穂末(水鏡P)の投稿作品一覧
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「どうしよう……」
体温計が示した値に、あたしは途方に暮れた。
レンが倒れるのなんて、少し前まではよくあることだった。自分が芸能界に入ったきっかけも、レンの代役だった。
別に珍しいことじゃない。
ここ二年くらい調子が良かったから油断していただけ。雨に降られたんだから、こうなって当然だ。
あ...【小説】wo R ld's end 12
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「わぁっ!」
書斎の方から声がして、僕は扉を開けて中を覗いた。
「……何やってるの?」
少女が僕の家で暮らし始めてから、一週間以上が経っていた。腕を怪我した僕のためか、彼女は慣れない手つきで家事をしてくれている。
だが、料理は壊滅的で、掃除洗濯はそこそこ上手いのだが、たまに失敗する。
埃の中...【小説】wor L d's end 11
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「はい、OK!」
あたしは、レンとルカ姉の撮影を見ながら、腕時計を確認した。早く終わればいいのに、と心の中で繰り返す。
問題のシーンの撮影はどうしても見たくなくて、カイト兄に泣きついた。カイト兄がレンとルカ姉のマネージャーを数日間引き受けてくれて、あたしはその間ずっとミク姉のサポートをしていた。...【小説】wo R ld's end 10
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「ほら」
ミク姉に促されて、少女は僕の家に入ってきた。
ばつが悪そうにそっぽを向いている様子は、まるで子供のようだ。実際、まだ大した年齢ではないけれど。
「おかえり」
僕が微笑むと、少女は怒ったような顔をして、でも何も言わなかった。
少女の唇だけが動く。きっと、ただいま、と言ったのだろう。
...【小説】wor L d's end 09
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季節はもう移ろい、映画の撮影も始まっていた。
主題歌と劇中歌を、来年の映画公開に合わせて発売することになっている。
曲も歌詞も出来ていたけれど、まだ収録はしていない。
あたしが収録時期を先延ばしにした。
レンの声変わりのことがあるからだ。来年も同じ声だとは限らない。声が変わったのは分かるの...【小説】wo R ld's end 08
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「大丈夫、大丈夫」
何度も何度も、ただ無意味に繰り返される言葉。
ミク姉に抱きしめられた少女は、真っ青な顔をして震えていた。その理由すら、僕には分からない。しかし、少女がひどく怯えていて、ミク姉の声すら耳に入っていないことは分かった。
ミク姉は僕の存在に気付いたようで、少女の方を気遣いながらも...【小説】wor L d's end 07
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家に帰ると、他のメンバーの姿はなかった。
レンの靴はあったから、もう帰っているはずなのに。
ダイニングテーブルの上に、台本が置かれていた。あたしが、レンと一緒に主演の予定だった映画。
こんなところに置いておくなんて、わざとだろうか。レンはあたしに、読んでほしいのだろうか。
震える手で、その...【小説】wo R ld's end 06
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杖を地に突き立て、前もって村の周辺に描いておいた陣を浮かび上がらせる。
魔法とは、呪文と陣、すなわち言葉と図形を組み合わせて起こす奇跡のことである。
そう言うと難しそうに聞こえるが、なんていうことはない、ただ単に「自分が考えていることを言葉と図形で表現して、それを相手の思考に刻みつけてしまう」...【小説】wor L d's end 05
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テレビに映し出された偶像。あたしのことだ。
ファンに崇め奉られて、歌の実力も磨き上げた容姿も置き去りに、知名度だけが先走る。
きっと、この国のどこかで、あたしの映像を見ながら、馬鹿らしい、と吐き捨てている人がたくさんいる。
別に、アイドルになりたかったわけじゃない。なりたくなかったわけでもな...【小説】wo R ld's end 04
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「なるほどねー……」
何故だか少女は、メイコ姉に対してはそれなりに素直だった。不機嫌な顔をしているが、質問にはそれなりに答えている。
名前は……まだ答えてくれない。年齢は僕と同じ十四歳。適性は剣士だけれど、武器は持っていない。武器どころか、回復用のアイテムも盾も鎧も何もないらしい。
倒れて当然...【小説】wor L d's end 03
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「あぁもう! なんであたしが仕事ある日に限ってホームルーム長引かせんのよあの担任はっ!」
あたしは必死で走っていた。校門までの距離をこんなに長く感じたことはない。――そこ、マラソン大会のときの方が長く感じただろうとか突っ込まないでよ。
「リンちゃーん!」
校門の外で黒塗りの車が待っていて、その中...【小説】wo R ld's end 02
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ここで暮らし始めて、どのくらいの時間が経ったのだろう。僕はいつから存在しているのだろう。
そんなこと考えたこともなかったし、君と出逢わなければこれから先も疑いなどしなかっただろう。
世界はここにあり、僕はここにいる。そう、信じて疑わなかった。他の世界なんてどうでもいいと思っていた。
