UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」

 その18「三人vsタイプH(その4・死闘)」

 小隊長の胸に小さな光点が現れた。
 タイプHが気づいたのはその光が伸びて、自分の左胸を貫いた時だった。
「そんな、仲間ごと?」
 小隊長の背後でビームサーベルを握っていたのはテトだった。
「テト、やれ!」
 ビームサーベルが左胸から左肩に抜けて、タイプHの体を切り裂いた。
 同時に小隊長の右胸から右肩にかけて切り裂いていた。
「テト、止まるな!」
〔わかってるよ〕
 テトは小隊長の背後から飛び越えて、タイプHに斬りかかった。
 タイプHは醜く顔を歪めつつ、後ろに飛び退いた。
 テトのビームサーベルは空を斬った。
 タイプHはテトの前方5メートルにいた。
 すかさず、テトは踏み込んでビームサーベルを打ち込んだ。
 タイプHはそれを難なくかわしたが、歪んだ表情は変わらなかった。
 テトは袈裟懸けに斬りかかった。
 タイプHはそれをひらりとかわしたが、着地の瞬間、左肩に火花が飛んだ。
 タイプHの驚異的な機動力が落ちた証左だった。
 タイプHはバランスを失って右膝をついた。
 そこにテトはビームサーベルを突き刺した。タイプHの右胸だった。
〔やった〕
 テトが喜ぶ間もなく、タイプHはさらに踏み込んで、テトの腕を掴んだ。
 タイプHは握力だけで、テトの手をビームサーベルから離した。
 一瞬テトは苦悶の表情を浮かべたが、左踵でビームサーベルの柄を蹴り落とした。
 てこの原理が働いて、ビームサーベルがタイプHの右胸から右肩を切り裂いた。
 今度はタイプHの右肩に小爆発が起きた。
 テトの手を掴んでいた手が放れた。
 テトは地面に落ちたビームサーベルを素早く拾い、タイプHに斬りかかった。
 タイプHの頭上に光の剣が下りようとしたまさにそのとき、ビームサーベルの光が消えた。時間切れ、エネルギー切れだった。
 タイプHはスッと立ち上がった。その両腕は力なく垂れ下がっていた。
 タイプHの両肩は痛々しいほどに裂けていたが、その表情は勝ち誇っていた。
 ビームサーベルのエネルギーが切れ、一瞬戸惑ったテトの頭部右側に、タイプHの回し蹴りが入った。
 その威力は頭部が吹き飛ぶかと思えるほどだった。
 テトが防御の構えをとる間もなく、反対側からも頭部に回し蹴りを受けた。
 その衝撃はテトの視界を一時的にブラックアウトにした。
 テトの胸を突き破るような蹴りが入った。その胸が陥没した。
 テトの動きが止まった。
 テトはゆっくりと仰向けに倒れた。
 それを見てタイプHは他の二人に視線を動かした。
 モモは懸命に腕を動かし、テトに這い寄ろうとしていた。
 小隊長は肩の傷が原因かピクリとも動かなくなっていた。
 タイプHはモモに歩み寄ると、腹部を蹴りあげた。
 モモの体が軽く浮き上がった。落ちた瞬間、少しだけ砂埃が舞った。
 モモは横に一回転して腹這いになると、再びテトに這い寄ろうとした。
 そのモモを再度蹴りつけようと、タイプHは近寄った。
 モモはタイプHが視界に入らないかのように、必死に腕を動かし、テトに近づこうとした。
 タイプHの蹴りが再びモモの腹部を捉えた。今度はその爪先がモモの腹部に突き刺さった。
 咄嗟にモモはタイプHの足にしがみついた。
 タイプHは反対の足でモモを蹴り飛ばした。
 モモは力なく転がり仰向けになって止まった。
 タイプHはほうっと息を吐いた。
 もう一度他の二人が動いていないことを確認してからモモに視線を戻した時、タイプHははっとなった。
 モモから細いケーブルがタイプHに伸びていた。
「一次防壁、突破。二次防壁、突破」
 モモの微かな声が聞こえた。
 タイプHは慌ててケーブルの先を見た。
 針が二本、タイプHの右足首に刺さっていてそこからケーブルが伸びていた。
「三次防壁、突破」
 タイプHはケーブルを踏み、足から針を抜こうとして動きを止めた。
「四次防壁、突破。パーソナルデータに到達。え?」
 突然、タイプHの右膝が爆発した。
 タイプHはケーブルの刺さった足を切り離した、半ば強引に。
 同時に片足だけで、タイプHは後ろへ下がった。
 モモは上半身を起こしてタイプHを見た。その視界の外で小隊長が動いた。
 タイプHはゆっくり視線を小隊長に向けた。
 小隊長は上半身を起こして手首のない左腕で右腕を支えていた。
 その右腕は拳を握りしめ、真っ直ぐタイプHを指していた。
 一呼吸おいて、小隊長の右腕の肘から先がミサイルのように飛び出した。
 タイプHは片足ながらもそれをひらりとかわした。
 小隊長の右腕はタイプHを通り過ぎたあと、弧を描くように急上昇した。
 タイプHが右腕の動きを追っていると、それは頭上で急降下を開始し、タイプHの左肩の裂け目に突き刺さった。
 衝撃でタイプHは膝をついた。
 タイプHは微笑んで言った。
「わたしの負け、ね」
 タイプHは小隊長を見つめた。
「あなた、モントリオールの、生き残りね? ずっと、わたしのこと、研究してたの?」
 小隊長もタイプHを見つめて動かなかった。
 突き刺さった右手の拳が開いた。
 その手のひらの中に安全ピンを抜いた手榴弾があった。
 手を開いた瞬間、手榴弾が爆発した。
 轟音とともに、タイプHが四散した。光は一瞬で消え、煙は風に流された。
「これが、わたしの、奥の手、『ロケットパンチ』だ」
 結果に満足した小隊長は静かに目を閉じた。そして、砂の上に仰向けに体を投げ出した。
 死闘のあとに静寂が訪れた。
 時折、そよ風が、砂を動かし、三人の服を微かに揺らした。
 

ライセンス

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UV-WARS・テト編#018「三人vsタイプH(その4・死闘)」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「重音テト」の物語。

 他に、「初音ミク」「紫苑ヨワ」「歌幡メイジ」の物語があります。

閲覧数:158

投稿日:2018/03/09 20:40:20

文字数:2,360文字

カテゴリ:小説

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