そして、ライブの最終日。
 「…お待たせしました」
 「おう」
 神波と神波の量産型のミクの二人が高野が指定した集合場所で待っていた高野に手を振った。高野が気がついたらしく、二人の方に向き直る。
 「…時間ジャストだな」
 よく見ると、高野は普段の格好とさほど変わらないが、よく見ると所々にミク関係のグッズを身に着けているのが分かる。
 「先輩、最初に代金とチケットを…」
 「おうよ」
 そういう高野。すると三人の間でデータのやり取りが行われ、代金とチケットのやり取りが一瞬で完了した。これは人類全てがアンドロイドの身体を持ったがゆえにできる芸当である。
 「よし、行くか。…俺が言った奴、ちゃんと持ってきたよな?」
 『はい』
 ペンライトを見せる神波と量産型のミク。それを確認した高野は、三人の先頭に立って歩き出す。
 「ミクちゃん、楽しみか?」
 「はい」
 神波の量産型のミクが嬉しそうに言う。
 「…ペンライトの振り方とか合いの手は俺や周囲に合わせりゃ良いから」
 「はい」
 「…なあ、シン?」
 「はい?」
 「…あんま嬉しそうじゃねえ気がするが?」
 「!!」
 「…分っかりやすいな。確かに今回の会場行き、俺が持ちかけた時からあまり乗り気じゃなかったしな」
 「…」
 「ミクちゃん、シンはずっとこんな感じだったか?」
 「え?ええっと…」
 「否定はしませんよ。…先輩、ミクにそんな質問したら困るの、知ってると思いましたけど?」
 戸惑っている量産型のミクにかわって神波がこたえる。
 「…ま、自分に合うか合わねえかを判断するのは、今回行ってみてから考えても遅くねえと思うぜ」
 「…はい」
 「安田教授も最初はそうだったらしいが、今回の俺たちみたいにライブに行ったらミクさんに一目惚れしたんだ、そこまでいかなくとも、ライブに対する考え方が変わるのは間違いねえだろう」
 (…先輩が今回の体験がマイナスに働く可能性は考慮しなかったのかな?)
 そう思う神波。神波は家にいた方が落ち着く方であり、必要なければ外には出ない方で、ライブのように家にいながら同じ体験ができるなら、家で良いと思ってしまう性格だった。この前の同人即売会は、自分の曲を出した関係という理由で会場に行っていた。ただ、神波の量産型のミクはもっと外に出たいと思っているのは薄々分かっており、マスターである自分の意志を尊重しすぎているせいで彼に遠慮しており、量産型のミクが不満に思っていることも分かっていた。
 (…とにかく、今日行けばその辺りは分かると思う)
 楽しそうに会話する高野と量産型のミクを見ながらそう思う神波だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

初音ミクとリンクする世界 初音ミク編 1章22節

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投稿日:2017/04/10 23:56:18

文字数:1,108文字

カテゴリ:小説

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