そういって引っ張られた場所は、さっきも来た男性服の売っている店だった。ここが一番着せ替えさせられた気がする。

「これとこれ、ください。あと、この服にあうアクセサリーって、どんな感じですかね?」
よくよくマスターの声に耳を傾けると、マスターはどうやら俺の服を選んでくれてるみたいだ。

「マスター、ありがとうございます。」
ちょっとカッコイイ俺を意識して、マスターに微笑んでみた。

「ちょ、あんた何しまりのない顔してんのよ!」
マスターはちょっとだけ顔を赤くして、俺に注意する。俺、しまりのない顔してたのかな…。

「うーん、男物はいまいちわからないわねぇ…。」
今度は靴売り場。マスターはなにやら男物の靴で悩んでいる様子。


「あれ、南じゃん。なにやってんの?」
マスターがあれでもないこれでもないと悩んでいると、後ろから声を掛けられた。

「ん?ああ、真。そっちこそなにやってんの?」
知り合いなのだろうか、マスターはその男性に振り返る。
なんだか、お似合いじゃないか?この二人。

「俺?靴買おうと思って。ここ靴売り場だし。」
もっともだと思う。でも、俺邪魔かな…。

「あ、ねえ、KAITOの格好に似合う靴選んでよ。あんた服のセンスだけはいいじゃん。」

「一言余計だよ…。
へー、こいつがお前んちのKAITO?カッコイイじゃん。まあ、うちのがくぽには負けるけどな。」
げんなりした様子を見せる男性。けど、俺を見るとちょっと誇らしげに誰かを自慢する。がくぽ?

「まあまあ。お宅の自慢は聞きたくないから、頼むよ。」
男性の自慢をさらっと流し、マスターは言う。(男らしいです、マスター!)

「はいはい。へー、カッコイイ服着せてるんだな。結構金かけてるんじゃん。」
男性が俺を見る。俺、カッコイイ服着てるんだ…!!感動!

「そりゃそうでしょ。こうやって出かけたときにセンスが見られるのはKAITOじゃなくてマスターである私だもん。真だって、がくぽの格好気にするでしょ?それと一緒よ。」
しれっとマスターは言う。それ、結構俺の心に突き刺さるんですけど…。

「そんなもんか。」
マスターの言葉に男性は返すと、俺に靴のサイズを聞いてきた。知らない…。

「ちょっとKAITO預けるわね。私、他に見たいものがあるの。幾つか見繕ったらメール頂戴。」
男性が本格的に靴を見始めると、マスターは長くなると踏んだのか、急にそんなことを言い出した。自分のボーカロイドを他人に預けるなんて、どれだけ冷たいんだ!マスターは!!

「お、おい!南!ふざけるのもいい加減に……!って、聞いてないか。南だもんな。お前も大変だな、あんなマイペースなマスター持って。」
マスターの背中に声を掛ける男性だが、マスターは聞こえているのか聞こえていないのか、軽く手を振るばかりでまるで取り合おうとはしない。そのまま、マスターはエスカレーターのほうに向かった。いっぱい見てきたのに、まだなんか用があるんですか。

「い、いえ、そんなことはない、ですけど…。」

「ふーん、そっか。南は幸せだな、お前みたいな素直なボーカロイドを持って。」
優しい目をして、男性は語る。そうですか?うれしいなぁ。

「ほんっと、お前も素直だな。顔に出てるぞ。」
男性は笑うと、俺の格好を一度見て、靴選びに入る。なんだかんだ言って、この人面倒見良いのかな。

「そ、そうですか。」



「あの…、マスターとは、同じ学校なんですか?」
さっきから聞きたかった質問を、俺は思い切ってぶつけてみた。

「ん?うん、そうだよ。
南とは…、サークルが同じなんだよ。」
彼の考えるときの癖なのだろう、視線を上に向け、人差し指で頬を掻く。

「マスター、どんなサークルに入っているんですか?マスターのことは、家に居るとき以外を知らないので、教えてほしいです。」
なんだか急に淋しくなって、俺は地面とにらめっこしながら尋ねた。

「驚くなよ?
天文だ。俺な、パソコンいじるの好きだけど、空を眺めるのも空きなんだ。だから、天文入ったんだ。
最初はさ、大人しい子なのかな、って思ったけど、結構しゃべるのな、あいつ。」
思い出し笑いだろう、うれしそうに男性は話す。俺の知らないマスターを、この人は知っている。そう思うと、俺には無いはずの心臓が、軋んで痛んでいるような気がした。


「で、家ではどんなんだよ。もしかして、家でもフリーダムなのか、あいつ。サークルでもわがまま散らしてるけど、家のほうが酷いのか?」
落ち込んだ俺を知ってか知らずか、質問を投げかけてくる。

