酷い失恋で胸に秘めていた楽しかった恋愛の色が褪せてしまった。
そんな失恋のせいで純粋だった自分の心も壊されてしまったんじゃないか。
壊れた心のままじゃ世間のいう幸福なんて分からない。
思い返せば楽しい記憶ばかりが蘇ってくる。
複雑な迷路みたいに次から次に、君の笑顔が右に左に。
どっぷりと迷路に浸かってしまって僕は出られない、まるで迷子だ。
ようく見ると君の笑顔も何かが足りない気がする。僕の笑顔とは少し違う。
楽しみが抉られてちゃんとした君の笑顔を僕は思い出せているのかと疑問が漂う。
いや、でも顔は思い出せないけれど君の手の温もりは思い出せる。
今頃になって君の笑顔を全く見ていなかったなんて事実を知るんだな。

朝を迎えたら失恋が無かったことになっていはしないだろうか。
事実と妄想が混ざり合って、自分が今何処に立っているのかもよく分からない。
そういえば、あの時。
映画を見終わった後に君が何か言っていたっけ。
「いや、嘘、ごめん」としか聞き取れなかったんだけれど。


やっぱり思い出そうとしても君の顔は何処かが欠けているんだ。
でも細い指や顔じゃない部分は覚えている、理由は分からない。
こんなことも分からなかったら幸福なんて大きいものはもっと分からないか。
顔のない面影という君が僕の台所を横切る。
君がよく使っていた台所だったっけ。あれ、きちんと思い出せないや。
そんな風に僕の部屋にある君との思い出をなぞっていれば、心が痛む。
楽しかったはずなのに何故だろう、君がいない虚無感に襲われている。
最後に目についたのは君が書いて出て行った置手紙。
「本当に私を愛してくれていたのですか」と書かれて終わっている。
僕は君の何を愛していたんだろうって考え始める。

気付いたら一日も終わる頃、君との思い出はすべて無かったことになる。
赤く燃えるように僕の部屋は染まり、すべての記憶は浄化される。
映画を見終わった後の記憶がまた蘇ってきた。
あの時、君が言ったあの言葉がどれほど大事だったのか僕には分からない。
他の思い出には色があるのに、その思い出には色がないんだ。
まるで君の顔がぼやけているみたいに冷たい。

幾度も君と過ごして、君との幸福を分かち合ってきた。
その証は胸に刻まれているはずで、それすらも飛んで無くなったみたいで。
君が僕に告白しようとしていたことはあの置手紙で知った。
その時、初めて君の存在の大きさを感じた僕だった。

映画を見た日をもう一度繰り返すことができるなら、お願いできないだろうか。
もしも叶うならその時は心から君を抱きしめるのに。
叶わないと思っていたそんな願いを僕は手にしていたようだった。


まさかとある映画の席で君が隣に座っていたなんて思いもしなかったよ。


もう何もかも嫌になってしまうような、曇りに曇った朝。
僕の心も例外なく曇っていて晴れる兆しですら見えてこない。
君がいなくなって何日も経つけれど、あの時の幸福が僕には分からない。
ただ、君が側にいてくれるだけで良かったんだ、僕はそう理解している。
僕は君を愛していたわけじゃなく、君と僕の間にあった「温もり」を愛していた。
だから顔がまったく思い出せなかったんだ。
モノクロームで描かれた僕の思い出。
それは彩られるはずだった思い出の成れの果てである。
僕はどうして君の言葉に目を向けてやれなかったんだろう。
だめだ、そんなこと考えたら涙が止まらなくなっちゃうや。
あぁ、寒いな。よし頑張るか。僕はまた部屋を笑顔で出て行く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

モノクローム(ver1 歌詞 ver2解説)

君がいない黒
僕がいない白

混ざることのない明暗の境界
記憶が交錯する木の下で
僕はまた世界を廻す

笑顔で泣いていよう

tattoさんの歌詞募集に書かせて頂きました

愛の終着駅は何色か

閲覧数:152

投稿日:2017/12/16 22:53:38

文字数:1,470文字

カテゴリ:歌詞

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