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    Fire Flower ~夢の大輪~ 02

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    TEXT
     

    !ATTENTION!

    この小説は鏡音レンオリジナル曲「Fire◎Flower 」のイメージ小説です。
    また、作中ではけったろさんのラップアレンジver. の歌詞を採用させていただいています。

    以上の事に少しでも不快感を抱かれる方は読むのを控えてください。

    それでは、よろしくお願いします。





       5

     八月も終わりにさしかかったその日は、二人の暮らす町の夏祭りがある。メールで約束をとりつけ、レンはリンと二人で夜、屋台を回ることにしていた。
    「なあ、花火見てから帰るんだろ?」
     深い紺地に花を散りばめた柄の浴衣を身にまとったリンに、レンは笑いかけた。
    「すっごい穴場知ってるんだ、俺。一緒に見ようよ」
     本当は、相談したいことがあるんだ、と続けたかったが、うまく笑えていたかどうかも分からなかったので、やめておいた。リンがどこか不安げな顔をしているように見えたのは、自分の感情がそのまま映されて見えただけだと言い聞かせた。

     でも、不安でぎくしゃくした空気も最初だけだった。リンと一緒に屋台を回り、くるくる変わる彼女の無邪気な表情を見ているうちに、自分の悩みが、どんどん小さなものになっていく気さえした。ヨーヨーつり、射的、わたあめやかき氷……一つ一つの屋台を回るたび、いや、一歩踏み出すたびにすら、新しい思い出が蓄積されていく。それがたまらなく新鮮で色鮮やかで、楽しかった。彼女のひとつひとつが、自分を明るく照らしてくれる。
    「レン! そろそろ花火だね!」
     はじけるように笑うリンを見て、レンは目を細めて笑った。きっと愛しいとはこういうことなんだと、中学三年生、十五年しか生きていないくせに格好つけて思う。
    (なあ、リン)
     声には出さずに、彼女に呼びかけた。
     俺、最初はリンのこと、向日葵みたいだって思ったんだ。けど、今は――……

    「あれ? リンじゃん」

     そこへ聞こえた声に、リンがあからさまに「あっ」という顔をした。一瞬、わけが分からずにぱちくりと目を瞬かせたレンだが、彼女の背後から大股に歩いてきた人物に、あぁ、と納得したように嘆息した。もちろん、リンとその男、“両方”に気付かれないように。
     戸惑ったリンの表情を見る。その顔が、「まずい」と後ろめたい思いをありありとあらわしているのに気付いて、レンはとたんに今までの高揚した気分が冷めていくのを感じた。霧散していくような、最高にいい夢から覚めた感覚。あぁ目覚めたんだ、これが現実なんだと、どこか遠くに思った。

    「リン、」
     過剰に反応した彼女に、どうにかなりそうなくらい頭の芯がかっと熱くなった。しかし、なんとかその熱を押し込んで、レンは微笑んだ。必死に「良いカレシ」を演じた。
    「飲み物買ってるから」
     不自然じゃないぎりぎりの範囲内で一番遠くの屋台を指さして言い、彼女が何か言う前に、そちらに足を向けた。一秒でも早く雑踏にまぎれ、二人の気配を喧騒の向こうに消し去りたかった。
    (……何が「良いカレシ」だよ、)
     ラムネを買う無邪気な子供たちの次に並んで、レンは自嘲気味に思った。
    (どうせ「良い前カレ」になるんだろ)
     最近仲良くなった「らしい」、バスケ部のキャプテンと話すリンを思い出す。心臓はばくばくと音を立ててこの上なくうるさかった。一度目にフられたときには感じなかった、どうしようもない怒りが全身を渦巻いてどうにかなりそうだ。
    「ラムネ一本ちょうだい」
    「ハイまいど、百円だよ」
     この怒りが、裏切ったリンに対するものなのかどうかは、分からなかった。どうも少し違う気もしたが、考えれば考えるほど反吐が出そうになったからやめた。気を紛らわすために一気に飲んだラムネの泡はこのもやもやを吹き飛ばすほどに弾けてはくれなかった。強すぎる炭酸はむしろ、レンの胸をちくちくと刺した。

    「……レン、」
     絞り出したような声が脇から聞こえた。屋台の裏の草地に腰掛けてラムネを一気にあおっていた彼がそちらを見やれば、戸惑ったような、怯えたようにも見える表情でリンが立っていた。実際に、左手にぶら下げたヨーヨーは震えていたようにも思える。
    「お待たせ……」
    (気遣わなくても、あのままあいつと回ってても良かったのに)
     そう思ったことは口には出さないでおいた。さっき思い出した。そういえば自分は夏休みに入る直前から、彼女に飽きられていたのだということを。ライブハウスでの活動や作曲に呆けているうちに、この夏休み、リンとあまり会っていなかったと振り返る。
    「全然っ」
     心の奥底で渦巻くもの全てを押し込めて、レンは立ち上がり、彼女を見下ろした。
    「花火行こうか、案内するよ」
    「……っ……」
     息を詰めてリンがうなずいたので、きっと自分は思ったより上手に笑えていなかったんだなと思った。
     



