そして、移動してしばらくして。
「リン、私と一緒に観覧車に乗らない?」
そういって観覧車を指すMEIKO。
「…別に」
「リン、今、観覧車に乗ったら、きっと良い景色が見られますわ。今日は良い天気ですから、遠くまで景色が見渡せると思いますわ」
と、断ろうとしたリンにさり気なく観覧車を勧めるルカ。
「…分かった」
「それなら、私も乗ろうかな」
渋々といった感じで承諾するリン、MEIKOがさっとミクに目配せし、ミクも乗ることになった。残された男性陣は近くのベンチに座る。
「…レン、リンと喧嘩したんだって?」
女性陣が観覧車に乗ったのを見届けてから、レンに話しかけるKAITO。
「ああ、そうだよ」
ぶっきらぼうに応えるレン。
「レン君、リンちゃんから事情を聞いたよ。曲のことでリンちゃんと合わなかったんでしょ?」
「…俺は良いって曲だっていったのに、リンはこんな曲いやだっていったんだ。それで喧嘩になったんだよ。リンは自分のパートが少なくて、曲全体でも自分が軽んじられてるからって、嫌いっていうんだぜ。それって歌を歌うボーカロイドとして失格だと思うんだけど」
「レン君、言いすぎだよ」
「だって、事実じゃねえか」
「う…」
事実なだけに、言い返せない雅彦。
「レン、確かに、自分のパートが軽んじられているからって、その歌が嫌いになるのは、歌を歌うボーカロイドという立場からすると、失格かもしれない。僕だって、めーちゃんと二人で歌う歌だって、何度かそんなことがあったけど、不平もいわずに歌ったよ。でもさ、レンに聞き返すけど、仮に立場が逆だったら、レンは不満をいわないで歌う自信があるかい?」
「…」
あくまで諭すように言うKAITOの質問に、はっとした表情をするレン。KAITOの質問に何も返事ができず、うつむいてしまった。その答えと態度こそが、何よりも雄弁にレンの思いを物語っていた。
「レンもリンも確かに若い。だから自分が軽んじられているから、そういう不満が出るのは分かるよ。でも、重要なのはそういう不満を感じた時に、どうやって乗り越えていくかだと思うよ」
「…カイ兄、俺って、未熟なのかな?」
「自分が未熟だと分かっているのは良いことだよ。だったら、対処する方法さえ考えれば良いだけだしね」
そのレンの戸惑ったような言葉に、笑顔で返すKAITO。
「…俺って、どうすれば良かったのかな?」
「そうだね。とりあえず、リンちゃんを許してあげようよ。謝れば、きっと許してくれるさ。それに、今はまだ分からないけど、もう少し時間がたったら、解決する問題かもしれないよ?」
「どういうこと、マサ兄?」
「リンちゃんにはいったんだけど、リンちゃんとレン君の喧嘩になった原因の歌と、対になる歌があるんじゃないかって思うんだ。その歌は、きっとリンちゃん中心の歌だと思うんだよ」
「…そんな歌、本当にあるの?」
「僕は曲の作者じゃないから本当の所は分からない。でも、僕が仮に二人の曲を作るんだったら、レン君中心の曲と、リンちゃん中心の曲の二曲セットで作るのは、曲作りのやり方としてはあるかもしれないと思っている。…レン君、リンちゃんが観覧車から降りてきたら、謝るかい?」
そう雅彦から問われ、しばらく考えるレン。
「…ごめん、KAITO兄、マサ兄。俺、まだ気持ちの整理ができないんだ」
「分かった」
笑顔で応える雅彦。とりあえず、状況が良い方向に向かっていると感じたようだ。
「…リン、レンと喧嘩したって聞いたけど、レンとの間に何があったの?聞かせてくれる?」
一方こちらは観覧車のゴンドラの中。MEIKOたちがリンに話を聞いていた。
「…だって、私の扱いが軽い曲があったんだもの。そんな歌、好きじゃないし、歌いたくない」
「…リン、あなたはプロでしょ?そんなあなたが、自分の扱いが軽い曲があるからって、仮に歌うことになった場合、そんな言い訳をすることが、通じると思ってるの?」
ややきつ目にいうMEIKO。それを見て、ルカがMEIKOを宥める。
「…MEIKO姉様。そんな言い方だと、リンが頑なになってしまいます」
そういってリンに向き合うルカ。
「…リン、確かに自分の扱いが軽い曲があるなら、それを気に入らないっていうのは私も分かるわ。でも、そんな曲でも、きっとリンにとって良い所は探せばあると思うわ」
リンの目を見つめて諭すような表情で話すルカ。
「ルカ姉、本当?」
「ええ、本当よ。自分が良いと感じる所はあるわ、必ず」
その言葉に、しばらく考えるリン。
「リン、実はそのリンがいっている曲にはもう一曲対になる曲があって、それはリン中心の曲じゃないかって雅彦君がいっていたわ。それはリンにも話したっていっていたけど」
ミクも説得に回る。
「…うん、それはマサ兄もいってた。でも、本当にそんな曲があるかどうか、私、不安なの」
不安そうな表情でリンがいう。そんなリンに対し、ミクが笑顔で、
「リン、大丈夫よ。来ると信じていれば、きっと曲は来るわ。だから、信じて待ちましょう」
「でも…」
まだ不安そうな表情のリンをMEIKOが抱きしめる。
「めー姉…」
「リン、さっきはきついことをいってごめんなさい。ミクのいうとおりよ。私たちの曲を作ってくれる人たちは、みんな良い人ばかりよ。だから、信じて待っていれば、きっと曲は来るわ」
MEIKOに抱きしめられながら、しばらく考えるリン。
「…うん、分かった。…でも、まだ完全に気持ちの整理ができないの。だから、今はレンに謝れない」
「良いわよ。リンがその気持ちでいるなら、きっとすぐにレンと向き合える日が来るわ」
笑顔で応えるMEIKO。一方、ゴンドラは地面に大分近づいてきた。
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