その日の夜。
 『いただきます』
 ボーカロイド一家の夕食。一見すると普段と変わらないのだが、雅彦とミクは言葉少なだった。そして、その視線はうつむいていることが多く、お互いの顔を見ようともしない。口には出さなかったものの、全員がその雰囲気を察していたため、非常に重苦しい雰囲気の食事となった。
 「雅彦君、最近の研究の様子はどうなのかな?」
 「別に…、問題ないですよ」
 「ミク、今日の番組の収録はどうだったの?」
 「特に問題ないです…、収録の様子は番組を見れば分かります…」
 何とか話題を出そうと引き出して場を盛り上げようとするKAITOとMEIKOだったが、肝心の雅彦とミクが全く話題に乗って来ようとしない。普段なら、こういうことがきっかけで話題が広がっていくのだが…。どうも二人共、別のことに気を取られている様子で、それが二人が話題に乗ってこようとしない理由だろう。いつもは楽しい時間なのだが、この雰囲気のせいで誰もが気が重い状態である。恐らく食事の味もあまり美味しいとは感じていないだろう。
 「ごちそうさまでした」
 ミクが立ち上がり、部屋に戻ろうとする。それを見た雅彦が慌てて立ち上がり、ミクを追いかける。
 「ミク、ちょっと話があるんだけど…」
 ミクに声をかける雅彦。その声に一瞬足を止めるミク。足を止めたことで、雅彦は振り返ってくれることを期待した。しかし、次の瞬間には何もなかったように、自らの部屋の扉を開け、中に入ってしまった。続いてロックの音も聞こえる。それは、ミクが雅彦を拒絶したことを示していた。呆然とする雅彦。しばらくその場に立ち尽くしていた雅彦だったが、雅彦も自分の部屋に入っていった。

 「…参ったわね」
 一方、夕食を囲んでいる残りの面々。重苦しい雰囲気を作り出していた雅彦とミクがいなくなったので、会話が戻ってきたようだ。
 「ねえ、マサ兄とミク姉に何があったの?」
 リンが尋ねる。
 「…実は、雅彦君とミクが昨日喧嘩したのよ。今もまだその時の雰囲気が残っているのよ」
 「あの二人がああなるのって久しぶりだね」
 「そうだね。雅彦君とミクはほとんど喧嘩しないからね」
 「MEIKO姉様。あの二人はいったんああなると、元に戻るまで長かった記憶があるのですが…」
 ルカが尋ねる。
 「そうなのよね…。あの二人が喧嘩すると、最低でも数日は話を聞かないことが多いのよね。こういう時は、二人がクールダウンするまで待って、それから説得しているのだけど…」
 「ですが、ミクはワールドツアーが近いですから、あのままだと悪い影響が出かねませんわ」
 「それが問題なのよね。それまでに仲直りしてくれると良いのだけれど…、大丈夫かしら?」
 そう言って二人の部屋の方向を眺めるMEIKOだった。

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初音ミクとパラダイムシフト3 2章5節

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投稿日:2017/02/27 23:32:13

文字数:1,165文字

カテゴリ:小説

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