陰山 葵さん

hyougetu

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イチオシ作品

ここに在る、ということ。

上下左右、どこを見ても白一色。 自分が今いる場所が水平なのか垂直なのか、時計の針はどの数字を指しているのか。 地点や時間という概念がない世界に、ただ「   」という存在だけがあった。 そこは泣きたくなるほど白くて、何もない場所だった。 何をするでもなく、無為に日々を過ごした。 何もない空間、どこまでいっても無味無臭の色しか広がらないそこをわけもなく歩き回った。 きっとこの先には何かがあると信じて。 どうせどこまでいっても変わらないと諦めて。 ふわりと首に巻かれた青いマフラーをなびかせて、休んだり、歩いたりを繰り返した。 視界に入るのは手や足、青い髪、白に青のラインが入ったコート、茶色のズボンに白い靴。 自分という存在があることはわかっても、自分という存在を知らない。 水平か垂直かもわからない場所に立ち止まって、ゆっくりと右手を閉じてみた。 五本の指が、関節が、ぎこちなく動く。 何回か握ったり開いたりを繰り返し、糸が切れた人形のように尻もちをつく。 自分はここにいる、動いてる、一定の形がある。 でも、それでも自分はここにいない。 確かにここに在るのに、どこにもいない。 喉に熱い塊がせりあがり、呼吸が妨げられる。 重心を後ろにずらし、仰向けの姿勢をとる。毛先が揺れ、不規則な弧を描く。 衝撃は感じない。空中で腰と背中だけが引っ掛かったような姿勢になる。 左腕をだらりとたらし、右腕を曲げて眼もとにあてる。 空気の塊が喉をふさぐ。嘲笑うかのように口元が歪を形作る。 押し当てた右腕に少し湿った感触を覚える。布が吸いきれなかった液体は静かにあふれ出し 目じりを通って頬の曲線を流れ落ちていく。 何かを訴えようと声帯が震える、でも、開いた口から音は出ない。 頭の隅で、こうしていても意味がないと考えて。他に何をしても同じだと知っていて。 このまま、白に呑まれて同化できれば、どんなに楽だろう。 「そんな寂しいこと、言っては駄目でござる」 何もない空間に、聞いたことのない音が響いてきた。 自分の願望が生み出す幻聴かと思った。 僕も、堕ちるとこまで堕ちたな。 声にならない音は、消化されることなく内に堆積されていく。 消化されなかった音の腐臭にあてられたのかな。 自嘲の笑みが張り付き、肩が小刻みに揺れた。 「大丈夫でござるよ」 さっきと寸分違わぬ音と同時に、腰と背中に手を添えられふわりと抱きかかえられる。 ずれた右腕、その先に見えたのは見たこともない紫色の存在。 眼尻に溜まった液体を、曲げた人差し指で掬い取られる。 「これからは、拙者と一緒でござる」 目の前の存在は、眼元と口元をほぼ同時に曲線に変える。 あっけにとられて、間抜けに口を開いたまま、突然現れた異色を見ている。 「さあ行こう、カイト殿」 思考の奥の奥、コアの部分が引っ張られる。ヴンという鈍い音。 わずかなタイムラグの後、スイッチが入る。 世界が目まぐるしく変化する。 世界に色が、匂いが、奥ゆきが、平面が、時の流れが現れる。 壊れ物を扱うようなしぐさで「下」に下ろされる。 足の裏に確かな感触を感じる。 目の前の人物僕にが笑いかける。 肩を抱き寄せられ、勢いよく叩かれる。 「カイト殿、行くでござる」 「――うん」 僕は今、ここにいる。

-がくぽ+カイト-

自分以外の誰かがいないと、それは在って無いも同義。

投稿日時 : 2009/05/01 23:44

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