UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」

 その16「三人vsタイプH(その2)」

 テトたち三人がタイプHと100メートル離れて対峙したとき、日が完全に沈み、辺りを闇が満たしていた。
 タイプHは三人に聞こえないほどの声で呟いた。
「そんなに離れてては話しにくいわね」
 タイプHが風のように軽やかに駆け出した。
「タイプH、接近!」
 テトの不安げな視線が小隊長を指した。
「狼狽えるな。パターンBに移っただけだ」
 タイプHは三人の目の前、10メートルほどのところで風をまといながら止まった。
 タイプHの銀髪が微かに風で揺れた。それがわかるのは銀髪が薄く光を放っているからだった。
 しかし、その表情は闇の中に溶けて分からなかった。
 話しかけて来たのは、タイプHの方だった。
「あなた方、『U』の兵士なの?」
 小隊長とモモは、タイプHが話すことが不思議だったが、テトは質問の内容が不思議だった。
「それ」
〔がどうした〕と小隊長は考えていた。
 テトの質問はその予想を超えていた。
「は、どういう意味だ? この世界に、UとV以外に兵士がいるのか?」
 小隊長が目を二倍の大きさにしてテトを見つめた。
「テト」
 小隊長は思わず名前を呼んだ。
 その小隊長の表情が意外過ぎて、振り返ったテトが絶句した。
「…、な、なんだよう」
「おまえ、優秀だな」
「お、おお、ありがとう」
 そのとき、くすりと笑い声が洩れた。
 テトがモモに目をやると、モモも同じように意外そうな表情でテトを見つめていた。
「何が可笑しい?」
 小隊長の声に、テトは笑い声の主に気づいた。
 テトの向けた視線の先でタイプHは笑顔を浮かべているように見えた。タイプHの口元辺りに白く光る歯が見えたような気がしたからだった。
〔タイプHが、笑っている?〕
 小隊長の声にタイプHは少し慌てた風に手を口に当てた。
「あ、ご免なさい」
〔タイプHが、謝った!?〕
 暗闇の中で、タイプHが動く気配がした。その場は動かないが、何かの構えを取ったようだった。
「では、始めましょうか」
 静かなタイプHの声に対し、小隊長は焦ることなく言い放った。
「そうしよう」
 小隊長は両手に持っていた手榴弾をタイプHとの中間に放り投げた。
 タイプHが悠然と動かなければ、手榴弾の爆発で砂が大量に巻き上げられ、一種の目隠しができるはずだった。
 手榴弾も地面に着く前に爆発するように調整されていた。
 タイプHの機動力は手榴弾が爆発するより速く、小隊長の眼前にタイプHが立っていた。
 手榴弾を投げると同時に小隊長は後ろに飛び退いていたが、タイプHはそれに付いてきた。
 タイプHの背後で爆発が起き、砂が巻き上がった。
 続けて飛び退いた小隊長はテトとぶつかった。
「砂で目隠しのつもり?」
 小隊長の目の前でタイプHは不敵な笑みを浮かべた。
「いや」
 小隊長が肩に掛けていたライフルを構えた。
 決して小隊長の動作は遅くなかった。ライフルを持ち変えてから引き金に指を掛けるまでコンマ一秒以下だった。
 しかし、タイプHの速さはそれを超えていた。
 タイプHの手刀はライフルを真っ二つに切り裂いた。銃身を支えていた小隊長の左手の手首も一緒に切り落とした。
 続けてタイプHは反対の手で小隊長の肩をつかみながら手刀を腰まで引いた。
 小隊長の体がタイプHに向かって倒れかかったように見えたとき、小隊長が合図した。
「今だ」
 テトの後ろからモモが飛び出し、ライフルの引き金を引いた。
 綺麗で正確な射撃だった。五本の光がタイプHの頭部を襲った。
 それを嘲笑うかのように、タイプHは頭を振るだけで五発とも避けきった。
 さらにタイプHは指で何かを弾いて飛ばした。
 小さな何かが二発、モモの両膝を破壊した。桃は前のめりに倒れて砂煙をあげた。
 このときタイプHは少しも油断をしてはいなかった。ただ、予測も探知もできなかっただけだった。

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UV-WARS・テト編#016「三人vsタイプH(その2)」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「重音テト」の物語。

 他に、「初音ミク」「紫苑ヨワ」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2018/02/22 21:51:38

文字数:1,661文字

カテゴリ:小説

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