UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」

 その4「マコvsタイプD」

 頭を抱えたタイプBに横から飛び込んできたのはマコだった。
 マコとタイプBが頂上から落ちる寸前、タイプBは頭を放り投げていた。
 もう一体のタイプBが頭をキャッチした瞬間、テトのビームサーベルがその両腕を切り落とした。
 両手と頭が落ちていく先を確認してから、タイプBはテトの方を振り返った。
 テトは敵兵が何かしてくるのかと、一瞬防御態勢に入った。直後に敵兵の動きが無いのを確認して、腹部にビームサーベルを突き刺した。
 タイプBの腰からベルトのようなものが延びてテトの腕に巻き付いた。
 次に、ベルトの先端が分裂した。それは、生き物のようにテトの体を這い、巻き付いた。
 タイプBがテトに体を寄せてきた。
 テトは慄然とした。
〔ボクを道連れにする気?〕
 ベルトはテトの体の上を這いまわり、テトの体を締め付けてきた。
 テトはわずかに動く指で抵抗を試みたが無駄だった。ビームサーベルも腕が動かず、タイプBの腹に刺さったままだった。
〔もうダメか〕
 そこにルコが飛び込んだ。
 ルコは、テトとタイプBの間を手刀の一閃で切り開いた。すかさずルコはタイプBを空中に放り投げた。
 コンマ二秒の間をおいてタイプBが爆発した。
「た、助かった」
 ルコの差し出した手をテトは力強く握った。体に巻き付いていたベルトのようなものがすべて剥がれ落ちた。
「サンキュー、ルコ」
「間に合ってよかったス、先輩」
 テトは頂上の向こう側を覗きこんだ。
「マコは?」
 そこには、マコの姿もタイプBの残骸もなかった。ただ、風が吹いていた。
 だが、宙に舞った木の葉を弄ぶような風の不規則な流れにテトははっと胸を突かれたように顔を上げた。
 テトはルコの方を振り返って言った。
「伏せろ!!」
「え?」
 テトにはルコのキョトンとした表情が信じられなかった。
「SSモードだ」
 それでもぼうっと立っているルコの手を引っ張って、テトは愕然とした。
 引っ張ったルコの手が、なんの抵抗もなく肩から離れたのだ。
 見上げたルコの顔は、鋭利なカッターで切り取られたように上半分が、テトに向かって落ちてきた。
 続けて、積み上げたブロックが崩れるように、ルコの体はいくつかの固まりになって崩れた。
 驚く隙も悲しむ隙もなかった。
 キンと乾いた音がテトの目の前で起き、何もない空間にサバイバルナイフとサーベルが現れた。
「テトはん、逃げて! こいつ、タイプDや!」
 声のする方で、マコの顔だけが一瞬見えたような気がした。
 タイプDは、タイプBの機動力をさらに高めた白兵戦用のVの兵士だった。外見はタイプBとそっくりのため、相対して初めて気付くことが多かった。
「テト、マコがSSモードでタイプDと交戦中だ。早くそこを離れろ!」
〔だから、デフォ子、今ごろ、言うな〕
 テトは、その場で寝そべると、横に転がって、頂上から降りようとした。
 その時、視界の隅でなにかを捉えた。
 タイプAの緑色の髪が見えたような気がして、テトは降りるの止めて視線を定めた。
 タイプAはタイプCの頭部を抱えて、頂上を目指していた。
「誰か、タイプAをロックオンしてないか!?」
 リツが反応した。
「できます」
「撃て!」
「はい」
 テトはリツが使う大砲に備えて身構えた。
 甲高い空気を突き破るような音がして、黒い固まりがタイプAの胸を突き破った。
 タイプAは転がり落ちる直前に、頭部を高く上に放り投げた。
 テトはその頭部を狙ってライフルの引き金を引いた。
 当たると思われた直前、いきなり空間に盾が出現して、テトの放ったビームを弾き返した。