       6

     レンが毎年花火を見ているこの場所は、本当に「穴場」と言うにふさわしかった。家が近くて、小さい頃からこのあたりを走り回っていた彼しか知らない抜け道をくぐりぬけ、周りの観客たちが集まる展望台の斜め上に張り出した崖の上に出ると、雑木林の木々がここだけぽっかりと開けていた。
     二人は草の上にぎこちない距離を開けて腰掛けた。黒々とした空を見上げる。少し風がある。煙が流れて、今日は花火が綺麗に見えそうだと思ったが、わざわざ口に出すことはしなかった。

     もうすぐ、花火大会が始まる。眼下の展望台には、空のショーを楽しみにする人々が集まりつつあった。それはどこか、ライブが始まる直前の時間と似ていた。祭りをBGMに、夜空というステージを見上げて、今か今かと、ライブの開始を待つ時の高揚感。そう考えれば、この沈黙がほんの少し軽く感じられた。
     今は、リンといることは重苦しいことにしか感じられなかった。
     やっぱり、リンといると楽しいと思っていたのは、俺だけだったのかな……。

    「……俺さ、」
     何を思って、彼女は今まで沈黙していたのだろうか。レンがぽつりと口を開いたので、リンがゆっくりと顔を上げてこちらを見た。展望台を見下ろしていたようだ。

    「夏休み明けに、レコード会社のオーディション受けることにしたんだ」

     するっと喉を通った言葉に、それを言った本人も驚いた。本当は、これをリンに相談したかったのにと、内心で考えるが、結局辿り着いたのは、まぁいいかという、てきとうな言葉だった。
    「……ライブハウスの音楽仲間の先輩にさ、誘われて、……もともと、その道に進みたいとも思ってたし」
     リンの方は見れなかった。だから、彼女がどんな顔をして自分の話を聞いているのか、レンには分からない。話をまとめきれないまま、思いついたままに口を開く。
    「俺さ、ここで花火見ながら、……曲作るの、好きなんだ。毎年、ここの花火を見ながら、曲考えてるんだ。……何曲がまとまってできることもあるし、一曲もできない年もあるけど……毎年見に来てる、ここで曲作ってんだ」
    「じゃあ……なんで今年、私を……?」
     ふるえる声でリンが問うてきたが、頭はうまく処理してくれなかった。しゃべらなきゃ、しゃべらなきゃという思いが、頭の中を支配する。ぐるぐる回る思考のなかに、リンの言葉が呑みこまれていく。
     言わなきゃ、今、言わなきゃ――。

     ヒュゥーと、高い音が鳴る。眼下の展望台がわっと湧いた。一発目が、軽い音を立てて、空に花開く。花火大会が始まったのだと、意識の隅で分かった。そのまま、二発、三発と、花火が続く。そのたびに空がカラフルに彩られ、それを見つめる人々の顔も彩られる。花火は徐々に高く高く空に昇っていく。それにつられて、空に響く音も低く力強くなる。人々の表情だってそうだ。
    「花火だけじゃなくてさ、下の人の顔見るのも面白くて……あ、別に変な意味じゃないんだけど……なんか、色んな顔して花火見てる人がいるんだよ」
    「……レン、」
    「展望台の手すりにつかまって見てる子供とか、隅っこのほうでぽつんと立ってるおっさんとか、子供を連れて河原に座りこむ人もいるし、友達同士でたまやーって叫んでる子とか、……真ん中の方で、寄り添ってるカップルとかさ、」
    「レン、ねえ、」
    「この空に打ち上がる花火の色や形と同じくらい、色んな人がここにいる。いろんな思いがここに集まってるんだ。その人たち一人一人の思いを見て、思い浮かんだ言葉を詩にして、歌をつけるんだ。……花火と一緒に弾けて咲いた想いってな、ホントにキレイなんだ――」
    「レン……レンったら……!」
    「俺の言葉やメロディなんかじゃ安っぽいくらいに、全部がキレイなんだ」

    「レン、お願いっ……! レン!」
     手を握られて、ようやく意識が浮上した。一気に現実に引き戻された頭で、唖然とリンを見つめる。
    「なに……? リン、」
     一瞬、戸惑ってしまうくらいに目の前の少女は綺麗だった。こちらを一心に見つめる瞳はどこまでもまっすぐで、思わず目をそらしたくなる。けど、視線に込められた力が強すぎて、そらせない。花火は次々と上がり、大きな大輪の花が、空に大きく咲き誇る。色とりどりの光が、リンの白い顔を照らした。言葉に出来ない思いがどっとあふれてきて、涙が出そうになる。きっとこれも「愛しい」ということなのだと、今のレンには知る由もない。

