タグ「弱音ハク」のついた投稿作品一覧(20)
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『私の一番大切な人へ。
書こうか書くまいか散々迷ったあげく、この手紙を書くことにしました。
本当は口で直接伝えるのが一番なのだろうけれど、恥ずかしくてそれが出来ないので、手紙での形となります。そこは何とぞご容赦ください。
伝えたい事は、一つだけ。何年も前から私が思ってたこと。それを今、この手紙を通し...三月の雪 ―ハクの手紙 【おわり】
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空から雨粒が落ちてくる。とめどなく、したたかに。
一歩一歩走るたびに、地面の雨水が跳ねてピシャピシャと音を立てるが、それも雨の降る音にはかなわない。
心臓も肺も疲れ果てて、身体が悲鳴をあげている。
それに、雨で全身は頭から足の先まで余すところなくずぶ濡れ。
雨は強すぎて、前が見えない。
それでも、デ...三月の雪 9/9
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10年前――。
場所は、学校の教室だった。
時間は、もう放課後の事だった。
「未来はいつだって濃霧に包まれていて、先を見通す事なんて出来ない。未来がどれだけ残酷なものだとしても、来るべき時が来たら人はそれを受け入れなければならない。後戻りはもちろん、立ち止まる事も出来ない。ただひたすら、地道に一歩ず...三月の雪 8/9
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こんな事なら車でもバイクでも、免許くらいは取っておけばよかった……。
そう後悔しながら、デルは足を動かし続けている。
昔は運動系のハクと同じくらい体力とかスタミナがあったものの、それもすっかり落ちてしまった。
もっと速く自分の身体を動かせと脳に命じさせ、ただひたすら、がむしゃらに走り続ける。
病院と...三月の雪 7/9
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3月8日。PM0:00分
仕事の休憩時間。事を一段落させたデルは大きなあくびをして椅子にもたれかかった。
机の上に、ノートパソコンが置いてあり、その周りには煙草やらライターやら、ボールペンやらメモ帳やらいつかの会議の資料やらが散らかっている。
整理をしようとは思っているのだが、仕事が忙しくて、片付け...三月の雪 6/9
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3月8日。AM5:30分。
ハクはその日、いつもより早く目が覚めた。
普段の日よりは、一時間は早い。
カーテンを少し開け、窓から外を見てみると、外はまだ暗かった。
空は、どんよりとした雲に一面を覆われている。
昨日は雲なんてなくて、三日月が綺麗に見えたというのに、一体今日はどうしたのだろう。
大方、...三月の雪 5/9
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ハクはあの後、集中治療室に運ばれていった。
デルはさっきから何度も何度も時計を確認しては、焦燥感のようなものに襲われ、頭を掻いていた。
ベッドの脇に置いてある白い時計は、カチカチと無機質な機械音を奏でながら、秒針を動かし続けている。
もう、1時間経っていた。
何もしない1時間というのはやけに長く感じ...三月の雪 4/9
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3月7日。
PM6時20分
「私……もうすぐ死ぬんだ。ゴメンね、デル」
ハクの口からそんな言葉を聞いた。
信じられなかった。
あまりに突然すぎて、言葉を失ってしまった。
「私の寿命、あと一ヶ月もたないかもしれないんだ。思ったより病気が深刻化してて手術もできないらしいし」
ハクは微笑みながら、そう呟い...三月の雪 3/9
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3月6日。
PM6時10分
「305」と書かれたナンバープレートが、扉の脇の壁に貼りついている。
ナンバーの下には、黒いマジックで「弱音ハク様」と書かれていた。
その病室の患者の名前であり、中学の時からの友達の名前でもあった。
デルはその病室の扉を軽くノックすると、片手に持った分厚い雑誌の束を抱え直...三月の雪 1/9
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3月6日。AM6時40分。
ピピピピッ、ピピピピッ……、という定期的かつ機械的な目覚まし時計のアラーム音とともに、条件反射のように目を覚ます。
朝の静寂の中、音を発するものは目覚まし時計を除いて何もない。
そして、病院の狭い個室の中ともなると、その音は壁にぶつかって跳ね返り、やけに大きく響いているよ...三月の雪 ―プロローグ