-----...【小説】wor L d's end 01
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貴方の空の下(もと)生きていく夢を見ていた
A
姉とふたり過ごす日々 満ち足りていたはずだった ……貴方と出逢うまでは
白い翼負うひと 偶然の出逢いはきっと神様がくれた奇跡
B
金の髪 青い瞳 私と同じ色 これを運命と呼ぶのかな
最初から分かっていた 住む世界が違うこと でもこの奇跡に続きがあります...(non title)
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「さぁて、始めるよ!」
中等部の吹奏楽部も、高等部の管弦楽部も、中高合同の合唱部も、大所帯でバリバリ活動している。そんな中で、何故に「歌唱同好会」などというこじんまりとした集団が、四畳ほどの部室で活動しているのか。
それは、この同好会の目的が、「歌手としてのデビュー」という大それたものだからであ...【小説?】CR学園歌唱同好会
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「ミク、ルカ!」
靴の音を高く響かせて、部屋の中へ入る。
「カイトはどこにいます?」
「んー? えっとねぇ……」
ミクが、その辺をきょろきょろと見回した。部屋の中にいるわけでもないのに、きょろきょろしても意味ないと思う。
可哀そうだから言わないけど。
結局、カイトは未だに、騎士としてこの王宮...【中世風小説】Papillon 終
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ねぇ。君が悲しんでくれるなら、俺は死んだっていいと思っていたよ。
そんな勇気なかったけれど、でも、君の涙は俺の悲しみで、幸せだった。
君がいない場所で、君に知られずに死んでいくのが怖かった。それだけは耐えられないと思った。
でも、そうなってしまうんだね。
運命が憎いよ。
でも、本当に憎い...【中世風小説】Papillon 13
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「何してるの!」
声が響いたかと思ったら、後ろから思い切り腕をひねりあげられて、俺は剣を落とした。
後ろを見ると、目を真っ赤にはらしたミク姉が、驚いたような顔をしている。
俺は、思わず笑ってしまった。
「何驚いてるの、自分でやっといて」
「だ、だって……」
剣を持っていた俺を見て、自殺すると...【中世風小説】Papillon 12
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流血はありませんが、人が死にますので、苦手な方はご注意ください。
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「せめてもう少しだけ、ここがあんたたちにとって温かな場所であり続けられれば……」
眠りにおちる少し前、メイコ姉はあたしを抱きしめて、そう呟いた。そのときメイコ姉がどんな表情をしていたのか、あたしには見えなかった。
---...【中世風小説】Papillon 11
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無言で差し出された剣。カイトは俺をまっすぐに見て、いつもの穏やかな表情すら浮かべず、剣を持つように促した。
「ちょっと、カイト!」
ミク姉が走ってきて、カイトを止めようとする。だが、カイトはそれすら無視して、ただ俺を見ていた。
「何やってるの、二人とも! まだ、外に出ていいなんて言われてないよ!...【中世風小説】Papillon 10
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「一緒に、逃げよう」
……その言葉の意味が、俺には分からなかった。
いや、本当は、分からないはずがなかった。
それはずっと、俺が考え続けていた言葉。口にする勇気もないまま、いつか言おうと心に決めていた言葉。
でも、それはもう、無理だ。
「あたしがレンの右手になる。二人でなら、どこでだって生き...【中世風小説】Papillon 9
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君となら、どんな世界でも、生きていける気がしたよ。君と二人で生きていくために、いつかこの場所を離れるときのために……。
ねぇ、僕を笑ってくれないか。そんな日は、最初から来るはずもなかったんだって……今の今まで気付かなかった、僕のことを。
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酷い顔だな。鏡をのぞきこんで、溜息をつく。あ...【中世風小説】Papillon 8
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「リン?」
名前を呼ばれて、あたしはびくりと肩を震わせた。
「起こしちゃった?」
結局、会う勇気もなかったあたしは、メイコ姉も寝てしまった真夜中に、ようやくレンの部屋に行った。まさか、起きているとは思わなかった。
「眠れなくて。日中も寝てるから。時間感覚、おかしくなりそう」
荒い息の下から、絞...【中世風小説】Papillon 7
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「っと、わぁっ!」
朦朧とした意識の中で、ミク姉の声をきいた。その直後に、盛大に転んだと思われる音と、何かが転がり落ちる音。
リンもミク姉も、何もない道で転べるような人だけれど、今回は何か持っていたのだろうか。
唯一自由に動く左手で、ベッドのカーテンを開ける。俺の部屋の床に、何故だか果物が大量...【中世風小説】Papillon 6
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「リン! リン!」
身体を強くゆすられて、初めて誰かがそこにいることを知る。焦点の合わない瞳で、翠を見つけた。