     腹の底に響いてくるような力強い花火の音とともに、リンは意を決したように口を開いた。
    「レン……キスしよう?」
     ドーン、ドーンと鳴り響く爆音と、降り注ぐ光の雨に、レンは言葉を失った。

    「キスして、レン。……キスしてくれたら私……このあとレンになんて言われても、絶対にうなずくから」
     花火を無心に見つめる人々と同じように、レンも、口を中途半端に開いたまま、リンを見つめた。青い瞳は薄暗い中でうるんでいるようにも見えたけれど、花火の光が次々とあふれてきて、判別できなかった。
    「お願い……レン」
     震えていたが、芯の強い声だった。

    「……いいの?」
     対する自分は、やっとの思いでそれだけ絞り出した。頭がちっとも回らない。まるで考える事を放棄したかのように、何も考えられなかった。
    「俺がこの後なんて言うか、分からないんだよ」
     吸い寄せられるように、青い瞳を見る。花火の光を映しだした大きな瞳は、それに照らされる自分の顔も映し出していた。静まり返った水面のように、その瞳は一片のゆがみもなくありのままのレンを映しだしていた。リンらしいと、ぽつっと思った。
    「いいよ……」

     言葉ともに、どちらともなく、顔を寄せ合った。
     ドーンと音が鳴り、金色のしだれ花火が空に咲いた。少し遅れて、パラパラと光が散る音が響く。音が夜空に吸い込まれて、展望台の観客たちがわっと歓声を上げて拍手をした。その音もやがて静まり、一瞬の静寂が訪れるまで、二人は長い間互いの唇を重ねていた。
     そしてつかの間の静寂が余韻を消し去り、次の一発がヒュウっと上がりはじめた頃。二人はようやく、互いの体温から身を引いた。ゆっくりと瞼を持ち上げて見たリンの瞳はやはり綺麗なままだった。彼女は、レンだけを見ていた。

    「リン。……別れよう」

     スターマインの最初の一発が打ち上がった音にのせて、レンは静かに呟いた。
     まるで堰を切ったかのように、夜空に次々と大輪が咲き乱れる。あふれる光と音に囲まれた、二人だけの世界で、レンは涙で揺れる視界のなか、ただ一人の少女をまっすぐに見つめた。
    「俺はこれから夢を追うよ。……だからリンにも、君の幸せを全力で追って欲しい」
     瞳いっぱいに溜まった涙はこらえきれずに頬をつうっと流れ落ちた。そのまま言葉なく涙を流し続ける彼女をこの上なく綺麗だと思った。花火の光に照らされたリンの姿を目に焼き付けておきたかったのに、くもった視界がそれを邪魔する。視界がふるえるのにつられたように、涙声もふるえていた。
    「リンが背中を押してくれたんだ。……勝手かもしれないけど、ありがとう」
     花火は鳴りやまない。スターマインもピークにさしかかり、巨大で色鮮やかな花火が次々と空に咲く。その一つ一つが、色んな人の思いの結晶。ひとつわがままを許してもらえるのだとしたら、今この瞬間に花開いた、今年のこの町一番の、この大きな花火が俺達の想いの結晶でありますようにと、身勝手に願った。

     ゆっくりと、リンが立ちあがる。最後の一発が、パラパラと空に散る。
    「さよなら」
     展望台から湧きあがった歓声のなか、どちらともなく呟いた。

     二人で上ってきた雑木林の坂道を、リンが一人で下りて行く。きっとその顔は涙でぐしゃぐしゃなのだろう、今の自分と同じように。振り返りもせずに、レンはただ空を見上げた。まるで今弾けて消えた花火の残像が目に焼き付いているように、その一点をじっと見る。
    「最初は、向日葵だと思ってたんだけどな、リン……君は花火みたいだ。

     俺が、世界で一番好きな花みたいな人なんだ」

     この日、この時を一生忘れない。全ての映像を、劣化もせず、美化もせず、レンは覚えているだろう。真っ暗な夏の夜空に、そう誓いを立てた。

     俺は今、この瞬間から、夢に向かって歩く事を誓います。
     

    鏡音レンオリジナル曲「Fire◎Flower」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4153727)のイメージ小説です。※作中ではけったろさんのラップアレンジver.(http://www.nicovideo.jp/watch/sm7813332)の歌詞を採用させていただいています。 ちょっと続きますが、よろしくお願いします。

    ライセンス:

    投稿日時:2010/10/10 22:54:28

    閲覧数:118

    カテゴリ:小説[編集]

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