入ってはいけない禁断の塔があると、噂を聞いた。
学者として入って調べてくれないかと、依頼を受けた。
いつ戻れるかわからない、そもそも戻ってこられないかもしれない。
けれども学者として、その塔に興味はあった。だから、家族を置いて俺は塔に入った。
そこには見たこともないような不思議で溢れていた。毎日が発見と驚きと探求の日々。
そしてある日、不思議な部屋を見つける。
その部屋のドアにはたくさんの蔦が絡みついていて、入るのにかなりの時間がかかった。中に入るとそこはまるで外のようだった。わずかながらに鳥などの生き物もいる。
「なるほど、あの窓から鳥は出入りしているのか」
物は試しに、鳥の足に手紙をくくりつけて飛ばしてみた。
誰に届くかわからない。でも、試してみた。
次に目に入ったのが、とても大きな木。調査のため削ろうとしても固く削れない。触ったりすることでしか調査はできなかった。
「そういえば、書庫があったな」
書庫、というべきその部屋は大量の本。俺はその日から大量の本を読み漁り、あの木を調べることの繰り返しの日々を過ごした。

本によるとその木は罪人を喰らい処刑させるために改良された

本によるとその木の下で殺された罪人の怨念により人食いになった

本によるとその塔は罪人を入れる刑務所のようなもの

本によるとその塔は新しいものを作るための実験施設のようなもの


「関連するキーワードは…」
本にはいろいろな諸説が書かれている。
遠まわしなものから直球なものまで全てにある共通点がある。けれどもそれが何を意味するのかはわからない。どれが正しいかなんてわからない…。
けれど試したいことはある。
それは動物の血でも目覚めるのか。

あの部屋へ行くと、鳥がいた。
足にくくりつけた手紙は俺が書いたもの。手紙を運ぶことはできなかったようだ。
ふと、足元を見ると別の鳥が死んでいた。
「ちょうどいい、この鳥を使うか」
俺は鳥の羽を切り、鳥の血液を木の根元に垂らしてみる。
すると、蔦がするすると動き出し、鳥を掴んで捕食した。
「書庫の本のいくつかに捕食するとは書いてあったが、本当だったとは…」
それならば、あの本もあながち間違いではないのだろう。もしかすると、あの書庫の本全体を見たほうがいいかもしれない。
すべての本を読み、多く書かれているキーワードをつなげれば、それが事実なのかもしれない。
「……ん…」
「ん?」
ブツブツと考えていて気づかなかった。樹木の根元には女性がいた。
「…?えっと…大丈夫ですか?」
「………腹減った」
「……」
とりあえず、書庫に移動し、事前にあった非常食を渡したのだが…全部食われてしまった。
「1ヶ月分くらいあったのに…」
「いや、本当にごめん!ずっと中にいたから腹が減ってな」
「中とは?」
「ああ、あの木の中だよ。私のあれを調べているんだが…間違って取り込まれてしまったんだ」
「それ、詳しく聞かせてください!」
僕は持っていたカバンの中から、ペンと何も書かれていない本を取り出した。
「何から聞きたい?まぁ、私の推論も含むけどな」
「えっと…まず。あの木が人を取り込む仕組みと、あなたが出られた理由を教えてください」
「仕組みは、私が思うに血液に反応して、その近くにあるのを何か一つ捕食する」
「ふむ…」
女性の言ったことを、スラスラと本に書いていく。
「でられたのは鳥のせいだろうな」
「鳥?」
「木はひとつだけしか取り込まないってことさ」
「あなたが取り込まれた時は何も捕食しないってことですか?」
「そう。そして物によって取り込む時間は変わる。鳥などの小動物だと1年ほど。人間だと50年くらいかな。その期間に出られたとしても、10年ほどで体力低下、20年ほどで身体障害、30年ほどで意識障害、になると推測した」
「ふむ…では、取り込むとは何を?」
「それは知らん」
なぜか女性は誇らしそうに言う。
「取り込まれたのが何かは、調べればわかるだろう」
「調べる?」
「あ、言ってなかったか。私はこう見えても医学者をしている」
「……」
全然見えない。しかしそう言うと怒るに決まっているので、言わないでおこう。
「私を実験台して、血中濃度や骨密度など調べれば何かわかるだろう。多分な」
「多分ですか」
「うむ。さてさて、腹も膨れたことだし、早速調べるから手伝え」
「あ、待ってくださいよ!」
急かされたので本のタイトルを書くことはなく、俺が書いた本を書庫の棚に戻す。
この本が、いつかこの塔に迷い込んだ誰かの為になることを祈って…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

アナザーロストディズメモリー

ロストディズメモリーとつながってます。

制作者 楓 代表 カーコ

閲覧数:236

投稿日:2013/08/18 23:26:51

文字数:1,891文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました