UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その11「小隊vsタイプN(その1)」
小隊長は先頭を歩きながら、モモに聞いた。
「あとどれくらいだ?」
「予定地点とは少しずれましたが、残り100キロぐらいです」
「モモにしてはずいぶん曖昧だな」
「この砂嵐のせいです。光学測定も、音波測定も、精度が21パーセントほど失われています」
「なあ、モモちゃん、さっきの、パターンCって…」
サラは足下を確かめるように歩きながら聞いた。
「作戦用ウィルスの一つです」
「どんなウィルスですの?」
「ドライブからメモリまで全部0に置き換えるプログラムです」
「SCも?」
「もちろんです」
「ああ、だからですか」
ユフは疑問が解け晴れやかな顔をしていた。
「テイさんにとって全てがゼロ。相手の距離もゼロ。相手を攻撃したくても距離がゼロの自分への攻撃に変換されてしまうんですね」
モモは頷く代わりにニコッと微笑んだ。
サラは顔を上げて小隊長を見た。
「そう言えば、テイが小隊長の声に驚いて振り向いたみたいだったけど、何かしたの?」
「コクピットを出るとき、テイの肩にマイクロマシンを付けた」
「それじゃ、ずっと…」
「モニターはしてた」
「だったら、もっと、こう、…」
「テイの結界の中では何もできない」
「そりゃ、そうだけど…」
「音声ぐらいなら送れるが」
「それで、テイが気を取られたわけか」
サラの言葉に小隊長はうなずいた。
「それに、油断さえしなければ、サラがテイに負けるはずがない」
「ふふっ、それは、ありがとう」
不意に砂嵐が止んだ。
「お」
テトが空を仰ぐと、厚い雲が上空に遠ざかっていこうとしていた。周囲は雲越しの日の光で明るくなってきた。
地平線がくっきりと映し出され、周囲が何もない砂漠だけの世界に変わった。
小隊長、テト、モモ、ユフ、サラの五人は一列に並んで砂に足をとられながら歩いていた。
しばらく無言だったユフが口を開いた。
「目標地点には何があると思います?」
ユフが全員に話しかけたため、すぐに返事は返ってこなかった。
「たぶん遭難した輸送機…」
自信なげなサラは語尾が弱かった。
「じゃないな」
「そうだな。輸送機の装備では、全方向信号には応えられないな」
小隊長すっぱりと切り捨てた。
「わたしたちの知らない『U』の基地があるのでしょうか」
ユフの質問に小隊長は少し首をかしげた。
「今はその可能性が半分、だな」
そうテトが応えた。
「残りは、『V』の秘密基地という可能性だ」
「なるほど」
「考えてみれば、Vの基地を全て制圧したはずなのに、大量の隕石を降らせ、我々の基地を全滅させることができるのはある程度の規模の基地がある証拠だ」
「でも、可能性は半分なんですね」
モモの言葉が少し重く聞こえた。何かを計算しているようだった。
「ああ。これから行くところは、過去百年間我々もVも訪れたことのない場所だ。だから、…」
モモが叫んだ。
「敵です! タイプは、N」
すかさず小隊長が返した。
「数と距離!」
「数は1、距離10000」
「どこ?」
「進行方向延長上です」
「どうしていままで分からなかった?」
「依然としてセンサーの精度が回復していません。光学測定と解析で発見しました」
「デフォ子、どうする?」
「もう、引き返せない。こっちも捕捉されているだろう」
「相手はタイプNです。この距離では最高速度で迫っても、勝てるかどうか」
サラとユフには、テトたちが何を話しているのか分からなかった。
サラが素直に聞いた。
「小隊長さん、素人考えで悪いが、相手は一人なんだろう。五人でかかれば、勝てるんじゃ…」
「正直、タイプNは弱い」
「じゃあ、なんで…」
ユフはみんなのやり取りを見守っていた。
テトが応えた。
「タイプNの特技は、トラップなんだ」
小隊長は視線をサラからタイプNのいる方に伸ばしながら言った。
「ヤツの視界に入ったということは、トラップの中に入ったということなんだ」
「いくらトラップが仕掛けられているといっても、この砂漠じゃ地面にしか仕掛けられないだろ? テトが空飛んで襲ったらおしまいなんじゃ…」
サラが言い終わりかけたとき、五人の背後の地面が盛り上がった。
唸るような低いモーター音とともに、砂の中から一台の戦車が現れた。
同時に戦車砲が火を吹いた。
それまでの静寂は破られ、轟音が五人のいた辺りの中心に落ちた。五人はすでに散開していた。
小隊長は対戦車砲を取り出し、放った。見事に命中し、戦車は火柱を上げて崩壊した。
だが、ほっとする間もなく、砂の中から数台の戦車が現れた。
「全員、タイプNに向かって、走れ!」
小隊長だけが戦車に向かっていった。
「デフォ子、そっちは…」
「わかってる。時間を稼ぐだけだ」
それを聞いてテトは走り出した。
小隊長は手近な戦車に取りついた。
戦車の上で何か作業をしてから、別の戦車に飛び移った。
別の戦車でも同じ作業をして、戦車から離れた。
小隊長が何かのスイッチを押すと、二台の戦車は向きを百八十度変え、他の戦車に攻撃を開始した。
「さすが、デフォ子」
走りながら後ろを見ていたテトは手を叩いた。
そこに猛スピードで走ってきた小隊長が追いついて言った。
「作戦中は、『小隊長』だ」
モモが冷静に報告した。
「後方、敵車両、増加。数、30 」
走りながら、サラが聞いた。
「このまま、まっすぐで、いいのかな?」
「相手がトラップ使いなら、当然罠を仕掛けてるだろうな」
「だったら、分かれて目指した方がよくないか?」
「おそらくそれが狙いだろう」
「え?」
「五人揃っていれば、ある程度のトラップに対処できる。分散すれば各個撃破の対象になる」
「一対一では勝てないが、五対一なら勝てるかも、と」
「テト」
「なんだよ?」
「今のは良かったぞ」
「そりゃ、どうも…」
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