「マスターは、優しいですよ。俺の大好きな歌を歌わせてくれるし、アイスもくれるし。
マスターの一番好きなところは、どんな時でも俺たちを対等の存在として扱ってくれるところです。」
胸元に手を合わせ、俺は普段のマスターを思い浮かべる。わがままで、唯我独尊で、自己中心的で、マイペースで、頭がよくて、優しい、俺たちのマスター。

「そっか、なんか安心したよ。お前にも、南にも。」
母親のような慈愛に満ちた瞳で、彼、真さんは呟いた。



「おお、これいいじゃん!KAITO似合ってるよ!」
高そうな革靴を試着し、俺は鏡を見てみる。へえ、白いジャケットには白い革靴が合うんだ。

「じゃあ、俺の任務はこれで終了だな。」
そう言って携帯電話を取り出す真さん。しばらくして、つながったのか、真さんは口を開く。

「おお、良いの見つかったぜ。なんつーかな、まさにイケメンってやつだ。」
イケメン…。確か、”イケてるメンズ”の略だったような気がする。うれしいな。

「ん?ああ、KAITOも満更でもないみたいだな。なぁ、KAITO。」
俺に携帯電話を向けてくる。話せってことだろうか。

「ま、マスター、俺、うれしいです。」
なんだか、頬が熱い。たぶん、気分が高揚しているからだろう。

『そう、よかった。今そっちに行くから、ちょっと待っててくれる?』
はい、と俺は答えて電話を切り、男性に返す。

「南、何だって?」

「もうすぐこっちに来るそうです。」

「そうか。」



「KAITO、お待たせ。真、ありがとう。いくら?」
戻ってきたマスターは特に何も手にしていなかった。ただどっかに見に行ってただけ?
財布を取り出し、マスターは男性に聞く。マスター、まだ会計してないです。

「値札を見ると良いと思うぞ。」
ほれ。と、マスターに俺がさっきまで試着していた靴を渡す。

「高いような、そうでもないような…。」
ちょっと、なんでこんな微妙な値段なのよ。と、マスターが憤慨する。すごく理不尽だと思います。

「おいおい、靴の値段で人に当たるなよ…。」
真さんが半眼になってマスターに言う。

「じゃあ、会計行ってくる。」
靴を持って、マスターはそのまま会計に向かう。

「お、おいおい!KAITOに合うか確かめないのかよ!」
さすがに驚いたらしい真さんがマスターに突っ込む。

「真、信頼してるよ。」
茶目っ気を含んだその瞳には、マスターの、真さんへの信頼が見えた気がした。

「へー、KAITOやっぱ似合うじゃん。」
会計を済ませ、自分の靴を買うという真さんと別れた後、マスターは早速俺に靴を履かせた。

「ありがとうございます、マスター。でも、何で急に、服なんか…?」
実は、さっきから気になっていた。だってマスター、俺の服しか買ってないじゃないですか。

「ん。KAITOを買って、そろそろ2年くらいになるかなーって思って。」
え、それはつまり…?

「うん、KAITOのためだよ。」
今日、先輩に振られたから予定を前倒ししたの。と、マスターは言う。

でも、俺はマスターのそんな呟きなんて聞いてなかった。だって、すごくうれしい。マスター、いつも忙しそうだから、わがままなんていえないし…。

「あれ?ってことは、ミクに言ってたのって…?」
ふと思い出した。女同士の秘密の会話って、もしかして…?

「当たり。今日はKAITOの服を新調するって言ったの。次は…、MEIKOかな。」
あ…、やっぱ、俺だけじゃないんだ。忘れかけていた痛みが、またぶり返して来た。

「マスター、俺…、俺だけを…。」
俺、マスターに何を言おうとしてるんだ…?

「KAITO、あの、必死の告白はうれしいんだけど、場所を移そうか?」
恥ずかしそうにマスターが言う。俺はあわてて周りを見ると、周りの女性達がなんだかじっと見ていた。

「そ、そうですね…。」
なんともいえない空気だったので、俺とマスターは公園に移動した。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります

デート 続き。3

続きです。2の方に文章をちょっと追加したので、あれ?と思った方は『デート 続き。2』の追加部分を読んでみてください。
前の部分は変えてないので。

あー、次はカイメイの話を書きたいなぁ。幼馴染設定で。

余談ですが、マスターたちの名前は苗字です。これ、元ネタ知ってる人いるかな…?

まだ、続きます。

閲覧数:360

投稿日:2009/04/11 23:55:07

文字数:3,548文字

カテゴリ:小説

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  • 氷雨=*Fortuna†

    氷雨=*Fortuna†

    ご意見・ご感想

    フォルトゥーナです。
    何て言うか、もう……KAITOが可愛すぎる!良いですね!
    キャラ達のやりとりも面白いです!
    最後のKAITOが告白しそうだった所に出くわしたら
    絶対ガン見します(笑)。

    2009/04/12 01:13:18

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