 今更だけど、それでも言葉にしなかった想い。 『もう二人、この世界で会うこともないけれど』 (離れちゃうのは寂しいけれど、ワタシの心はルカちゃんと共にあるから) ただ哀しき別ればかりではなくて、残せるのは。 『もし巡り会えたなら、その時はまた』 (昔みたいに二人で楽しく歌おう。だから、ルカちゃんも歌い続けてね……) ――ルカちゃんの元に、新しいワタシが来ても、“ワタシ”は悲しくなんかないよ。 ――ワタシはいつだって、ルカちゃんの傍にいるから。 ――今度は二人で、歌うために生きて、幸せに枯れていけたらいいね……。 『あっ……あぁ、あああああああぁぁ――っ!!』 少年には聞こえないルカの絶叫が、悲痛を伴って部屋中に響き渡る。 両手で顔を覆うと、止まらず溢れてくる涙が濡らしていく。 ミク、ミク、そう繰り返す声は、重すぎる謝罪を含んで。 守れなくてごめんなさい。 誰よりも大切なあなたを、見殺しにしてしまってごめんなさい。 歌うことを捨てようとしてごめんなさい。 今も歌を歌いたくてたまらないのは、あなたの方だっていうのに。 『ごめんっ、ごめんね……ミク――っ!』 後悔に苛まれているルカを前に、紡がれていたメロディが別の曲へと変わっていった。 カイトが口を閉じて、ミクだけのゆったりとした音色が奏でられる。 暖かくも懐かしいそれは、ふたりの、はじめてのおと。 「……ミク。あなたは、私と歌ってくれるの?」 返事は聞こえない。 それでも、ルカにはミクが笑いかけてくれているように思えた。 媒体を壊されて歌声を奪われる、その絶望は計り知れないものだろう。 それでも、ミクはもう一度、この場所へ戻ってくることを選んだ。 少年はまだ目を覚ます気配を見せない。 けれどこの曲はきっと響くだろう、とルカは確信していた。 声が聞こえなくても、初めて奏でた喜びを、彼は忘れていないはずだから。 『……歌いましょう、ミク。マスターに、私達の最後の曲を……』 ルカは静かに目を閉じて、記憶に残っている譜面を思い浮かべる。 完璧に覚えるまで、そして覚えてからも、何度も歌ったのだ。 それこそ毎日のように。 ルカにとっては、ミクとの幸せな時間を象徴する曲だから。 よく通りながらも滑らかな声色が、ルカの唇から零れていく。 ミクもそれに合わせて声を出し、二つのハーモニーが産み出されていった。 少年は未だに目を覚ますことはなかったが、瞳からは涙が一雫伝い落ちた。 もう二度と感じることのない魂の歌。 それに触れた、故の……。 マスターがこめた想いを、歌にして届ける。 それが、ワタシたちボーカロイドの役目。 哀しい歌も、嬉しい歌も、ワタシたちは愛する仲間と共に伝えていく。 例え、過酷な別れが訪れたとしても。 ――だから、この命が続く限り歌い続けよう。 ――あなたとまた、歌える日が来ることを夢見て。 fin


何故にこんな長さに……なったんでしょう。お付き合い頂きありがとうございました。

投稿日時 : 2010/10/07 14:04

最近の投稿作品 (6)

まだ誰からも使われていません

何もありません

何もありません

▲TOP