まえがき。
大好きな曲、第一話(その3)『はすのうてな』を自分なりに広げてみました。
自分のサイトを持っていないので友人のピアプロを使わせてもらってます。
クーヤンラブ!
※今後の展開によって、本編と辻褄が合わなくなっても知りませんよ。
『虹の彼方へ』 作・バンビ。
「代理人(エージェント)は顧客(クライアント)の目的を~♪通常事前(アプリオリ)に知るこ~とは~ない~♪」
私は歌いながら赤いトラクターを操縦していた。
トラクターの後ろでグルグルと爪が回り、畑の土を掘り返す。辺りはほっこりとした新しい土の香りが広がっている。
「でも戦略的(ストラテジック)に判断停止(エポケー)するのよぉ♪それが私の倫理(エートス)~♪」
「…ワカちゃん…ソワカちゃ…」
柔らかな日差しと、トラクターの振動が心地良くて、私はご機嫌だった。
「ねぇっ!ソワカちゃんってば!」
先ほどからクーヤンが呼んでいたようなので、私はエンジンを切って振り返る。
「何?」
「でっかいミミズ見つけたの!」
クーヤンがつまみあげているミミズは小指ほどの太さがあって、確かに大きかったけれど。
「ちゃんと作業して」
私がトラクターを掘り起こした畑に、タネを撒くのがクーヤンの役割なのだが、すぐに飽きて遊んでしまう。
「ソワカちゃんがさっきから歌ってるその歌なに?っていうか歌詞キモい」
「私だってわかんない。メッセンジャーが歌ってたの」
たまに家に届け物をしに来る、おかっぱ頭のメッセンジャーが口ずさんでいた歌が、頭から離れなくなっていた。歌詞の意味は私にもよくわからない。
「あと一列、耕し終わったらお昼ご飯にするから、クーヤンも早く撒いてよね」
「はーい」
私はまたトラクターのエンジンを入れる。
大好きなパパが死んでから、私たちはこうして毎日働いている。
パパがビジネスをしていた頃でさえ、二胡堂寺の財政は芳しくなかったのに、そのパパが死んだ今、もはや収入は賽銭箱だけしかなくなった。
そして何の御利益もない二胡堂寺の賽銭箱はいつも空っぽで、食べていくためには私たちが働くしかなかった。
未成年の私たちが働ける場所は多くなく、私たちは仕事を選んではいられなかった。
はじめに私が働いたのは天狗の面工場だった。
最初倒れた面を起こす簡単な作業だっだが、スプレー塗装の作業に回されたとき私の才能は開花した。
ベルトコンベアーから流れてくる天狗の面を待ち受けて、正面からスプレーを噴射する。
私の塗装はむら無く均一で手際が良く、その腕を社長の春日部から絶賛され、時給も向上しこれで少しは暮らしも余裕ができるかと思った。
しかしそれも長くは続かなかった。
ある日、工場の外で「そんなところに神は宿らない!神は我に宿っている!」などと、ハンドマイクで絶叫している老人がいた。
以前ここの工場に長年勤めていた腕のいい職人だったらしいが、工場の全面オートメーション化によって解雇されてしまったらしい。
そのことが原因で精神的迷子になってしまったのだと、仕事仲間が教えてくれた。
「お前だな!お前が塗装をしているんだってな!」
帰りがけ、私は突然その老人に掴みかかられた。
「塗装っていうのは、神の力を借りた者しかできないんだ!神の力は俺に宿っている!俺の仕事なんだ!」
血走った目は完全に狂気に侵されていて、口から泡を吹いていた。外の騒ぎを聞きつけて出てきた社員のオジサンが、その老人を引き剥がしてくれた。
「徳さん、もうやめるんだ!」
「俺の仕事返せ~!」
老人は泣きじゃくりながら暴れ続け、駆けつけた警察に連れて行かれてしまった。
そのことがあって私は何だか後味が悪くて、辞めてしまった。
その後に勤めたキャバクラは、クーヤンと一緒に働いていた。
しかし未成年者を雇っていたのが警察に嗅ぎ付けられて、強制捜査が入った。私とクーヤンは裏口から逃げることができたが、そのままその店は潰れてしまい、給料をもらえることができなかった。
マグロ漁船のバイトは船酔いに耐えられなくてすぐに辞めた。
ラーメン屋ホープ軒では私は看板娘になるほど人気があった。
しかしそこにはクーヤンと同じ年頃のみっちゃんという娘がいて、彼女のおかしな言動が気になった。
厨房の端で「…ちょびっと私用でチベット修行?そう、いろいろと物騒だから気をつけてね…」などとブツブツとゴキブリと喋っていた。
私はそれを見て引いてしまい、結局店を辞めてしまった。
幾つものバイトを経て、この農家のバイトに落ち着いた。
マシン系の操縦が得意だった私には、この仕事は向いているかもしれない。
クーヤンに「将来何になりたい?」と聞かれて、適当に「野菜ソムリエ」と答えたことと少しだけ繋がっているような気がした。
そう、その会話をしたのは、パパが殺される前日…。
幻惑を見せられていたとはいえ、父の顔にケチャップを塗り、肛門に胡瓜を突っ込んだのは私たちだ。そのせいで父の遺体はとても間抜けな姿になってしまった。
笑いを堪えながら現場検証をしていた公僕には、最初から何も期待していない。
パパは自らの死を悟っていた。
そして自分を殺す相手をも知っていた。
ニコニコ動画にパパの遺言がアップされていた。その動画で「メッセージが届くように手配した」と、パパは言った。
どれだけ待ったらいいのだろう。一ヶ月?それとも一年?
