一方、ワンオフのミクたちは家に戻っていた。ドアを開けると自動で玄関に灯りがつく。
「ただいまー」
もちろん、雅彦が現在オフ会に参加しており、家にいないのは知ってのことである。六人はキッチンに向かう。コンロには大きな鍋と、やや小さい鍋が置いてあった。部屋に入ると、テーブルの上の空間にテキストのメッセージが表示される。
"お疲れさまです。肉じゃがとお味噌汁、冷蔵庫に野菜のおひたしを作ってあります。おひたし以外は再加熱して下さい。肉じゃがとお味噌汁とおひたしはまとめてあるので、お皿に食べる分だけ分けて下さい。 雅彦"
簡素なメッセージが表示される。
「ルカ、コンロの鍋を温めて。私がおひたしを分けるわ。後の四人は食器を出して」
『了解』
そう言われ、指示通りに手早く動く五人。冷蔵庫を開けると、おひたしの入ったボウルの隣に、小皿があった。ラップされており、ラップには雅彦の字で"ミクへ"と書かれた付箋が貼ってあった。
「ミク、雅彦君から毎年の一品よ」
そういわれ、食器を出すのを他の三人に任せてワンオフのミクがワンオフのMEIKOの所にきた。
「はい」
小皿には太いネギを一口大に切って焼いたものだった。ワンオフのミクがネギの皿を手に取ると、やはりテキストでメッセージが表示された。
"ミクへ、バースデーライブお疲れさま。今日はゆっくり休んでね。 雅彦"
雅彦からのテキストメッセージに微笑むワンオフのミク。あえてテキストのメッセージを表示させるのは、雅彦らしい。人によっては素っ気ないととらえられるが、雅彦をよく知るワンオフのミクはそのメッセージに込められた雅彦の想いをを十分に読み取っていた。
ワンオフのミクのバースデーライブの日は雅彦はバースデーライブの後のオフ会に行っていることが多いのだが、六人の夕食は作っておくのが恒例で、さらにワンオフのミクのために追加で一皿何か作るのも恒例である。このネギもぱっと見た限りはそれほど凝ったものではないが、一旦冷蔵庫に入れて再加熱をした場合もおいしさはそれほど損なわれないし、ネギをつける味噌もワンオフのミクの好みの調合になっているなど、見た目よりはかなり手間はかかっている。その小皿をレンジに入れるワンオフのミク。そうしている間にワンオフのルカが肉じゃがを分け、同じくコンロで暖めている味噌汁をワンオフのリンが汁椀に入れる。おひたしはワンオフのMEIKOが分け終え、配膳している。ワンオフのKAITOはごはんをよそい、ワンオフのレンは冷えた麦茶を全員のマイカップに注いでいた。そうして配膳が終わる。
『いただきます』
そういって夕食を食べ始める。ライブなどで疲れきった六人のため、可能な限り消化が良くなるような配慮はされている。いの一番に雅彦が自分のために作ってくれたネギを口にするワンオフのミク。口いっぱいに広がるネギの甘さとおいしさ、そして雅彦の愛情に対して微笑む。
「…ミク姉、すげー幸せそうだな」
ワンオフのミクの笑みを見ながらつぶやくワンオフのレン。
「いーなー、…レンもマサ兄を見習うべきよ」
「…なんでそういう話になんだよ?」
「…ミクの幸せそうな笑みを見れば、普通はそう思うわよね」
そういいながらワンオフのKAITOをちらりと見るワンオフのMEIKO。
「あ、めーちゃん、僕に抱きしめて欲しいんだ?僕はいつでも大丈夫だよ」
「…もう、なんでそう自分の都合の良いように解釈するのよ、バカ」
嬉々としていうワンオフのKAITOを見ながら呆れたようにいうワンオフのMEIKO。ワンオフのKAITOはワンオフのMEIKOを抱きしめるのが非常に好きである。ワンオフのMEIKO自身も抱きしめられることはまんざらではないのだが、ワンオフのKAITOはあたり構わず抱きしめようとする癖があり、ワンオフのMEIKOが兆候に気がついて止めたりするが、毎回止められるわけではない。そのため、せめて場所は選んで欲しいと思っていた。
「…それなら、明日はとっておきのお茶とお菓子がありますから、それで紅茶を淹れましょう」
そういうワンオフのルカ。ルカはこの家の中では随一の紅茶党であり、紅茶を淹れる腕はなかなかものである。
「やったー」
そういって喜ぶワンオフのリン。ワンオフのリンも紅茶党であり、時々ワンオフのルカから淹れ方を習い、その成果をワンオフのレンにふるまっていた。
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