《――――――――――ガギィンっ!!》
鋭い金属音と共に、未来の昆虫の腕とリンのグレネードランチャーがぶつかり合い、火花を散らす。
先刻の激突からわずか数分で回復した二人は、再びその得物を振り回していた。
未来のヤンバルテナガコガネの前脚が地を削れば、リンのアームストロング砲が天に風穴を開ける。
未来のカマキリの鎌が街灯を切り刻めば、リンのグレネードランチャーが周囲の建物を蜂の巣にする。
周囲の建築物にはすさまじい被害が出ていた。まるでそこだけ大地震でも起きたのではないかと錯覚するほどの。
だがそれでいて、未来達自身にはそこまでダメージが入っていない。もっと言えば、外傷らしい外傷は全く受けていなかった。爆発で脳を揺らされたり、鋭い爪で鉄板の盾を削られることはあっても、二人の身体には傷一つついていなかった。
それほどまでに―――――この二人の獣憑きは実力が拮抗していたのだ。
自分と対等に戦える存在。未来はそんな相手に苛立ちつつも、ほんの少しだけ感動を覚えていた。
どんな敵であろうと一撃で叩き潰せてしまうほどの力を持つ未来にとって、今の自分より強いものなどいないというのが彼女の中での常識だった。
その常識を―――――真正面から突き破ってくるほどの強さ。殺してしまうのも、ほんの少し惜しいと思ってしまうほど。
(……とはいえ、こいつも人間を守ろうとする者の一人……潰さないわけにはいかないのよね……)
もしもリンも、人間を滅ぼす側に回ってくれていたら。これほど心強い味方もいなかったであろうに。
洗脳してこちら側に引き入れようとも考えた。しかし話術が苦手な未来にとって、洗脳はリンを殺すよりも難しいことと言っても過言ではない。
彼女たちは敵対する運命だったともいえる。自然に同調する昆虫と、自然に反抗する機械。
だからこそ、ケリを付けなければ。
『……やるか!!』
一言つぶやいた未来。急に足を止め、低く構えた。
『!?』
思わずリンも足を止める。だがその銃口は、未来の脳天を狙ったままだ。
未来の腕がカマキリの鎌に変わり、それを胸の前でそろえて構えた。
そして――――――――――
『―――――っ!!?』
――――――――――突如巨大な翅が、未来の背中で展開された。
今まで開いていたオニヤンマの翅ではない。オニヤンマとは比べ物にならないほど巨大な、未来の体より遥かに巨大な翅だ。
黒い帯のような紋様が描かれ、まるで瞳の様にリンを睨みつける。
その圧倒的存在感。余りにも巨大なその翅は、未来の存在感すらも増大させる。
(……何……なんなのあれ……!?)
衝撃と困惑のあまり動けずにいるリン。
ミクを真っ直ぐに狙っていた銃口は、心の揺れからかわずかにぶれ始めた。
――――――――――その瞬間を、未来は見逃さなかった。
『シッ!!』
『え!?』
まるでバネのように弾けた未来の鎌。リンが反応するよりも速く鎌はリンの体を捕え、一気に未来の元まで引き寄せる。
がっちりと万力の様に締め付け、リンの体を固めた。『クロカタゾウムシ』の鎧で硬化した『オオカマキリ』の鎌。リンの力ではとてもではないが破壊できる代物ではない。
その頑丈な鎌で絞めつけられたリンは身動き一つできない状況になってしまった。
(な……何!? 何をするつもりなの!?)
混乱、困惑。リンが動けないその状況で―――――未来は次の行動に移った。
(……っ!?)
リンは不意に悪寒を感じた。全身を鳥肌が覆う。
そして次の瞬間―――――
《――――――――――守らなきゃ!!》
まるで全身の細胞がそう叫んだかのような感覚―――瞬時に首筋を鉄板でガードする。
鉄板のガードが完成するのとほぼ同時に――――――
《ガギンッ!!!》
―――――金属同士がぶつかったような音を立てて、未来の『牙』が鉄板に食い込んだ。
メリメリ、と音を立てて鉄板がひしゃげる。凄まじい力だ。
頭の後ろから聞こえる嫌な音に耐えながら、必死で首の筋肉に力を込めるリン。少しでも気を抜けば、鉄板の盾は瞬く間に軟化し破壊されるだろう。
しばらくして、ふっと圧が抜けた。恐る恐る、未来を見上げる。
『……うっ!?』
そこには、あまりにも異形な顔立ちになった未来がいた。
口は耳元まで大きく裂け、上唇は盾の様に硬化していた。
口の脇からは鋸の様な刃をずらりと並べた巨大な牙が生えている。まるでクワガタか何かのようだ。
更に奥には数本の触角のようなものが生え、今か今かと獲物を待ち構えているかのように蠢いている。
リンは本能的に悟った―――――これは紛れもなく、『リンを食い殺すための形態』なのだと。
『……まさか《祈り虫》すらも防がれるとはね』
『祈り虫……?』
『私のタイマン勝負での奥の手の名前よ。同時に、数百年前とある国で使われていた、『カマキリ』の渾名なの。カマキリが獲物を待伏せる時の姿が、まるで祈りを捧げる修道者の様だからと名付けられたそうよ。笑っちゃうでしょ? 昆虫界きってのハンターが修道者だってさ』
『……』
