2人は、建物を見ながら、ベンチで話し合った。
「なんとなく、後をつけてきちゃったけど。何でもなかったら、どうしよう」
リンちゃんは、口をとがらせてつぶやく。
「わたしら、ただのストーカーだよね。そうだったら」
駿河ちゃんは、言う。
「でも、私とリンちゃんが2人とも、“何かある”と感じてるんだから...」
「うん」
「サナギと一緒に、ビデオの撮影が終わって、その後、変な目に逢ったんだ」
そう言いながら、リンちゃんは首をかしげる。
「だからって、その会社を疑うことも無いのかも、しれないけどサ」
「うーん」
駿河ちゃんも、首をかしげる。
●震えた“はっちゅーね人形”
サナギちゃんが入っていった古いマンション。しばらく待っても、そこからは誰も出てこない。
リンちゃんは、つぶやいた。
「そういえば、あのプロモ・ビデオ、ちゃんと使ってくれるんだろうなぁ。月光企画さんも」
「その撮影は、全部終わったの?」
彼女はうなずく。
「うん。撮影はうまくいったんだ」
駿河ちゃんは言う。
「まさか、今になってボツにすることって、無いんじゃない?いくら何でも」
「だよね。そこんとこも、サナギに、聞いてみたいんだけど...」
その時。リンちゃんのカバンについている“はっちゅーね人形”が、「ブルッ」と、震えた。
「あっ」
そういって、リンちゃんは人形に手を触れた。
「こいつも、不思議な動き方ばっかり、する」
そう、つぶやいて、撫でてみる。
●不思議な女性が...
すると、2人の後ろに、誰かの気配がした。そして、声がした。
「大丈夫。あのビデオは、ちゃんと使うわよ」
びっくり仰天して、リンちゃんと駿河ちゃんは、振り向いた。
そこに若い女性が1人で、立っていた。
髪の毛をボブ・カット、というよりオカッパのように切りそろえて、赤い服を着ている。
「べ、ベニスズメさん」
リンちゃんは、驚いて目を見張った。
月光企画のビデオ撮影で、つきあってくれた担当の、ベニスズメさんが、そこにいた。
「ごめんなさいね。立ち聞きしたみたいで。でも、大丈夫よ。ビデオの事なら」
そういって、笑う。
目を見張って、立ちつくしている駿河ちゃんに向かって、彼女は言った。
「はじめまして。月光企画の営業部の、紅井すず です。あだ名は、ベニスズメ です」
「はっ、はじめまして。神原といいます」
あわてて、ぺこりと頭を下げる。
●いっしょに、行ってみますか
彼女は、笑って言う。
「2人とも、彼女の後をつけてきたんでしょ。サナギちゃんの」
そのことばに、きまり悪そうに2人は、頭を下げる。
「いいのよ、平気よ。彼女なら今、私たちの会社の部屋にいる」
そういって、マンションの3階の、すみの方を指さした。
「この何日か、また彼女を縛っちゃったからね。心配しても当然よ」
そういって、うなずく。
よくわけがわからずに、リンちゃんと駿河ちゃんは、彼女を見つめる。
「紅井さん、っておっしゃいましたね。あの、今、彼女...サナギちゃんは、何をしてるんですか」
駿河ちゃんは、たずねた。
「いっしょに、彼女のところに今、行ってみますか?」
彼女の言葉に、2人はためらって、顔を見合わせた。
「嫌なら、いいわ。ここで待っていれば、そのうち、サナギちゃんも、出てくると思う」
そして、意外なことを言った。少し声を潜めて。
「ツクヨミ様の力から、彼女、もうじき、解放されるから」(゜ー゜)
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