一週間の恋
最近新しいマスターが出来た。
昔、俺とリンは前のマスターに売られた。
記憶を消し忘れたのか、その事を俺はハッキリと覚えている。
どうせまた捨てるんでしょ。人間が信用出来ない。
最初はあんなに良くしてくれていたのに、いつからか歌を歌わせてもらえなくなった。
それが歌を歌う為に作られた俺達VOCALOIDにとってどんなに悲しい事か、マスターにはわかっていなかったんだ。
歌を貰えないVOCALOIDに存在意義はない。
リンは早速新しいマスターに懐いた。
でもそれは、また昔のように捨てられたくないからだと思う。
双子というのはやっぱり何処かで繋がっているんだろう。
俺には自然とそう思えた。
新しいマスターの家には既に俺やリン以外のVOCALOIDが3人(体)いた。
初音ミク、KAITO、MEIKO。
3人とも幸せそうに笑っていた。
この家なら俺も変われるかな?少しずつ今のマスターを信用しようと思った。
「レン、ちょっと来て」
「なんですか、マスター」
「これから私用で一週間くらい家を空けなくちゃならないから、その間、家の留守を任せてもいいかな?」
「………」
きっとそのまま帰ってこなくなるんでしょ?
そう思うと言葉が出てこなくなった。
嫌な記憶が蘇る。
「…ごめんね。勝手なお願いで…でもちゃんと帰ってくるから。『家族』を放りっ放しには出来ないもん」
「マスター…」
この人は違う。前のマスターとは違う。
俺達を『家族』だと言ってくれた。
ただ、それだけの事なのに、俺の気持ちはスーっと明るいものになった。
「絶対ですよ」
「うん」
指きりなんていつ以来だろう。
人の温もりを小指を通して感じる。
それからマスターはすぐに家を俺に任せて私用とやらに出掛けた。
それよりも、新参である俺が仕切ってこの家の留守を守るのかと思うと急に不安になった。
「レンくん」
そんな時、背後から幼いようでお姉さんのような声が俺の名前を呼んだ。
ミクさんだ。ミクさんは俺に近付くとニコッといつも通りの笑みを浮かべた。
「どうしたんですか?ミクさん」
「マスターからレンくんの面倒を見るようにって言われてるから。あと、リンちゃんもね」
「…なんですか、それ」
それってつまりマスターに信頼されてないって事?
最近来たばかりだからそれは仕方ないけれど…。
なんだかモヤモヤする。
「レンくんはしっかり者だから、家の事に気を使いすぎて体調を崩さないように見張っといてって」
額に手を当て深々と溜息を吐く。
俺はマスターが一体なにをしたいのか、全然わからない。
「それよりレンくん、向こうでリンちゃんとお兄ちゃんがゲームをやっているからレンくんも一緒にやろうよ」
「え?…MEIKOさんは?」
「お姉ちゃんはお酒で酔ってそのまま」
「寝ちゃったんですか…」
「ううん、暴れまわってるの」
なるほど。暴れているMEIKOさんをスルーしてゲーム…。
…って、それってマズくないか!?
「ミクさん!なに暢気にゲームしようとしてるんですか!?早くMEIKOさんを止めないと、家がめちゃくちゃに…!」
「お姉ちゃんはもういいってお兄ちゃんが」
「…『もう』??」
この家のVOCALOIDは一体どうなっているんだ…。
MEIKOさんが暴れている以上、マスターとの約束を果たさなくちゃ。
「ミクさん、ごめん。せっかくだけど俺、MEIKOさんを止めてくる」
「え?レンくん?あ、だめっ!!」
不意に腕を掴まれたけど、俺はそれを振り切ってMEIKOさんの所に走る。
するとどうだろう。MEIKOさんは酒瓶を両手にテーブルの上で何かを叫んでいる。
その時だけ俺は、大人にはなりたくないな、と思った。
「ちょ、MEIKOさん、落ち着いて!そんなところで暴れたら危ないですって!」
「んぁ〜?…あ〜、レンくんか〜、あんたも一緒に飲むでしょ?」
「え?あ、いえっ、俺まだ未成ねn…あばばばば」
MEIKOさんを静めようとしたけれど、逆に酒を無理矢理口に流し込まれた。
喉が焼けるように熱い。身体の芯から熱が帯びてくるようだ。
そこで俺の意識は敢え無く途絶えた。
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