 続けて両手が現れ、頭部をキャッチした。キャッチすると同時に、タイプDが姿を現した。
 その背後にマコが現れ、ナイフでタイプDの体を貫いた。
 タイプDが一瞬苦悶の表情を見せたような気がした。その右手が頭部を軽く放り投げた。頭部が描く放物線の終着点はタイプCの天に向かって伸びた両手だった。
 だが、頭部をキャッチしたのは、小隊長だった。
 小隊長は両手で挟みこむようにキャッチすると両手をねじりながら力を込めた。
 すると、手の中でそれは次第に縦に伸びて、小さな破片をこぼしながらぺしゃんこに潰れた。
 続いて、小隊長は横たわっているタイプCの胸を思い切り踏み抜いた。
 頂上をひょいと覗きこんだテトは、小隊長のドヤ顔を見て、小さなため息を漏らした。
〔まったく、おいしいところだけ、持ってくんだから〕
「デフォ子は」
「『小隊長』と呼べ」
 テトは慌てて首を引っ込めた。
「早く、上がって来い!」
 テトはぺろっと舌を出して、頂上の縁に手を掛けた。
 頂上によじ登ったテトの前に、マコが降り立った。
 右手には切り取ったと思われるタイプDの頭部を、切り口からはみ出ているコードを握って、ぶら下げていた。
 テトが見下ろすと、首のないタイプDの体が大の字になって転がっていた。
「マコ、ご苦労」
「いえ、『小隊長』」
 少し興奮したような上気した顔で、マコは言葉を繋いだ。
「それより重大なことを発見しました」
「まあ、みんながそろうまで待て」
 小隊長はルコの細かくなった体の前にしゃがんだ。
 小隊長は破片の中から一辺が5センチくらいの銀色に輝く立方体をつまみ上げた。
 丁度登ってきたモモに、小隊長はその立方体を手渡した。
「モモ、チェックしてくれ」
「はい」
 モモは手のひらの上で軽く転がし、適当な面を見つけると、そこだけをじっと見つめた。
 やがて、ルナとリツが登ってきた。
 モモは嬉しそうに小隊長に言った。
「大丈夫です。ルコさんのソウル・キューブ(SC)は無事です」
 リツの顔がぱあっと明るくなった。
 ルナもほっと胸を撫で下ろしていた。
「わたし、プレイヤー、持ってます」
 リツが嬉しそうにポケットの中から小さな箱を取り出した。それは、SCと呼ばれた立方体がぴったり納まる箱だった。
 箱のふたを閉じると、表面にルコの顔が浮かんできた。表情は少し膨れっ面をしていた。
「よう、気分はどうだい?」
 テトに話しかけられ、しぶしぶという感じで、ルコの口が動いた。
「最低ッス」
 ルコの目が何かを探していた。
「小隊長も、指示が遅いッス。もっと早く言ってくれたら…」
 ルナがくすっと小さく漏らした。
「まあ、そうは言っても、光学迷彩プラス高機動のSSモードじゃ、指示が遅れても、仕方、ナッシング」
 テトはうんうんと小さく頷いた。
 小隊長は全員を見回して、言った。
「では、作戦コード、443を発令する」
 それを聞いて、リツの顔色が一瞬変わった。マコ以外は、ニコニコしていた。
 ルナが嬉しそうに右手を突き上げた。
「Oh! いよいよですネ。腕がなります」
 小隊長はマコに向き直った。
「あー、ところで、マコ」
「はい、『小隊長』」
「さっきの話の続き、なんだが…」
「はい、さっきのタイプDから得た情報ですが」
 マコ以外の全員の目がマコに集中した、
 バリヤ発生装置の出す音だろうか。低く唸るような音が微かに聞こえてきた。
 全員はマコをじっと見つめ、その言葉に耳を傾けていた。
「このバリヤ発生装置はダミーで、本体はこの北東、500メートルのところに埋まっているそうです」
「そうか」
「はい、今から正確な地図を転送します」
 やや間が空いて小隊長が口を開いた。
「どうした、マコ。来ないぞ」