『……この技はね、実際のオオカマキリの雌が巨大な獲物を捕らえる様をモデルにした必殺技なの。『オオカマキリ』の翅を広げて相手を威嚇、一時的な麻痺状態に陥れて、その瞬間に『オオカマキリ』の鎌で相手を捕獲。そして首や脊髄などの急所を齧り取る、って技なんだ。本物のカマキリの場合は昆虫の神経の塊を齧り取るんだけど……ってどうでもいいか、そんなことは』
再び鎌に力を入れ、リンの首を露出させた未来。リンもまた、鉄板を再生させる。
『……でも驚いたわ。まさかこの技まで受け止めることができるなんて。今までそんな奴はいなかったもの。認めるわ、あんたは強い。……今なら特別に許すわ、私たちと一緒に人間を滅ぼさない?』
『……誰がっ……誰があんたたちなんかとっ!!!』
未来の優しい誘い―――あくまで表向きは、だが―――を、リンは激しく突っぱねた。
未来はその答えにほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべたが―――――すぐにどこか狂ったような、満面の笑みへと変えた。
『そ♪じゃ、遠慮なく喰わせていただくわ♪生きた機械を宿した人間……どんな味がするのかしらね?』
《ガギンッ!!》
『あうっ!!?』
再びリンの首筋に牙が打ち込まれる。―――――が、今度は一度だけではなかった。
《ガヅンッ!! ガギッ!! メギッ!! ミキッ!!》
何度も何度も、凄まじい力で噛付きを繰り返している。リンの首を守る鉄板をぶち抜くつもりだ!
『う~ん……なかなか硬いわね……これならどう……だっ!!』
幾度も噛付かれてべっこりとへこんだ鉄板の歯形に合わせるように、再び力強く牙を打ち込む未来。破壊されるのも時間の問題だ。
耳元で響く嫌な金属音に耐えながら、リンは必至に対抗策を探った。
グレネードランチャーを使う? 駄目だ、腕は頭ごと鎌で押さえられている。
背中からミサイルでも撃つか? 無理だ、ミサイル発射は防御の片手間に出来るほどのスキルではない。撃つ前に首を食いちぎられる。
首の鉄板を更に硬化して時間を稼ぐ? 馬鹿げてる、現状維持したところで何も変わらない。
ダメだ。少なくともリンが考え得る策の中では、『リン一人でこの状況を打破する』策など存在しなかった。
頭の後ろから『バキン』といやな音が響いた。まずい。もう首の盾は限界だ。再生だって追いつかない。
(もうダメ……このままじゃ……このままじゃやられちゃうよぉ……)
『魔蟲』に挑む前にレンと二人で決めたことがあった。それは『二人で相手を分断し、できる限り互いを頼らない』ということ。
頼ってしまえば、必然的に相手も手を組んでしまうだろう。敵は19億人をあの世に送った大虐殺タッグ。手を組まれたら勝ち目は薄い。
だがその決め事すらも揺るがすほどに、リンは追い込まれてしまっていた。
そして――――――――――限界が訪れる。
《―――――――――――――――ゴゥッ!!》
『!?』
突如、リンの腰と太腿から青い炎が噴き出た。―――――ジェット噴射の炎だ。
『もう……ムリっ……レン……ごめんっ……!!』
『なぁに?今更命乞い?もう遅――――――――――――――――ひゃっ!!?』
ドウ、と轟音を立て、二人の体が凄まじい速度で空に打ち上げられる。
リンの精神は崩壊寸前だった。あと一歩で殺される。あと一咬みされたら死ぬ。人間を守るために戦うことができない。レンに―――――遭うこともできない。
助けを求めたリンの身体は、ほぼ無意識の内に飛行装置を展開していた。それは戦闘機などで言えば―――――緊急脱出装置を起動したような状態。
『ぐっ……こんの小娘が……ってうぷぷぷぷぷきぼちわるいいいい速い速い速いいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!』
オニヤンマの力による飛行にすっかり慣れた未来ですらも酔わせるほどの物凄い揺さぶり。
だが、決してでたらめに動いているわけではない。無意識のまま飛行していたから蛇行しているのであって、実際にはたった一つの方向に向けて飛んでいこうとしていた。
即ち―――――山の向こう、レンとルカが戦っている場所へ―――――――――――――――!!
四獣物語~獣憑戦争編⑤~
前回の投稿がルカ誕ってマジっすか……(衝撃)
こんにちはTurndogです。
いやいや聞いてくださいよ。
今年の2月から『東方プロレスwithVOCALOID』って動画を投稿しててですね!
それでバトルつくるのに必要な厨二成分が切れちゃってて!(言い訳①)
他のほのぼの投稿しようにもキリが悪かったし!(言い訳②)
あとヴォカロ町本編も書かなきゃいけなかったし!(言い訳③)
はい、屁理屈乙ってね。
最近ようやくプロレス用とバトル用の厨二成分の両立ができるようになってきたので、またポチポチ書いていきますよ。
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