一方こちらはミクと雅彦。二人も家に帰って来ていた。
 「ミク、先にお風呂、入っていて良いよ」
 「分かりました、雅彦さん」
 そういって雅彦は自分の部屋に入る。その様子を見ていたミク。
 (雅彦さん…)
 ミクもまた、雅彦が悩んでいることを確信していた。雅彦の普段の振舞いは刺される前と全く変わっていない。しかし、ミクは雅彦から断片的に聞いた話を総合すれば、間違い無く悩んでいると思っていた。恐らく、雅彦はそのことを気取られまいと振舞っているのだろう。

 雅彦は、自分の部屋に入ると、ベッドに倒れ込んだ。そのまましばらく動かない。
 (…くそ…)
 野口、ミクの予想通り、雅彦は悩んでいた。雅彦がここまで深く悩んだのは、かつて、ミクとどうすれば結ばれるかを考えた時以来である。いや、今はその時よりもっと深く悩んでいるかもしれない。
 (僕は…、世界を変えてしまった存在として…、これからどうすれば良いんだろう?)
 雅彦の悩みはそれだった。確かに、雅彦がその決断をしたのは、ミクと結ばれるためという止むに止まれぬ事情があったからだが、その決断を下した当時は、こんな事態になることは予想できなかった。あの時の判断は間違っていたのだろうか?あの時、別の解決策を考えたほうが良かったのだろうか?雅彦は、このことについて考える様になってから、時間の許す限り考えていたが、その答えは全く浮かばなかった。今の雅彦は何かをしなければならない。それは分かっていた。しかし、何をすれば良いのかは分からない。雅彦の思考は完全に袋小路に入っていた。この悩みは、解決できなければ、何れは雅彦を蝕んでいき、そのせいで今の生活が破綻をきたす可能性もあり得る。しかし、その回避策が出てこない。そもそも、解決策があるのか?という根本的な問題から考えなければならないのだろうか?
 (多分、このまま隠し通すことはできない気がする…、いや、既にミクや野口先輩は感づいているかもしれない)
 そう考える雅彦。二人とも雅彦との付き合いも、接する時間も長いし、勘も鋭い。気が付いているが、確証が無い、等の理由であえて口にしていない可能性もあり得るのだ。恐らく、二人の次くらいに接する時間の長い他のボーカロイドが気がつくのも時間の問題だと思われる。
 (くっ…、僕は…)

 (本当に…、私は…、どうすれば…)
 雅彦の部屋の扉を前に悩むミク。雅彦の力になりたいという思いはあるが、ではどうすれば力になるか、全く考えが浮かばない。
 「あら、ミク、雅彦君の部屋の前でどうしたの?」
 MEIKOがミクに気が付いたらしく、声をかけてきた。
 「あ、いえ、なんでもないです」
 しどろもどろになるミク。そんなミクを不思議そうに見るMEIKO。
 「…何かあったの?」
 「本当に、なんでも無いです」
 ミクを疑わしげに見るMEIKO。
 「…今、お風呂は誰も入っていないから、入って来なさい」
 「分かった。MEIKO姉さん」

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初音ミクとパラダイムシフト2 3章5節

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投稿日:2017/02/24 23:56:09

文字数:1,241文字

カテゴリ:小説

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