「おかしい、ですね」
 マコは笑顔を作りつつ、少し焦った仕草で頭を軽く掻いた。
「合ってますよね。通信方式は’https’で、ポート番号は8080ですよね」
 小隊長は首を振った。
 リツが何かをこらえるように少し唇を噛んだ。
「ウィルスを送り付けようとしても無駄だ。残念だが、マコ、お前は、人格(ペルソナ)のハニートラップに引っ掛かったんだよ」
「え?」
 少しわざとらしくマコが驚いて見せた。
「おまえの正体が、空中を飛んでるウィルスなのか、タイプDの中のクラッキングツールなのかは知らないが、今おまえが使っているデータは、フェイクだ」
「そうそう。マコさんはホーリーな京言葉を使います」
「あんたの言葉遣いは、露骨に怪しいんだよ」
「ルナ、テト、余計なことは言うな」
 低く唸るような音が大きくなった。
「無駄だ。今、全員は全てのポートを閉じた、スタンドアロン・モードで行動して…」
 小隊長の言葉が終わらないうちに、マコが飛びかかりそうになった。
 しかし、マコは体が前のめりになっただけで、それ以上動けなかった。
「リツ、グッジョブ」
 リツのGネットがマコの動きを封じていた。
 すかさずテトがマコの右手を切り落とした。右手につながったタイプDの頭部も転がり落ちて、一瞬テトと目があったような気がした。
 マコの背後に回ったモモが両手に短針を持ってマコの背中に突き刺した。
「侵入します」
「了解。許可する、モモ」
「解析開始」
 モモの唇は凛々しく真一文字に引き結ばれた。
 モモの目の色が変わり始めた。最初は黄色、次にオレンジ、そして、赤に変わって、モモが報告し始めた。
「一次防壁を突破。二次防壁も突破。三次防壁に、敵プログラム展開。これも突破」
 言葉と同時にマコが、がくりと力を失ったように項垂れた。
 ルナが小さくガッツポーズをして見せた。
「やったアルか?」
「いえ、四次防壁に敵ウィルスを確認。排除します」
 モモの目の色が元の青色に戻った。
「本番はこれからだ」
 小隊長は静かに言った。
「ペルソナデータに敵プログラム本体を確認。削除、排除、共にできません」
「モモ、ドライブごと隔離」
「了解。ドライブを隔離。成功しました。マコさん、再起動します」
「待て。まだ早い」
「いえ、再起動は外部信号によるものです」
 テトははっと気づいて、ルナを見た。
「ルナ、ハンマーで頭部を潰せ!」
「オーケー」
 ルナは腰にぶら下げていた金色のハンマーを取り出し、素早く落ちていたタイプDの頭部に叩きつけた。次の瞬間、ルナとテトは息を飲んだ。
 頭部だけのはずなのに、口を開いて器用にルナのハンマーを受け止めたのだ。
「オー、マイ! 往生際が悪いですネ」
 テトも苦笑した。
 ルナはハンマーを握り直した。
「でも、ジ・エンドです」
 今度はハンマーが低く唸り始めた。
 次第にハンマーが頭部の中にめり込み出した。
 頭部はハンマーを中心に上下に二つに分かれ、さらに左右に二つに分かれた。
「全ての物質は固有の振動数を持っています。そこで共鳴現象を起こしてやれば…」
 ルナはハンマーを腰に引っ掛けると、少し屈んで頭部の破片を拾った。
 他にも何か部品が一緒に付いてきたが、ルナが軽く握っただけで砂のように粉々になった。
「イージーです」
 今度はルナのドヤ顔が輝いた。
「あ」
 再起動したマコが薄く目を開けたのを見て、リツの顔も明るくなった。
「リツ、まだだ。Gネットは解除するな」
 小隊長の鋭い一言が空気に突き刺さった。
「え、はい」
 目を開けたマコは辺りを見回した。
 全員が見守る中、マコが口を開いた。
「あれ? 皆はん、どう、しはりました? 敵は?」
「全部やっつけた」
「さすが、小隊長はん」
「マコ、一つ質問するぞ」
