もし願いが一つ叶うとして　何を望むのだろう…？


出会いは突然に　捨てられていた時代錯誤なランプに近付くと
それは輝き　どこからか少女が現れた
「私は魔人」と　長い黒髪の人形のような少女は微笑んだ
それは何故だか　どこか懐かしくて　胸を締め付けた…

「もし願いが一つ叶うとして何を望みますか？叶えてあげましょう…」


なかなか一つを決められなくて　その数字の意味を訊ねたけれど
魔人は少し間を空けて呟いた　「先に二つは叶えてしまったのです…」
悲しげに…


願いが決まるまで　魔人と二人きり　至って普通の生活
出会いからどれだけ過ごしただろうか　“家族(××)”のように触れ合っていた

そんな日常を失うことが　どんなことよりも怖くて
“願い(××)を叶(×)えたら消える”　その《瞬間》が怖くて
ランプの魔人のその言葉が　わからなかったわけじゃない
ずっと一緒にいたいのに　その《期限》がやってくる…


二人で歩いた道も　眠れずに語った夜も　永く続くと思ってた　そんな迷いがあった
二人で歩んだ日々も　寝過ごして笑った朝も　短い思い出だけれど　大切なもの

「消えたくない」とあなたがそう望んだなら　わたしもそう叫べる
その想いが矛盾を孕むと知りながら　望むのは罪かと…


迎えた約束の日の朝　ランプを持ち　思い出の場所を巡り返した
そして決断告げる夜　強い面持ち　想いを押し殺し切り出す

これは願いとは違う　“親友”としての頼み事　あなたの本当の気持ちを教えてほしいんだ
わたしとずっと一緒にいてくれるなら　願い事はそれで構わないよ　さあ答えを聞かせて！


「…いまさらなによ！」

「あれからずっと待っていたのに　優しい言葉待っていたのに
一度はすべて失ったのに　ひどい仕打ち！
これならいっそ出会わなければ　幸せなんて願わなければ
あなたを好きになんてならなければよかったわ！！」

怒り狂ったランプの魔人の声が　刃物のように鋭くわたしを抉った

「教えてあげましょう　私の本当の気持ち
視せてあげましょう　あなたの“罪”を」

「ちょうど一年前にあなたと出会った日があった　ランプの中で独り待ち侘びていた日があった
あのときも私はあなたに願いを訊きました　ランプの魔法で叶えてあげると言った」

――もし願いが三つ叶うとして何を望みますか？叶えてあげましょう――

「それからのあなたもしばらく答えを出せぬまま　二人で一つの季節を過ごしました
最初で最後のご主人様があなたでよかった　けれど時間は残酷に決断を迫る…」

「出会いのその場所で口を開いたあなた…」

『わたしはあなたを好きになりすぎたかな？　あなたもわたしを好きでいてくれたよね？』

『こんな感情を抱いたことが　今まで一度もなかった
同じもの同じように付いているというのに
あなたとわたしは人間と魔人で　結ばれることはないのだろう
それならばあなただけには　幸せになってほしい！』

「震わせた声を振り絞ったあなたは　続けてこう言った」
『願いは二つだけでいい　さあ叶えて…』

「【魔人の幸せ】と【人間の記憶を消し去る】ということを望んで　ランプの魔法が輝く
『あなたのことを思い出すのが辛いから』と笑った…」

「これがあなたの知らない“罪”の記憶なのです　自分勝手な理由で未来を投げ出した
すべてを知った今だからもう一度訊ねましょう　何を望むのですか？　さあ決断を！」


――そう話し終えたあなたは泣いていた
二人の間に起きたという悲劇に　わたしの心も締め付けられ　嗚呼…

突然告げられた記憶　二人の軌跡
戸惑いも悲しみもただ通り越して
釈然としない想いが　罪を語った
もう二度とあの頃へとは戻れない…？


もし願いが叶うとして　今のわたしに何がある？　泣きじゃくるあなたの声が　遠く聞こえてしまう
もし願いが叶うとして　一つだけ望めるのなら　笑っているあなたの声を取り戻したい
でも…一度は見捨てたあなたを　今のわたしがその愛を　再び願うそのことは　残酷すぎるのだろう
一人きりにされてもなお　わたしのもとへやってきた　その想いを裏切ることもできないけれど…

幸せのために戻ってきたあなたには　再会してからの日々はどう思えたの？
「裏切られたとはいえ愛しい人だから…　隣にいられただけでよかった！」

そんな気持ちを聞いたらすべて振り切れた
残された一つの奇跡を願おう
【ずっと一緒にいたい　いつまでも　どこまででも】
あなたの隣寄り添って…


願いを叫んだら　あなたは微笑み　時代錯誤なランプに手をかざす
それは輝き　どこかへと視界が闇へ堕ち…
少女が囁いた…
「ようこそ…この中が……」