「安田教授、ミクさんのメッセージの件ですが…」
雅彦は相沢と話していた。今日はワンオフのミクのバースデーライブ後のオフ会の打ち合わせである。内容はほぼ固まっており、準備も詰めの段階である。
「うん、これだよ」
そういって雅彦は仮想的に向かい合っている相沢にミクからのメッセージを見せた。そのメッセージを真剣な表情で見る相沢。一通り見た後、うなづく。
「…内容的には問題ないよね?」
「…はい、大丈夫だと思います」
「それじゃ、この映像は渡すよ」
「受け取ります」
そういって映像を受け取る相沢。
「…安田教授も色々と大変ではないですか?」
心配そうに聞く相沢。彼女は雅彦が児童養護施設の件も同時に進めていることは知っていた。
「…基本的に僕は裏方だからね。今回のオフ会みたいにチェックが中心だし、矢面に立つ必要はないのは楽だよ」
澄ました顔で言う雅彦。
「…確かにチェックだけですが、複数の内容を同時平行でこなさないといけません。それにワンオフのミクさんたちのサポートなどもありますし」
「…まあ、そうだけどね。慣れてくるとそこまで大変じゃないよ」
確かに雅彦はイベントに関してはチェック主体だが、万難を排するためには、チェックだけでも大変である。雅彦と打ち合わせをするようになってから、トラブルを発生させないためにあらゆる努力をして、雅彦がトラブルの芽になる以前の段階で軌道修正してリスクの回避に努めてきた所を目の当たりにしている相沢は、そのことを肌で感じていた。裏方であることは気を抜いて良い理由にはならないということは、相沢自身もオフ会の幹事を行って痛感していた。
(安田教授がそれだけワンオフのミクさんたちを大切にされていることの裏返しだと思うけど…)
そう思う相沢。大切だからこそ、完璧といって良い位にリスクになりえる要素をつぶし、ワンオフのミクたちから徹底的にトラブルを遠ざけているのだろうが、相沢からすると、雅彦の行為は、いささか過剰な感じも受けた。
(…一体、何が安田教授をそこまで突き動かしているのかしら?)
「…どうしたんだい?」
怪訝そうな表情をする雅彦。
「…いえ、何でもないです」
「決まった内容をチェックしていたけど、この分だと何か、突発のトラブルが起こらなければ大丈夫そうだね。残りも任せても良いかな?」
基本的に雅彦はイベントは担当に主導権を渡している。そのため担当は裁量権が広く、任された方としては、気を抜くことはできないものの、やりやすいことは事実である。もちろん、任された側もミクたちへの影響を考えた上で色々と決めており、万が一担当者側でミスが発生しても、雅彦が気がついて止めている。
「分かりました」
「ないと思うけど、何かあったら連絡をくれれば対応するから」
「はい」
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