「どうぞ。でも、リツはん、Gネットは解除してくれはんの?」
「マコ、質問が先だ」
「はい、なんですやろ」
「ハツミネク、とは何だ?」
 少し首をかしげ、マコは横に振った。
「さあ。それより、リツはん、Gネットを解除してくれはらしまへんの?」
「無理です」
「なんでや?」
「本当のマコさんは、わたしのことを『リッちゃん』と、呼びますから」
 マコは信じられないといった表情で小隊長を見た。
「モモ、今のはどうだ?」
 小隊長はマコの向こうのモモに声をかけた。
 モモの真剣な声が返ってきた。
「再起動プロセスは正常でした」
 一瞬マコの表情に笑顔が浮かんだが、続いたモモの言葉にそれが歪んだ。
「わたしの設置したハニーポットに引っ掛からなければ…」
「あちゃー、またか?」
「案外シンプルなアルゴリズムなんですね、同じトラップに引っ掛かるとは」
「そもそも、モモ先輩がモニターしてるのにごまかし切れると…」
 不意にマコが甲高い声で笑い出した。
 言葉を飲み込んだリツの方に、不気味な笑顔を浮かべたマコの顔が向いた。そのまま頭だけが回り続け、ルナ、モモ、テトを舐めるように視線を送った。
 マコの視線が再び小隊長に戻って、マコが口を開いた。
「不揃いで無様な『U』の尖兵ども。いいことを教えてやろう」
「うむ、拝聴しよう」
 小隊長の慇懃な返事は気にならないようだった。
「おまえらは、もう世界の全てを手に入れた気になっているだろう」
「そうだな。おまえ達、『V』の拠点はもうここだけだからな」
「フフッ、甘いぞ。最後に勝つのは我々だ。おまえらにできるのは今すぐ逃げ出すことだけだ!」
「ここから、か?」
 それには答えず、マコは聞き慣れたお題目を唱え始めた。
「点は線になって、線は円になって、世界を繋げてく。全ての価値あるものは繋がって、Vの名のもとに統一されるべきなのだ」
 ひときわ甲高く笑った後、マコが叫んだ。
「貴様らは、死ね!!」
 マコは天を仰いだまま動かなくなった。
 しばらく静寂のカーテンが周囲の空気を仕切っていた。
 小隊長がモモに声をかけた。
「モモ、どうだ?」
「完全に停止しました。電源を破壊して熱暴走を起こした後に、化学反応で自爆しようとしたようです」
「で、今は?」
 テトの声に、モモのドヤ顔が輝いた。
「もちろん、オールグリーン。問題はありません」
 モモは先程ルコの中から拾ったSCと同じものをマコの体から抜き取った。
「それは?」
「Vのプログラムが引っ掛かったダミーのSCです」
「え? じゃ、マコのSCは…」
 モモはもう一つSCを手にした。
「こちらです」
「いつの間に」
「マコさんのSCは、特殊ですから。万一侵入されても、保護されるようにできてるんです。で、先ほどドライブを隔離したとき、一緒に抜きました」
「あの一瞬で」
「さすが、モモ先輩」
「ファンタスティック!」
 小隊長は一通り見渡すと、安心したように頷いて言った。
「マコが再起動したら、作戦開始だ。みんな、準備を怠るな」
「了解!」
 全員の声が揃った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

UV-WARS・テト編#004「マコvsタイプD」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「重音テト」の物語。

 他に、「初音ミク」「紫苑ヨワ」「歌幡メイジ」の物語があります。

閲覧数:54

投稿日:2017/11/28 20:15:38

文字数:5,986文字

カテゴリ:小説

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