「ミク、姉……?」
周りを見回す。誰かが床に倒れていた。そのすぐそばに、カイトが立っている。カイトが誰かを倒したらしい。
でも、何故。分からない。あたし、何してたんだっけ。
「よかっ...【中世風小説】Papillon 5
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流血表現があります。苦手な方は読むのをおやめください。
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失うことに、慣れる日なんて来るのだろうか。君を失ってもいいと思える日なんて、来るのだろうか。もし君を失いたくないと願い続けたら、失わずにいられるのだろうか。そんな自分勝手を、世界は許してくれるのだろうか。君は、許してくれるのだろう...【中世風小説】Papillon 4
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「わぁ、可愛いーっ! ほら、見て!」
並べられた商品を見てははしゃぐあたしに、げんなりとしてついてくるレン。
高熱にうなされているレンに無理やり、街へ出かける約束をさせて、今日ようやくのデートとなった。少し離れた場所を、何食わぬ顔してカイトが歩いている。一応、用心棒だ。
「なんなのレン、もっと楽...【中世風小説】Papillon 3
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君だけを見ていた、とか、君だけを守りたい、とか。
もうそんな、白々しい言葉しか思い浮かばない。それを証明するものなんて、もうどこにもない。
夢の中で、ただ君の姿を探していた。夢の中でくらいは、君の笑顔に会いたかった。
降り注ぐ光の中、噴水を浴びて、緑の絨毯に寝転がった日々。一日中、手を放さず...【中世風小説】Papillon 2
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あなたはもう、忘れてしまったでしょうか。二人でなら、何もこわくなかった頃のことを――。
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「ルカ姉! メイコ姉!」
あたしは、白い衣のすそが翻えるのも気にせずに走り、部屋に飛び込んだ。あまり品はないけれど、これでもこの王国の第三王女だ。
「ねぇ、レン見てない?」
部屋の中にいた姉二人...【中世風小説】Papillon 1
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「ねぇカイト、姫様知らない?」
二日酔いを理由に朝っぱらからまた飲んでいたはずのメイコが、ふらりとカイトの元に顔を出す。
「は? 何言ってるんだよ、ミクなら……」
カイトは首を傾げ、街の中央にそびえたつ塔を見上げる。その一番上から、夜の闇を切り裂くように放たれる二つの光。
今はもうきこえない歌...【小説】サーチライト 終
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気がつけば、誰かの腕の中にいた。朦朧とする意識の中、最初に見えたのは、金色の髪と白い肌。
「リン……?」
また彼女に助けられたのだろうか。ぼんやりと、歌うことも忘れてその顔を見ていると、金髪の少女は、そっとミクの頬に口づけを落とした。
「うん」
悲しいほど優しい声が、耳に響く。
急に意識が鮮...【小説】サーチライト 11
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役人たちが圧倒的に不利な状況になったわけではない。しかし、最初の炎が歌に消され、一度彼らは切り上げた。
「またすぐに来るだろうな」
ルカは、そう言いながら、物見台の上で見張りをしている。
昨日の炎で焼かれてしまった家々を見て、人々は落胆し、しかしまだ生きていることに感謝していた。この状況で感謝...【小説】サーチライト 10
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「うっわぁ、すごーい」
リンは素直に感心した。
感心すべきところではないのかもしれないが、あまりの金額に、そうとしか言えなかった。ミクの首にかけられた額。首、とはいっても、条件は生け捕り。よくも悪くもこの美貌なのだ。元ご主人様は、相当執着しているらしい。
「すごいって、リン……」
呆れた様子で...【小説】サーチライト 9
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いじけた様子で草をいじるミクと、そのそばで彼女を守るように立つリン。
「つまんないなー。街に来たんだから色々見たいなー」
先ほどまでと様子が違いすぎるミクに苦笑し、リンも同調する。
「ですよねー。あたしも色々見たーい」
しかし、ルカが危険な目にあった場合に合流して逃げるため、もしくはミクが見つ...【小説】サーチライト 8
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「わぁ……すごい」
フードを深くかぶったまま、ミクは感心する。街と呼ばれるような場所に訪れたのは、久々だ。その活気に、人の気配に、圧倒される。
「すごいすごい!」
隣にいるリンは、呆れるほど元気だ。そんなリンの首根っこをつかまえて、ルカがつばの広い帽子をかぶせる。
リン自身の過去も分からないし...【小説】サーチライト 7
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「つまり、こういうことですか。ミクさんとルカさんは、レン――あ、呼び捨てでいいですよね、を探している、と。そんでもって、彼の居場所はもちろん、現在の実年齢も外見年齢もよく分からなくって、唯一の情報はあたしの顔なわけですね」
リンの顔が情報、というのはよく分からないが、まぁリンによく似た顔、という意...【小説】サーチライト 6
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