A
少年)僕ら今日初めの展覧会に行くんだよ!楽しみだなぁ!
(そこはとても不思議で奇妙な所だと思っている。なんせ、今まで行った事が無いから何も分かっていないのだ。)
少年)いってきまーす!
(少年が家から勢いよく飛び出した。母親は優しい眼をして少年を見守りつつ、微笑んだ。そして、鍵を掛けて少年と手を繋いだ。)
少年)よし、出発だー!ドキドキするなぁ…
(少年の目はキラキラと輝いている。お母さんを引っ張りつつバス停まで走り出した。少しすると展覧会場行きのバスが着いたのでそれにジャンプして乗った。窓から見る外はいつもよりもほんの少し色鮮やかに見えていた。)
B
少年)わぁ、すっごい絵があるなぁ…。
(お母さんと別れて早速冒険を始めた。)
S
(飾られてある沢山の海外などを眺めていると、スっ…と1枚の絵に目が止まる。1人の男の子が描かれている。)
少年)あれ、これ僕に似ているなぁ
(不思議に思った少年は絵に手を伸ばした。そして少し触れてしまった瞬間、吸い込まれてしまったのだ。)
少年)うわぁぁぁー!
(まるで宇宙飛行士が行なう訓練装置のようにグルグルと360度自由自在に回っていく。それはとてつもなく嫌な感じがした。)
少年)いっっっった…
(ゴンっという効果音が聞こえてきそうなぐらい、見事に頭から落ちた。不幸中の幸いか、コンクリートではなく野原に落ちたようだ。上半身だけ起き上がらせ、頭を擦りながら周りを見回した。)
少年)えっ…!?
(そこでは多くの人がそれぞれのことをしていた。男かっちりした服装をした男の子は横笛を吹いている。その音楽に合わせるようにして、少女達は踊る。
他にも、水浴びをしている人や畑を耕す人など、それぞれが思い思いのことをしていた。)
少年)よし、お家に帰る冒険だ!
(少年は呑気に歩き始めた。帰る方法もどうやったら帰れるかも知らないまま。無駄な自信に溢れた少年の家に帰る道のりは長そうだ。)
C
少年)それにしても、綺麗な場所だなぁ
(しばらく歩いていると、そこはまるで絵のように美しく見とれてしまうような景色が広がっていた。
水面が輝いている海、青く茂った優しい木々。花びらは既に散っているから来年の為の蓄えをしているのだと思われる。だが、ここにいるほんの少しの人々は声をかけても、肩を叩いても全く動くことがなかった。)
少年)あ、なんか見える!
(少し遠くに遊園地が見えた。少年は遊園地が大好きなので行きたくて仕方がなかった。嬉しそうに笑って駆け出したが、そこで声をかけられた。)
女の人)なぜここに来たの?
(女性は耳が尖っていて本で出てくる妖精の女王様のような服装だった。声はまるで鈴のように繊細で美しいのに、響いていた。)
女の人)今すぐに元の世界に戻りなさい。そうでなければ、帰れなくなってしまうわ…。
(女の人は少年の手を引いて歩き始めた。その横顔はなんとも美しく、凛としていた。そして纏っている雰囲気に押されて少年は話しかけることすら出来なかった。)
女の人)さぁ、ここよ。このヒビを通る様に飛び込みなさい。そうすれば貴方は帰れるわ。
(連れてこられたのはまるで鏡の様な湖だった。そして真ん中には大きなヒビが入っていて、ちょうど少年が通れるぐらいの大きさだった。)
少年)ありがとう、またね!
(少年は湖から少し離れて、助走をつけた。そのかいか、見事にヒビの隙間に飛び込んでいった。)
少年)うわぁあぁぁ、またぁぁあぁああぁ!?
(入って息が苦しくなり、視界がぼやけてきた瞬間、またグルグルと回り始めた。そして意識を失う直前に光を見つけた。少年は薄れゆく意識の中、精一杯光に向かって手を伸ばした…)
お母さん)あ、起きたのね!倒れていたから心配したのよ?
(ゆっくりと目を開けると、そこには笑っているお母さんの顔があった。聞いた話によると、そこだけ締切が合わずに展示されていない場所で倒れていたらしい。その場に偶然見に来ていた医者がただ寝ているだとみんなを安心させてくれたみたいだった。)
お母さん)ほら、そろそろ帰るよ?
(その後、心配したお母さんと一緒に見て回った。少年が見た絵はどこにも無かった。)
少年)あのね、さっき絵の世界に入っていたんだ!
(バスの中で少年はお母さんに不思議で素敵な出来事を話し始めた。もちろん、信じては貰えていないようだが。そうしてバスは展覧会場からどんどん遠ざかって行った。)
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