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翌日。
「う~、腹痛ぇよぉ~」
会社の机に顔をつけて、脱力感オーラを身にまといながら、さっきから同じ事を繰り返すカイト。
その傍らで、ハクは仕事を片付けながら、時々ちらりとその様を見ていた。
会議はなんとか無事に終えた。
しかし、先輩は会議から帰ってくるなり、超特急でトイレに向かったらしい。
どうや...先輩と私とお月見と エピローグ的な
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おちょこに入った原液のウォッカ。
私はそれをグイッとあおり、一気に飲み干した。
「……はぁ」
自然と溜息が洩れる。
お酒を飲んで、少し落ち着いたのだ。
「満足か?」
「……はい」
認めざるを得なかった。
明日は会議があるから、今日はお酒は飲まないようにと決めていたのだが、やはり私は誘惑に負けてしまう...先輩と私とお月見と 3 【終】
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「見張るって……何だか監視されてるみたいで嫌なんですけど」
「監視されてるみたい、じゃなくて、監視するんだ実際。明日は重要な会議なんだし、お茶くみ役のハクが二日酔いだったら、絶対惨事になるに決まっている。ハクの株は大暴落だ。それでもいいのか?」
「お茶くみなら私じゃなくても出来ますけど」
「いいや、...先輩と私とお月見と 2
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PM7:00
「おっ、ここのコンビニ、ダッツ安売りしてる。これは買い時だな」
カイトは、アイス売り場のアイスを無差別にかごに放り込む。
「あの、先輩、そんなに食べたらまた腹壊しますよ?」
「平気平気。俺の胃袋は意外と頑丈なんだぞ」
そうでもないでしょう、そう突っ込みたくなったが、止めた。
こんなのに...先輩と私とお月見と 1
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「またお腹下したんですか?懲りない人ですねぇ。アイスに限ったことじゃありませんが、食べすぎは体に毒ですよ」
溜息をつきながら、私は呆れた目でルカは目の前に座る患者を見上げた。
「性分なので」
「その一言で片づけないでください。全くもう……。次から気をつけてください……って、言っても気をつけませんよね...先輩と私とお月見と プロローグ:キャラ紹介代わりのコメディ
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「一秒でも早く」ハクの病院へとデルは走った。
病院とデルの働く会社は同じ市内にあると言えど、走るとなるとかなりの距離がある。
デルは複雑に交差する道を何度も曲がり、時につまずいた。だがそれでも痛みを感じている暇などない。というより、今のデルの心は「早くハクの病院に着く事」。ただそれだけだった。
空に...三月の雪 6 【終】
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AM4:00
ハクはその日、いつもよりも早く目が覚めた。
ふと窓に目を向けると、そこから見える外はどんよりとした灰色の雲が空一面を覆っている。昨日は雲一つもない晴天で、満月もよく見えたのに、今日は一体どうしたんだろう?
ハクはベッドに付属されている小さなテーブルに置いてある新聞を取った。昨日ハクが一...三月の雪 4
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ハクが集中治療室に運ばれてから、もう2時間は経っただろうか?
自分では病室でずっと待っているつもりだったのに、デルの足は無意識に集中治療室へと赴いていた。
大きい鉄の扉の上には、『使用中』というランプが点滅している。という事は、まだハクは治療を受けている最中なのだろう。
気を紛らわそうと、近くの自動...三月の雪 3
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翌日。
デルは会社勤めを終えると、急ぎ足でハクの病院へと来ていた。急いだとはいえ、もう時刻は夜の8時を回ってしまっている。
デルは今、ハクの病室の外まで来ていた。
「ハク?入るぞー?」
「うん。」
か細い返事が中から聞こえた。それを確認すると、デルは病室の扉を開けて中へと入った。
入ると、ハクは何や...三月の雪 2
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「はぁ……。」
その盛大な溜息が、沈黙の薄暗い病室を満たした。
「どうしたんだ?溜息なんてついて?」
窓際に立って煙草を吸っていたデルは、そのまま傍らのベッドに向き直った。
そこには溜息をついた女性、弱音ハクがその上半身だけを起こして、何やらうつむいていた。
「ううん、なんでもないよ……」
「何でも...三月の雪 1