僕はうちについた後、携帯電話で『ハチミツ』のホームページを見た。リリスの言葉が嬉しかったのだろう、ホームページでリリスのブログをチェックした。そこに書かれているのは『友達とご飯に行ったこと』や『お店でこんなことがありました』や『お店の宣伝』だった。
僕は今日のことを書きたくなって、コメント欄に…
『リリスちゃん、今日はありがとう。もっとお話したかったって言ってもらえて嬉しかった。また今度、お店に行くね。』
と、書いた。
そのコメント欄には名前(ニックネーム)を記入することができた。僕の本名は『串原ハヤト』っていうのだけど、そのまま書いても誰だか解らないだろうし、
ニックネームにしようと思った。
学生時代のあだ名は『クッシー』や『ハト』とかだったのだけど、それもありきたりだしオリジナリティを出したかった。そこで串原の『ハラ』とハヤトの『ト』を足して『ハラト』という新しいニックネームを作った。
それでも誰だかは解らないし、明かそうとも思っていなかった。ただ今の気持ちを書き残したかっただけなのだから。
五月も終わり、梅雨の季節が始まろうしていたある日、中山センパイが
「串原くん、これあげるよ。オレは多分、もう行かないだろうし」
と、差し出したのは二枚のポイントカードだった。言い忘れていたがファミレス『はちみつの瓶』にはポイントカードというものがある
食事や飲み物を頼んで会計の際、それを出すと1000円毎に1ポイント付けてくれる。
そして、それが15ポイント貯まると好きなウェイトレスとツーショット写メが撮れるというサービスがあるらしい。それもまた『ありきたり』なのかもしれないが。
貰ったのはいいけど僕も一人で『ハチミツ』に行こうとは思ってなかった。
だけど、ホームページを見ているうちにあることに気づいた。六月といえば、たしかリリスの誕生日ではないだろうか?
ファミレス『はちみつの瓶』では、いろいろなイベントをやっているらしいのだ。その一つが『バースデーイベント』
その日、バースデーのウェイトレスがいつもとは違う衣装を着てお店に出てくるというイベントだ。
どんなモノなのか僕は少し興味があった。しかも自分がちょっとだけ気になっている『リリス』の誕生日だ。参加したいという気持ちは十分にある。
貰ったポイントカードのうち一枚は15ポイント貯まっている。これを使えばリリスと写メが撮れるのだ。でも『ツーショット…?』
ちょっとだけ考えてしまった。僕が写真が苦手なのは子供の頃から変わっていない。
まあ、その時はどうにかなるだろう。そんな軽い気持ちだったのを覚えてる。だけど、ホームページを見る限りまだイベントを行う予定はないようだ。
 
そして、六月十五日にまた『ハチミツ』のホームページを開いてみると、その『おしらせ』が書いてあった。
「リリス・バースデーイベントのおしらせ」
六月三十日、十七時~二十三時までの間、リリスの誕生日イベントの行うようだ。
僕は会社で中村センパイを誘ってみようと思っていた。しかし、センパイはその日に別の予定があるようだ。しかたなく僕は一人で行くことに決めた。
まさか、来店三回目にして一人で入るのがはじめてで、しかもイベントの日になるとは思ってもなかった。
ふと、ホームページの中でリリスのブログを見ているうちに気がついた。コメントに対して返事を書いているようだ。
僕への返事もあるか気になって探してみた。…あった。
『はああぁ~!誰かわかりました!はい!また、いらっしゃってください。お待ちしてます』
ホントに解っているのか疑問に思ったが、とても嬉しかった。なんだろう、この気持ちは…。
『恋』にも似ているような感じ。
でも、まさかこんなに歳の離れた『女の子』に恋をするなんて考えられない。『気のせいだ…』そう心に言い聞かせた。
そして、月日はながれバースデーイベントの当日となった。イベント開始は十七時からだけど僕は少し早めに店に向かった。店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ、何名さまですか?」
一人のウェイトレスが案内してくれた。
まだ、見たことのない女の子だ。
「一人なんだけど…」
「カウンターでも、よろしいですか?」
「はい」
このファミレスには『カウンター』がある。お一人様の客は、だいたいそっちに座っている。今日、案内をしてくれたウェイトレスは名前が『あこ』というらしい。名札を見た。
「本日はウェイトレスのリリスちゃんがお誕生日なのです」
メニューを持ってきてくれた、あこちゃんが僕にそう話した。
「あ、うん。そうなんだね、ホームページを見たんだ」
「お客様はご存じでしたか?リリスちゃん、喜んでくれると思います」
はじめてのイベントで少しドキドキしていた僕だけど、あこちゃんと話しているうちにだんだん緊張がほぐれてきた。昼間から酒を飲むのは気が引けたので、とりあえずドリンクを頼んだ。
そうしてるうちに時刻は十七時になっていた。イベントが十七時からというのは『リリスちゃんが出勤する時間』を指しているようだ。そこから二十三時までということは、言い方を代えれば『六時間勤務』ということなのだろう。僕は学生時代でもアルバイトとかで『飲食店』で働いたことはないので、そのへんのことはよく解らない。
僕は本を読みながら、あこちゃんが持ってきてくれたドリンクを飲んでいた。すると奥から聞き覚えのある少し高い笑い声が聞こえた。
リリスちゃんだ。

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【小説】地下アイドルを推しています。第一章③

小説を書いてみた。
その第一章③です。

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投稿日:2018/06/06 10:54:52

文字数:2,252文字

カテゴリ:小説

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