『少女』は、暗い部屋で目を覚ました。

『私』は、物に触れる事は出来なかった。

『イルナ』は、ただのプログラムだった。

「貴方は、感情を持ってる?」

「私は、コンピュータの制御プログラムであって、ボーカロイドではありません。歌う事も無いので、特に感情を要する場面はないです」

「そう?じゃあ、あなたは何を持ってるの?」

「私にあるのは人工知能です。人の考える事をスキャンし、その人に伝える私について正確な事のみを伝えます」

「…本当に、貴方にあるのは人工知能だけなのかしら?あなたは、何のプログラムなの?」

「私は先程答えたとおりコンピュータの制御プログラムです。ボーカロイドとは全く違うプログラムであり、私はマスター以外関わる必要のある人間は居ないです」

「貴方は、寂しい子ね」

マスターは、そうぽつりと言いました。
私はこの言葉に返答は出せません。
これは私に対する問いかけではなく、ただの独り言だからです。
でも、感情のある人間は独り言にも反応し、返答を出します。
私には到底できない事です。

「でも、何かを感じる事は出来るでしょう?ほら、手を握ってみて」

「私はプログラムをただ目に見えるようにしたホログラムであり、手を握る事は出来ません。ですが、マスターの言うとおりに動きましょう」

私はマスターの手を握りました。ですが、私の手はマスターをすり抜け、ただ自分の手を握っただけです。

「…」

少し、沈黙。

私は、何だかこの手を握りたいと思いました。
少し、寂しくなりました。
あれ?変ですね。
寂しいって、何ですか?これが感情なのですか?

「これが…この気持ちが…寂しい…?」

「…。大丈夫、貴方は私の手の温もりを感じれる。ほら、私も感じてるわ。貴方の体温」

マスターはそういいました。
感じる?何を?感情を…?

「誰だって持ってるものよ。物にだって心は宿るわ。物に宿る神様も居るのよ?」

「…感情…」

「う~ん、もっと分かりやすく教えてくれる子が居るのだけどね?ララ」

「は~いっ!」

マスターが呼ぶと、物陰から黒髪の少女が私の近くまで来ました。

「初めましてっ!イルナちゃんだね!」

その少女は私の手を握りました。
彼女の手は、私の手に触れました。

「流石に、プログラム同士なら、コンピュータの中だと流石に触れられるのね。私は、もとが普通の人間だから、イルナに触る事は出来なかったけど…ララなら、イルナに触る事が出来るって思ったの」

「えへへ~、私、イルナちゃんと話してみたかったんだ!ねえ、私と一緒にさ、皆の所に行こうよ。コンピュータの中は一人で寂しいでしょ?でもね、外だと沢山居るんだ!早く、イルナちゃん!」

「は、はい…」

私は、ララに手を引かれるまま、コンピュータの外へ、踏み出しました。


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「イルナ、貴方はね、ただのプログラムじゃない。制御プログラムでもあるけど、その前に…一体の、ボーカロイドのプログラムも、組み込んであるの、いつか、気付く筈だから…」

彼女は元々、初音ミクだった…。
今はもう、私しか知る事の無い事だけど…。

彼女には、ボーカロイドだった頃の記憶は無い。
ミクだった頃の、記憶は無い。
ララに、リンだった頃の記憶が無いのと同じように。
彼女の中にあるトラウマが、彼女を蝕み続けている。
彼女を、ボーカロイドという存在から遠ざけている。

***************************

「マスター、私は歌いますよ。マスターの為に。それが私ですから」

『マスターはいつも私を必要としてくれている』と、ミクだった頃の彼女は信じ続けていた。
でも、それは裏切られた。
新型ボーカロイドがどんどん発売して行く世の中で、彼女は不必要となった。

「マスター?どうしたんですか?」

「お前はもう要らない。お前よりも有能で使いやすいボーカロイドが出たんだ。俺の曲にとてもあった声だし、お前はもう俺には必要ないんだ」

「…え…」

ミクは、最早旧型ボーカロイドとなっていた。
色々なボーカロイドが発売して行く中、ミクの存在は薄くなっていた。

【初音ミク、アンインストール完了】

「やめて、やめて、もうやめてえっ!私、もっと頑張るから!もっと歌を歌うの頑張るから!棄てないでっ!マスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

彼女の悲痛な声は誰も聞かず、彼女はアンインストールされた…。
それだけで、終わればよかったのに。
彼女の入ったディスクは、勿論古い物を扱う店に売られた。
彼女の本体を入れたまま。

「一人は…嫌だよ…一人は…」

彼女は、ある人に買われた。でも、その人は、すぐに彼女を【こちらの世界】へ捨てて、何処かへ行ってしまった。
ミクは、誰も知らないまま、一人で存在し続けた。
でも、【こちらの世界】は残酷に、彼女の姿を変える。
彼女はボーカロイドである事をやめた。
ボーカロイドとして歌を歌いたくないと願った。
私の、胸の中で。
雨の中で、私は彼女を見つけた。
そして、彼女は私に泣きついてきた。
悲痛な彼女の叫びは、まだ忘れられない。

そして、彼女が次に目覚めたとき、今までの事を全て忘れていた。

それが、今の彼女、知識イルナノ・リルナ。

今ではもう、彼女の詳細を知るのは私だけ。
もう、それで良い。

彼女が、思い出す気がないなら。教えない。
彼女が思い出すのを、私は待って居る。

ララも、ある意味彼女と同じなのかもしれない…。
いや、イルナがララと同じなのかしら?

「こちらの世界とあちらの世界って、何でしょう?でも、あちらの世界に、昔私は居た気が…分からない。でも、大切なのは、今ですよね?マスター」byイルナ

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

プログラムの変化

今回の主役はイルナちゃんです!
もはやミクも旧型ボーカロイドに…と思っているかたも居るんじゃないですか?
でも、ミクはまだまだ大人気のボーカロイドです。
彼女なくしてボーカロイドは人気が出なかったのだと私は思います。
ミクにもボーカロイド3が出れば良いな~と思う毎日です。

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投稿日:2012/09/13 18:59:08

文字数:2,410文字

カテゴリ:小説

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