「あ、マスター」
 戻ってきた神波を彼の量産型のミクが迎える。
 「マスター、どこに行かれてたんですか?」
 「…ちょっと会場の外の空気を吸いにな」
 一緒に戻ってきた高野が話す。
 「そうなんですか?」
 「…そうだよ」
 少し複雑そうな表情をする神波。
 (…?)
 その表情を見て、戸惑う量産型のミクだった。

 「安田教授、どちらに?」
 一方、自分の席に戻った雅彦にも、相沢が声をかけていた。
 「ああ、すまない、ちょっと静かな所に行きたかったんだよ。…で、そろそろ時間かな?」
 「はい、そろそろワンオフのミクさんのメッセージを流します」
 「ああ、お願いするよ」
 そういって離れていく相沢。雅彦がふと見ると、木下も席に戻っていた。
 「…それでは、今回、安田教授からお持ちいただいたワンオフのミクさんのメッセージを流します」
 その相沢の声にひときわ盛り上がるオフ会会場。しばらくすると、ワンオフのミクが現れた。
 「…みなさん、初めましての方も何度目かのかたもいらっしゃると思います。こんばんは、初音ミクです」
 一礼して微笑むワンオフのミクに歓声が上がる会場。
 「…今年は、私にとって記念すべき年なので、雅彦さんにお願いしてみなさんにメッセージを送りたいと思います」
 再び歓声が上がる。
 「…みなさん、今回のライブは楽しんでいただけましたか?」
 ワンオフのミクが話すたびに歓声が上がる状態になっている。雅彦が木下の方を見る。その歓声に混ざっている様子はなかったが、少し表情が穏やかになったように見える。その様子を見て微笑む雅彦だった。

 「…マスター、凄いですね」
 一方、神波たちもワンオフのミクのメッセージを見ていた。ワンオフのミクのメッセージに感激する量産型のミク。
 「…そうだね」
 同じくワンオフのミクのメッセージに聞き入る高野。
 (…同じミクなのに、全然違うな)
 見た目にほとんど差異がないせいか、どうしても自分と一緒に暮らしている量産型のミクと比較してしまう神波。見た目は同じ、"初音ミク"だが、明らかに中身が異なるのは神波にも分かった。
 「…ワンオフのミクさん、かなり言葉を選んでらっしゃるな」
 一方、歓声に混じりながらも冷静にメッセージの内容を分析する高野。
 「…そうなんですか?」
 「…多分、事前に何を話すかは相当考えてから話しているはずだし、ライブ並みとはいわねえが、何回か練習もしているはずだ。相当な場数踏んでおられるはずだから、この手の話は慣れてらっしゃると思うし、文面を考えるのは他のワンオフのボーカロイドのみなさんや、安田教授も協力しているかもしれねえな。確たる情報はないが、それ位していても何らおかしくねえ」
 話しながらもワンオフのミクのメッセージはしっかり聞いている高野。そうしているとメッセージが終わり、ミクの姿が消える。そして何度目かの歓声が上がった。

ライセンス

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  • この作品を改変しないで下さい

初音ミクとリンクする世界 初音ミク編 2章9節

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投稿日:2017/07/01 23:32:38

文字数:1,219文字

カテゴリ:小説

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