「弱音さんちの留学生」
  第一話 天使の元へ仙女が来た 

PART4「インプリンティング ガールズ」


この小説は、2012年12月15日、
ボカマスにて無料配布した小説本のWEB向け版です。

起承転結 4章構成になっています。


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「あ、えっと、お嬢…さん?」


疑問を差し挟もうとすると、混乱した少女が一気に捲し立て始めた。


「初めてあったとき、唇を奪われて!

 それからも新曲の完成前には、ご褒美でもねだるように夜を重ねて!

 いまじゃ段々と過激なこともしてくるようになって!」


お~い、とまれ~。

その本人が隣で真っ赤になって、混乱してるぞ~。
貴方とミクを交互に見ては頭抱えて、本気で壊れかけてますよ?

尊敬する先輩ボカロとか、言ってなかったっけ~? 
落ち着いてあげろ、ご主人さま~。

「お、落ち着きなさい。ねっ?

 本人が隣で混乱しててよ?」

自然と私もお姉さん口調になってしまう。
ルカちゃんじゃなし、こんなキャラじゃないわよ~?

「あ、あんたがあんなことするから!

 なんで天依が恥ずかしがってるのよぉ!!」

肩を掴んでブンブンと前後に振るう。
あ、だめ、それ以上はいけない。

ギタリストの腕力でそれ以上はダメよ、
その子たちは精密機器なんだから…

「み、ミク!とにかく、天依ちゃんを連れて新しい部屋へ!」

「は、はい!」

この内容はふたりで話したほうがいい。
さっきまで真っ赤な石像だったミクも、すぐに少女の相方を連れて部屋を出る。

廊下を歩く音、扉の閉まる音がして、十分に間をおいてから話しかけてみる。



「さて、落ち着いてからゆっくり経緯を教えてね?」

「あぁ…はうぅ……」

赤銅色と言ってよいほど真っ赤だった彼女も、
可愛らしいピンク色の頬まで落ち着くと、ぽつりぽつりと説明を始めた。


 それによると、天依ちゃんは「落ちものヒロイン」らしい。

 初めて彼女と出会った日、ギタボ、
つまりギターとボーカルを同時にこなすことができなくて、阿綾は悩んでいた。

 失意の中、家路を歩く彼女の足は重かった。
しかしその時、不思議な流れ星を見た。

 流れた先へと向かってみると、ひし形の宇宙船のようなものがあり、
そこから降りてきた天依と空中でキスをする形になったという。

 以後、たしかに自分のほうから彼女にベタベタしているが、
一線を越えるときは、いつも彼女のほうからだという。

そして、だんだんと内容が過激になってきたことを危惧しているようだ。


また一段と顔を赤くして、少女がつぶやく。
なんとかしてあげたいが「羨ましい話だ」以外の感想が浮かばない……。



「私とミクは、キスもしたこともないけど、

 まるで最初のユーザー登録をすっとばしたみたいね?

 あなたのことをなにからなにまで理解してくれているのでしょう?」

こくり…と、少女がうなずく。

阿綾が言うには「そんなことをしない」でも、
他のバンドメンバーにも、読心術めいた理解を示して行動するという。

 しかし、少女のほうから触れ合いを求めているとはいえ、
折を見て「それ以上」を求めてくる彼女。

そんな彼女は、下手をすれば口笛を聞かせただけの歌でも、
阿綾が考えていた歌詞で歌ってみせるという。

「理解」、そんな言葉では到底推し量れないなにかを彼女は持っているのだ。



「じゃあ、とにかく、日本に居る間は私もミクも、あの子の様子を見守るわね…」

そう伝えた時、リビングの扉がそっと開いた…。

ミクが、苦しそうにドアの桟にもたれかかっていた…。


「ミク! どうしたの!」

慌てて駆け寄り体を支えると、先ほどの恥ずかしげな様子から更に、
憂いを帯びた相貌が熱を帯びて此方を見つめていた。

「ハク…姉…」

熱があるようだ、全身が熱い。
心配して再び呼びかけようとした私の傍を、ものすごい速さで青い風が通り過ぎた。

続いて、脇の下と背に鈍い痛みを感じた。


「て、天依! あなた、お姉さまにまで點穴(てんけつ)を!?」

驚き叫ぶ阿綾の声に、私の思考が向いた瞬間、
体内で気血のめぐりが変わったのが分かった。

体の中でなにかがひっくり返り、次いで体が、熱く疼きはじめた。

「点穴って、武侠モノで出てくる、動きを封じたりするツ…」

ツボと言おうにも、既にうまく喋れない。

点穴、北斗の拳の経絡秘孔の元ネタ、
気脈の上のツボを指でついて、相手の体に特別な効果を与える。

そんな思考も追いつかず、ただミクと抱き合い、膝からくずおれて抱き合った。



ミクが、彼女が愛おしい。

既にそれしか考えられなかった。



「ハクねぇ…… 体が熱いんです……助けてください……。」

ミクの唇が迫ってくる。

熱に苛まれる頭に抵抗力などまるでない。
ままよとそれを受け、目を瞑る天使と、視界の端を順に見やる。

そこでも同じ光景が展開している。
それを確認すると、次第になにも考えられなくなっていった……。



私の意識は、そこで、

完全に白に埋没していった……。







ちゅんちゅん、ちちち……


薄い壁と安物のカーテンは、太陽の光を良く通してくれる。
鬱になりがちな私が、日々を元気に過ごせるのは、
ミクの笑顔とこのボロアパートのおかげだろう。


私はまだ夢を見ているのだろうか? 台所で料理をするミクが歌っている……。


「こ…れ…… 私の…曲……?」

嬉しそうに振り返った天使の笑顔が、眠気眼に飛び込んだ。

間違いない、さっきの歌は私の作った歌だ。
相変わらず作曲なぞできず、ただ楽器の腕前だけが上がった。


そんな日々に、衝動をぶつけて作った曲。
譜面にも起こせず、歌詞とソロ演奏の録音だけを、会社の引き出しにしまってあるはず…。



「マスター! 

 私、マスターの歌、歌えるようになりました!」

心底嬉しそうに、天使が満面の笑顔を浮かべて抱きついて来た。

姉と呼んでくれるよう指示した私のボーカロイド、
彼女は初めていいつけを破り、己の念願の言葉を紡いだのだ。




「う~、肚子好餓了(おなかすいた)~。」

こらこら、元凶さん。なんでそんな言葉だけ喋れるのかしらw


「こんなのはもう吃飽(おなかいっぱい)よ! 

 天依のバカ~!!」

 
もう、お嫁にいけないわ! のポーズで、主の少女が叫ぶ。

寝ぼけたボカロに抱きしめられたまま、向いのソファーも桃色オーラが漂っていた。


なんだか、賑やかな日々が始まりそうだ・・・


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ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【ハクミク、南北組】 弱音さんちの留学生「1話-4章」

ハクとミクが暮らす部屋に、中国ボカロの二人がホームスティに来ました。 そして・・・  第一話の4/4。

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投稿日:2013/01/13 07:41:38

文字数:2,799文字

カテゴリ:小説

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