――――――――――#1

 窮地の最中にある。一旦事が起きれば、すぐに死地だ。

 神威がくぽだけなら、なんとでもなると、余りにも甘い考えをしていた。

 奴が参加する宴会、全員が攻響兵だ。最悪だ。正攻奇攻あらゆる全てが不利。

 神威がくぽ、猫村いろは、亞北ネル、弱音ハク、巡音ルカ。初音ミクと共に、メディソフィスティア僭主討伐戦争の趨勢に影響を与えた攻響兵の一部で、それぞれ組織も国すらも違えながら同じ敵を見出した。特に、今では革命派の残党あるいはメディソフィスティア戦犯と呼ばれる、先の戦争を画策した全ての元凶を突き止める役割を果たした。

 あの部屋で一個軍団相当の戦力になる。伝説の初音ミクを加えても大して変わらないような、圧倒的な戦力差だ。結論だけ言えば勝つ可能性が全くない。

 合理的に考えて、逃げるしかない。だが、戦闘中の混乱で失踪したという演出を加えてまで、どうしてもクリフトニアに侵入したかった、いや侵入しなければならない事情が、彼女なりに存在した。

 『GUEST――――――――――滅びの炎の音を聞け。』
 『GUEST――――――――――焼ける大地の嘆きを聞け。』
 『GUEST――――――――――我らの家の思いでよ響け。』
 『GUEST――――――――――知るがよい、去った物達の名を。』
 『GUEST――――――――――捨てた我名において、知るがよい。』

 このリリックコードを考えたかがみねれんとかいう攻響兵を、見たい。生で凄く見たい。このロックでブルースなレクイエム。それも見ず知らずの他人に聞けと強制する訴える意志の強さ。亡者の無念を想像で知らしめるという野心、とても傲慢でありながら幼く純粋な、ロックだ。だから、かがみねれんとかいうのが何者か、超見たい。

 「今まで聞いた中で、……ふふ」

 今まで聞いた中で最低な、必要最低な言葉で綴ったレクイエム。フルコーラスがどんな風かは知らないが、歌ってくれるなら是非聞きたいと思う。それが、人生の最期になったとしても。

 「……じゃあ、大地と家を結びつけたら、空はどこにあるの?ふふふ」

 焼ける大地が滅びの象徴なら、おうちがきえたのを直には見ていない可能性が高い。だからこそ、怨念が増幅されて感じるのだろう。

 生のかがみねれんを見てみたい。すごく見てみたい。きっと、怖くて恐ろしい目をした、猛獣のような復讐者なのだろう。そんな気がする。

 「楽しみだわ。本当の敵かもしれない、私が殺したいと思うかもしれない敵。ふふふ」

 健音テイは、料亭『竹櫓』中庭を眺めながら、独りごちた。彼女は無意識の内に、殺人衝動という狂気を持ち出して自分の感情を解釈しているに過ぎないのだが、自分が死地にあるという現状を忘れて一時、物思いに耽っていた。

 『GUEST――――――――――滅びの炎の音を聞け。』
 『GUEST――――――――――焼ける大地の嘆きを聞け。』
 『GUEST――――――――――我らの家の思いでよ響け。』
 『GUEST――――――――――知るがよい、去った物達の名を。』
 『GUEST――――――――――捨てた我名において、知るがよい。』

 神威がくぽがイヤホンを耳から外す。弱音ハクのハードディスクレコーダーで鏡音レンのショートエコーを回し聞きしていたのだ。
 
 「これは、故郷を戦禍で喪失した話者が、見ず知らずの人に自作の鎮魂歌を聞かせるという内容だと推測されます」
 「いや、どう考えても呪いの歌だよな?」

 神威が聞き終わるのを見計らって弱音ハクと亞北ネルが、鏡音大佐の自作となる「リリックコード」の解釈を言い合う。

 「呪いの歌にしては、贖いとか報復というのが出てけえへんのとちゃうか?」

 猫村いろはがネルの意見に疑問を挟む。ネルは何か考え込んでいて、返事をしない。

 「確かに、被害を強調する割に、要求ないし願望がただ「聞け」「響け」「知れ」としか出ていない。攻撃が本質かどうかという点では、解釈が難しくはある」

 神威は猫村に同調した。ハクは迷い気味に、他の者の表情に目を走らせる。

 「この鏡音レンの無名リリックコードは、『ブルース』か『バラッド』、あるいは『レクイエム』ではないかと考えています」
 「まさか『ヒム』でもないだろうからなあ」

 ブルース、バラッド、レクイエム、ヒム。いずれも故郷が滅ぶという叙事詩が表現しやすい形式であるが、レクイエムとヒムつまり鎮魂歌と賛美歌はリリックコードとして成立させるのが難しい。

 「しかし、消滅の表現を再現するというリリックが続けば、かなり強力な内容になるのではないでしょうか」

 巡音ルカが不安を口にする。市長になる以前は攻響兵だったから、なまじの軍人よりも話についていける。

 「だよなあ、そこが読めないんだよ。レンの奴が復讐したいとかいう気配を出してるの、見た事ないからさあ」
 「せやろな。勝手に行動起こしそうな奴なら、とっくに『消しとる』やろうからな」
 「おっと、弱音ハクさんの悪口はやめてもらおうか」
 「何度も言いますが消してません。好き好んで攻響兵になった人が何を言うねんです」
 「えせ上方訛りはやめてもらおか、ハクの姉ちゃんや?」
 「だったら私を死神みたいに言うの辞めてもらえませんか?」
 「考えとくは」
 「今すぐです」
 「ハクさんの口からDEATHという言葉が出たら、夜明けは迎えられんですよ猫村提督」
 「ほんまか。そしたら最期に六浄豆腐作らせてくれやLifeSaveMe」
 「なんでエセ英語になるんですか?あと六浄豆腐って去年の歳暮で送ってきた」
 「あれはノーカウントや!な、ちゃいますよって、あれは言葉の綾ですよってに、そんな意地悪しはったらうちもこまりますよってに」
 「ほら!いろはちゃん土下座して!ハクさん怒らせたらえらいことなんやで!」
 「その小芝居やめてもらえますか鬱陶しい」

 咳払いの声が響く。

 「元の話に戻すが」

 神威が口元に手を当てて、やや呆れた顔で一座を見回す。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」第6章#1

よろしくDEATH♪

閲覧数:196

投稿日:2013/06/09 22:00:09

文字数:2,524文字

カテゴリ:小説

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