どうして手を叩いているのか分からないが、とりあえず言われるがままに手を叩く。
そうして皆が手を叩くから、その内の誰かが狂ったように喚く。
その時、同時に蚊や蠅を殺したような鈍い音が聞こえた。
それは人間の命が儚くも散らされた瞬間だった。

誰も彼もが何かに怯えたように、ひたすらに手を叩く。
それが織り成す音の集合体には何の意味もなく、ただただ旋律を奏でる。
そうして、また今日もまた一人、また一人潰されていく負の連鎖。
誰かの支配下で弄ばれているこの命の行方を教えてくれ。

どうして手を叩くかと聞けば欺かれて、軽蔑したように嗤われた。
自分の言葉以外ない世界で皆は黙々と手を叩く。
拍手という名の旋律と喚き声が止むことが無い。
不適合者という形を象られ、人気のない場所に流される命の持ち主。
そうして反抗さえしないその手で
街の隅っこ、首を吊ってしまった命を見た。
心臓の奥で何かが壊れた音がした。


冷えた鉄製の椅子に腰を下ろすことが許された。
それでも、手を叩くことは死んでも強制されるだろう。
手を止めたら、次は自分の命が麻縄の餌食だ。
誰かが街の隅に消えて、麻縄の擦れる音が聞こえる、そんな毎日だ。


こんな薄暗い街の奥でも少しだけ青空が見える。
しかし、そこにある太陽さえ命を持つ生き物の監視下であるらしい。
ボーっと手を叩いていたそんな時、目の前を誰かが通り抜けた。
逃亡しようとしたのだろうが、すぐにその命はアイツに潰された。

「手を叩けば殺されない。さぁ手を叩き続けるんだ。
掛け替えのない自分のために」



アイツの目を欺こうとすれば逆に欺かれ、嗤われる。
次第に失くなる言葉数がこの夜を埋めていく。
拍手という名の旋律は続き、アイツを敬う声が止むことが無い。
アイツが思うように命は象られて、血と涙と時間が流れる。
そうして意識のない手が、
街の隅っこで徐に自分の首を吊る、そんな未来を描いた。


壊されてしまったのは、
嘘を吐いていた生き物と真っ当に生きて来た生き物の両方。
壊されてしまったのは、
幸せに暮らしていた生き物ともうすぐ死ぬと言われた不幸せな生き物の両方。
壊されてしまったのは、
噂だけ善人の悪者と悪者だと噂立った善人の両方の人柄。
それらがすべて壊されてしまって、
この宵闇へ集まり手を叩くのだ、すべてを称えるために。


万物は命によって欺かれて、嗤われてしまう。
それをどう説明しようにももう説明する命がない、残念だ。
拍手という名の旋律とアイツを敬う声の余韻が耳に辿り着く。
自分の周りを命の亡骸が象り、今までの旋律が頭の中を流れる。
手を叩く意思が無いのならば、首を吊らなければならない。
しかし、自分はそんなことはしない、未だ逃げなくては。

本能に誘われるように、心ごとアイツに攫われるように走った。
自分以外誰もいない宵闇をただひたすらに走る。
今までの拍手も声もすべて消えてしまった。
そうすれば、もうあの悪夢が今の自分に追い付いて来る。
なんてそんな馬鹿げた話は無かったことにしてしまおう。
自由になった自分が誰かを称えるなんてことももうないだろう、と空を見上げる。
朦朧として意識の中で、
今目の前にアイツが見えたような気がするが、
まずは此処まで逃げた自分を褒め称えておこう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

宵闇クラップ 世界観 イメージ

これは宵闇クラップという曲の世界観詞です。
曲の流れに沿って書いています。

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投稿日:2018/03/22 15:20:57

文字数:1,376文字

カテゴリ:歌詞

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