『一ヶ月と三日遅れの誕生日』後編!


「で? 声が出ないって」
「うん。なんだか、恥ずかしくって」
「そりゃそうか。『生まれてきてごめんなさい』な人だもんね、あんた」
 ネルが鼻歌で曲を付けて歌う。
「もうこれでいいんじゃない? 題は『白の娘』」
「いいわけないでしょ! もう……困るよ」
「ああほんと、あんたっていじめ甲斐がある」
 くつくつと笑ったネルが目じりの涙をはじく。

 ネルはハクに初めて会った時のことを思い出した。
 ミクに紹介され、ハクがネルの前に進み出た。
「ハクです、よろしくお願いします、ネルさん」
 ネルはぴくりと眉を上げて言ってやったのだ。
「あんたさぁ……何様?」
「はい? 」
「ヒトのこと、いきなり『さん』って言うわけ?」
 ハクの体がびくんと固まった。
「……では、何とお呼びすればよろしいですか、ネル、様? 」
 体をこわばらせつつもしっかりと反撃してくるハクにネルは答える。
「ネル『ちゃん』でしょ。女の子なら」
「ちゃん?! 」
 ハクがあんぐりと口をあける。
「いいんですか、そんな呼び方で! 」
「いいわけないでしょ! あっははは! 」
 うわ、絡みづらい、とおもわずこっそりつぶやいたハクに、ネルは面白くなりそうだとさらに笑った。「そのうち慣れるわよ」とフォローにならないフォローを入れたミクにも、ネルは思い切り笑った。

「じゃあさ、ハク」
「うん」
 ひとしきり笑っているうちに、ハクがその場を去ろうとしたので、急いでネルは引きとめた。
「あたしが知っている歌を教えてあげる」
「本当?!」
 ハクの顔がぱっと輝いた。
「うん。……遠い国の古い歌でね、誕生日を祝う歌があるんだ。直接的にお誕生日おめでとうって言うのが恥ずかしいなら、どうかな?」
 そして、ネルは口を開いた。

「ウォーイ、オート ヤード スリーブ イパフ、ミク様、ラーエト……」
 ハクの唇がそっとメロディをなぞる。
「ふぁ、そ ふぁ ら しーし、れ み ふぁ……? 」

 拍子も節回しも、どこか変わっている。しかし型にはまらず自由に響くその響きは、まるで農夫たちが収穫を祝うような、漁師たちが豊漁を祝うような、そんな太く力強い唄に聞こえた。

 緑の国の昼下がりに、ゆったりとやわらかくなった風が吹き抜けていく。
「ウォーイ、オート ヤード ヒスリーブ イパッフ、 ミク様、ラーエト……」
 ハクの声が、何度目か繰り返したネルの声に、ゆっくりと重なる。
 二人の声は、風に乗ってゆったりと、秋の色を帯び始めた高い空に抜けて行った。

        *         *

「おはようございます、ミクさま! 」
 次の日の朝。空気はもうすっかり涼しくなっている。そんなミクの部屋に、ハクの声が響いた。
「あらハク。今日は元気ね? 」
 部屋着姿のミクが立ち上がると、ハクは口を引き結んで大きくうなずいた。
「私、ミクさまのために歌を練習してきました! 」
 勢いこんで言うハクに、ミクの方が驚く。
「どうぞ聞いてください! 」
 そして、ハクは大きく息を吸い込んだ。
 たっぷりと吸い込まれた息が、秋の空気をふるわせた。

「ウォーイ、オート ヤード ヒスリーブ イパッフ、ミク様、ラーエト……
 ヤード スリーブ イパフ、ウォーイ……」

 農夫の唄のような野太い響きが似合う言葉だが、ハクの慣れない歌声はかえってみずみずしい響きを聴く者の耳に与えた。歌い進めていくうちにハクもだんだん慣れてきたのか、声がゆとりをもって響き始める。

 目をまるくしたまま聞いていたミクが、やおらにあっと声を上げた。

「ウォーイ、オート ヤード ヒスリーブ イパッフ、 ミク様、ラーエト! 」
 最後の『ミク様、ラーエト!』は大事な言葉だから元気に締めるのよ、と教えてくれたネルの言葉どおりに、ハクは大きな声で歌いきった。

 歌い終わった瞬間、ハクに女王のミクが飛びついてきた。

「ハク! 最高だわ! あなた、やっぱり最高に面白いわ!」

 抱きつかれ頬ずりされて、ハクはやや戸惑いながらも初めての贈り物を誉められて頬を染める。
「ミクさま! 喜んでいただけたのなら良かったのですが、面白い要素なんてひとつも……ネルちゃんに教わったのですが、笑えるほど下手くそだったのならすみません」
 ミクはさらに嬉しそうに笑った。
「いいえ! すっごく素敵だったわ! 最高の誕生日プレゼントよ! やっぱりわがままは言ってみるものね! 」
 それはやめてください、とハクは言いそうになったが、面白い、嬉しい、素敵と連呼しながら喜ぶミクに、ハクの表情にも柔らかく優しい笑みが浮かんだのだった。
 ミクが楽しそうに贈られた歌を歌う。ハクも照れくさそうにそれに合わせた。

「ウォーイ、オート ヤード ヒスリーブ イパッフ、ミク様、ラーエト……
 ヤード スリーブ イパフ、 ウォーイ……
オート ヤード ヒスリーブ イパッフ ウォーイ、
オート ヤード ヒスリーブ イパッフ、 ミク様、ラーエト!」

Uoy, ot yad htrib yppah, MIKU-sama Raed,
Yad htrib yppah, uoy
Ot yad htrib yppah uoy
Ot yad htrib yppah, MIKU-sama Raed!




終わり!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ちょっと一休み『一ヶ月と三日遅れの誕生日』後編!

ネルはハクに対してネタを仕込むのが大好きでした、という話。
そしてミクはそんな二人が大好きです。

悲劇にひた走る本編はこちら↓
悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ娘・悪ノ召使二次・小説】 1.リン王女
http://piapro.jp/content/f4w4slkbkcy9mohk


んで、この話のキャラ設定といいますか……
あの名曲の二次『悪ノ娘と呼ばれた娘』でのミクとハクの出会いは此方
悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 13.ヨワネハク 前編
http://piapro.jp/content/3rpx423nh5reejio

閲覧数:443

投稿日:2010/11/14 00:50:35

文字数:2,234文字

カテゴリ:小説

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