「心を平静にそれを待ちなさい」と言ったけれど『それ』が届いたとき、私にはわかるのだろうか?
「わっ!」
物思いに耽っていた私は、突然ドンっと何かに突き飛ばされて、トラクターの上から落ちそうになって、慌ててエンジンを切る。
何かと思って私を突き飛ばしたものを見ると、明朝体の字の塊だった。
「クーヤン!」
「ごめん」
「私に向かって叫ばないでって前から言ってるでしょ!」
「ソワカちゃん、でもだって…」
土の上に落ちた文字は『虹』。
「あんなにも綺麗なんだ」
クーヤンの指差した先には、七色の虹がかかっていて、私たちは無言でしばし見惚れた。
爽やかな風が汗をかいた肌を撫でる。
遠くで鳥の鳴く声がする。
どこまでも平和な風景に、パパが亡くなってからの辛い日々が少しだけ癒される気がした。
そのとき視界を白いものがヒラリと横切った。
「あ、パパ和尚!」
クーヤンが白い蝶に向かってそう言った。
パパの納骨の時、白い蝶が私たちの周りを飛んでいた。
檀家さんがパパの大好物だった酒『大五郎』を供えながら、「その蝶はパパの生まれ変わりだな」とポツリと呟いた。
クーヤンはその蝶を追いかけた。
そして石につまずいて転び、うずくまったままずっと泣き続けた。
それから白い蝶を見るたびに、私たちはパパが見守っているんだと思うことにした。
白い蝶はヒラヒラと、虹の方へ向かって羽ばたいていく。
私は唇をかみ締める。
真実を掴むまで、泣かないと決めた。
クーヤンが今にも泣き出しそうな顔で、白い蝶を目で追っている。
「クーヤン、泣いちゃダメだよ」
「…うん」
真実はあの虹のもっと向こう、シャンバラの菩提樹の下にある。
その真実を見つけたら、私たちは救われるだろうか。
薄れゆく虹を、遠ざかっていく蝶を、私とクーヤンはいつまでも見ていた。
パパ…大好きなパパ…。
私、クーヤンと一緒に頑張るから、どうか見守っていてね。
あとがき。
私は子供の頃、母が仕事に行っている間に、よく祖母の家に預けられていました。
祖母は面白くて優しくて、花と落語が好きで、私はそんな祖母が大好きでした。
祖母は蝶や蛾が家の中に入ってくると「ご先祖様が見に来てくれたよ」と私に言いました。
私はどうして先祖が蝶になるのかが納得できなかったので、その話を信じませんでした。祖母はちょっと悲しそうな顔をしました。
その祖母は5年前に亡くなりました。
私は死後の世界も輪廻転生も信じないけれど、白い蝶を見ると祖母を思い出すのです。
「見上げた空に真っ白な蝶が舞う」という歌詞とクーヤンの泣き顔を見て、私の瞳からは涙が流れ落ちました。
大好きなソワカちゃんは私に笑いと涙を与えてくれます。
この素晴らしい作品は私のこれからの人生に、何らかの影響を与えるでしょう。
作者様と、ソワカちゃんを愛するすべての人と、そして祖母にこの雑文を捧げます。
バンビ。
【電奇梵唄会奉納ソワカちゃん雑文祭 参加作品】
友人バンビ。作、ソワカちゃんオリジナルショートストーリーです。
ソワカちゃんは、私とこれを書いた友人の、大好きなシリーズです。
折角なので、コラボしてみました。
私は挿絵を描かせていただきますが、まだ描いてません。←!
そのうち妙なイラストがアップされている事でしょう・・・。
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Re:sui
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