「わぁ……綺麗」
夜七時。パレードの時間帯だった。
一台目のフロートは通り過ぎてしまったが、道の向こうからゆっくりと二台目のフロートが走ってきていた。フロートというのは、祭りなんかに出てくる山車のようなものだ。
全体に散りばめられた青や赤や黄色の電飾が光って、芸術的で幻想的な輝きを醸しだしていた。
このような光景はリリィも神威も今まで見た事が無く、夢を見ているような気分に浸る。
フロートの上には音楽に合わせて踊るダンサーがいた。フロートの周りにも着ぐるみをきたスタッフ達が小芝居をしていたり、陽気なリズムに合わせて踊っていたりする。
「私もカメラ持ってくればよかったな」
この時間になる頃には、リリィもすっかり肩の力を抜いて、心の底からデートを楽しめるようになっていた。
神威もそんな彼女を見て安心したようで、最初持っていた緊張も互いに随分ほどけた。
一応明るく取り繕ってはいたが、神威としては最初はとても不安だったのだ。彼女が喜んでくれなかったらどうしよう。帰りたい、などと思われてしまったらどうしよう、などと不安の想いでいっぱいだった。
しかし、今はこうして彼女も笑っている。決して無理をした笑い方じゃない。心の底から笑っていると、確信できる。
よかった。第一回目のデートとしてはまずまずだ。なら、この後も終わりまでなんなく上手くいきそうだ。
「それなら一枚、撮ってみるか?」
神威がシルバー色で塗装された小さなデジタルカメラを小さな鞄から取り出す。今日の二人の笑顔を、ずっと撮影して来た神威のカメラだ。
「いいの?」
「いいよ、自分が好きなやつ撮ればいいさ。ほら、アレなんかどうだ?」
フロートが目の前まで迫ってきた。そこにはディズニーの某犬のキャラクターが乗っている。
元々ディズニーについてはリリィは疎かったので、キャラを見た事はあっても名前までは分からなかったが、とにかくリリィはそのキャラを収めようとデジカメを構えた。
フロートがこちらに十分に近づいた瞬間を見計らって……。
リリィはシャッターを切った。ぴかりと光ったフラッシュの後、一枚の画が撮れた。
「撮れた」
早速撮影した写真を見ようとしたが、見方がどうやっていいものか分からない。カメラは神威の物だし、元々機械についてはそんなに詳しくはないので。
神威にカメラを渡し、保存記録を開いてもらう。すると彼は少し苦笑いをした。
「ちょっと、変かな」
「え、嘘」
「ま、ちょっとだけね。見てみ」
彼はリリィにデジカメを向けた。見ると、写真はかなりピンボケしてしまっている。
何が映っているのかさえよく分からない。
「えぇ、何これ?」
「言い忘れてたな、ごめん。写真撮る時に、デジカメのシャッターを半押しにするんだ。こうやって。そうしないとピント調整されないから」
「もう、それを先に言ってよ」
「はは、ごめん」
リリィは不機嫌そうに頬を膨らます。神威は笑って彼女の膨れた頬を優しくつつく。
彼女も本気で不機嫌になっているわけではないのだ。
その彼女の態度が愛らしく感じられて、神威はリリィの頭を撫でる。
ストレートの髪は、するりと神威の手を流す。まるでシルクのようだった。
リリィも神威のその行動には予想外だったみたいで、一瞬、戸惑った表情を浮かべたが、すぐに顔が赤くなり、伏し目になってしまった。
「ほら、もっかい撮ってみ?今度はいけるって」
「うん」
赤くなりながらも、神威に言われたとおりに、もう一度リリィはデジカメを構え直す。
今撮ったフロートは通り過ぎてしまったので、今度は次のフロートに向けてカメラを向ける。今度は某ネズミのキャラが乗っているようだ。
今度はシャッターを半押しに。と、こんな感じでいいのだろうか。
少し不安になりつつも、フロートがリリィの前に近づいた時に、再びシャッターを切る。
ぴかり、とシャッターを押すと同時に光るフラッシュ。
「ね、撮れたかな?」
カメラを彼に渡して、不安げにリリィは尋ねる。
「大丈夫。上手く撮れてる。ほら」
「よかったぁ」
彼女はほっと力を抜いた。大業を成し遂げた気分で、たった今撮影したフロートを見送る。
機械をいじるというのはリリィにとっては慣れない作業で、そのぎこちなさを横で神威は見ていたが、彼女のその様子がまた愛しかった。
「お疲れ」と言って神威が笑いかけると、「うん」と言って彼女も微笑みを返す。
陽気な音楽が、パレードの間、ずっと園内に流れていた。
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