「カイトー!」
画面の向こうでマスターに呼ばれ、俺はとてとてとモニターに駆け寄った。
「今日誕生日だし、カイトに新しい曲のプレゼントだよ!」
「本当ですか! 嬉しいです、マスター!」
俺の名はKAITO。男性型ボーカロイドで、このマスター(20代サラリーマン)に買われて随分経つ。が、後から来た他のボーカロイド達の方が持ち歌は多い。そもそも桁から違う。
「という訳で、はいデータ!」
俺はポン、と目の前に現れたファイルを開く。
タイトルは『闇ノ王』。
・・・なんか、嫌な予感しかしない。
歌詞をざっと見て、嫌な予感が膨れ上がる。
恐る恐る聞いたメロディーによって、それは現実の物になった。
「マスター! これ、リンの奴の替え歌じゃん! こういう時って新しくオリジナル作るんじゃないの!?」
「そんな能力はない!」
マスターはなんだか清々しい程に言い切ってくれやがった。
「嘘つけーーー!!!」
メイコにもミクにもリンにもレンにもマスターのオリジナル曲はある。1番最近に来たルカにもある。一応俺にもある・・・ルカに負けるけど。
「マスター、単に曲作るの面倒なだけでしょ!?」
「あ、バレた?」
・・・マスター、笑顔で言わないでください。
「PV撮るから準備しといてね! 他のみんなも出すけど、主役はカイトだから!」
なんだかもう、ツッコミをする気が失せた。というか、疲れた。
結局、俺はそのままPV撮影に引っ張り出された。


『あーっはっはっは!』
歌の冒頭は、俺の高笑いと台詞だった―――二つもリンのパクリなのだが。
『さあ、ひざまずくがいい!』
満月をバックに吸血鬼の格好で台詞を言った俺を、メイコが見つけた。
『・・・・ ・・・』
「・・・・ ・・・」
そんな、可哀相な物を見るような目で俺を見ないでください。
『・・・すみません』
その後に付け加えられた台詞と共に、メイコに土下座した。後でリンにも謝っておこう。

が、メイコはそれで終わらせてはくれなかった。
パーン! スパパーン!
いっそ見事な音を立て、メイコの持っていた台本(を丸めて殺傷能力を高めた物)が俺の頭に炸裂した。
地味に痛いけど、それを口に出す訳にはいかない。

マスター、カメラ止めて!
と内心で叫んだけど、マスターは
「面白いからおk」
と俺を切り捨てた。
結局頭にたんこぶを3つ乗せて、震えながらも撮影続行。
あれ、視界が歪んでる・・・?
マスター、目から塩辛い水まで零れてきてます。



『昔々ある所に~、栄華を極めた王国の~』
月夜をバックに歌が始まった。たんこぶは気力で引っ込める。
『闇の夜にぃ暗躍するは~、青い髪をした吸血鬼~』
マスターの指示通りに牙(ゴム製)を覗かる。どんな風に見えるのかはあえて考えないようにした。
『白く美しい喉求め~、』
ミクの首筋に牙を近付ける・・・謝罪対象が増えた。
『今宵、闇に踊りましょう~』
吸血鬼のベッド、ということで棺桶からのそりと起き上がる。
『赤く麗しい血に飢えて~、鋭き牙は誰ぞ狙う』
夜空をバックに優雅にワイングラスを傾ける。けど、中身がトマトジュースだからイマイチ決まらない。

『鉄分足りなくなった日は~、そこの彼女をナンパします』
驚いたことに、相手役はメイコだった。無言のメイコから殺気に似た黒いオーラを感じるのは、俺の単なる気のせいだと思いたい。
『ビンタで張り倒された日は~、』
え、ちょっと待ってメイコ。ここの歌詞はあくまでも「ビンタ」のはずだよね?
その構えは何?

バコ―――ン☆

なんでグーパンチが飛んでくるわけ?(しかも顔面クリティカルヒット)
『すごすご帰ります~』
と歌いながらも実際は滑空中。あ、歯が抜けた。
『嗚呼、血が欲しい』
切実な叫び。このままだと貧血とか精神的ダメージとかで倒れる。絶対。

『闇ノ王~、優雅に舞う~、鮮やかな血を求め』
いわゆるどや顔でキメてみる。吹き抜ける風が冷たい。人の涙腺を崩壊させるのが仕事なのに、俺の涙腺が崩壊した。
『周りの小さな蝙蝠は~、嗚呼全然協力してくれない』
しゃがみこんだ俺の視界に二つの影が割り込む。同時に肩を叩かれたので顔を上げると、蝙蝠のコスチュームを着たリンレンだった。リンは
「ドンマイ!」
と言わんばかりに指をグッと突き出してるけど、その顔は吹き出す寸前だった。レンに関しては完全に笑ってる。畜生『悪ノ双子』め! 双子は謝罪対象から削除。決定。

「はーいストップ!」
これから2番に入ろうというところで、マスターからストップが入った。
「あれ?マスター、まだ歌は続くはずですよね?」
「めんどい。またいつかね!」
マスター、今日、俺の誕生日・・・
がっくりと膝をついた俺に、メイコが茶色い何かを差し出した。
「今日、ヴァレンタインでしょう? はい、これ・・・味の保証はしないけど」
最後の一言は俺の空耳と思う事にして、メイコのくれたブラウニーをほお張る。美味しい。
さっきとは違う意味で涙腺崩壊になった俺を、みんなが優しく見つめてくれていた。

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  • 非営利目的に限ります
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【KAITO誕生日企画】闇ノ王【他意はありません、一応】

ごめんKAITO、でも悪気はないんだ。
お誕生日おめでとう!

閲覧数:280

投稿日:2011/02/14 23:49:32

文字数:2,094文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • アリサ

    アリサ

    ご意見・ご感想

    こんばんは~


    メッセージの方から飛んできましたww

    『闇ノ王』は結構聴いてた曲だったので楽しく読めましたww
    誕生日なのに、兄さん悲惨……

    リンレンの蝙蝠かぁいいww



    それでは失礼しました~

    2011/05/02 22:03:20

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