疲れた。
久しぶりに首都圏への出張だった。
なんとか無事商談も終え、得意先と別れた俺は独りホテルに帰り、缶ビールを開ける。
商談の内容はあまり良いとは言えないが、まぁ終わったものは仕方ない。
成功したとろで、全部上司の手柄になるわけだし、ほどほどが一番だわ。
気を取り直して、缶ビールをゴクリゴクリと飲む。
普段、地方で働いているため、首都圏に来ることは滅多に無い。
久しぶりに都会の空気に触れた俺はテンションが上がり、それに明日から休みで余裕もあったので、夜の街へ繰り出すことにした。
キャバクラや風俗に行く程、元気もお金も無かったので、小さな飲み屋に入ることにした。
外観の地味な感じとは違い、内装はなかなかオシャレな作りで雰囲気がある。ピアノやギター・ベースといった楽器も置いてあった。あまりオーディオには詳しくないが、スピーカーも高価な感じがした。
BGMも少し古臭いが、個人的に好きな曲が流れている。
カウンターに座り、ビールと適当にピーナッツを頼んだ。うまい。
店内を見渡すと、CDが棚いっぱいに並んであった。「ご自由にご覧ください」とのことだったので、お言葉に甘えて、一つ手に取ってみる。
奇抜なものから、かわいいキャラクターもののジャケットがあった。はっきりいってあまり知らない曲ばかりだった。しかし気になったのは、どのCDにもJANコードがない。つまり一般流通あまりされていない、即売会等のイベントで売られたものであろうと察しがつく。なんとも物好きなコレクションだなぁ。
店内に流れている曲は、どうやら客のリクエストを受け、店主が流しているようだ。客といっても数人しかいないが。
「マスター、これ流してよ」
「あいよ。あらま、これはめずらしい」
客の1人が1枚CDを持ってきた。どうやら、奇怪なCDらしい。
BGMが一瞬鳴り止み、次の曲へと移る。なんともありがちなイントロだなと思いながらしばらく待つと、
違和感のある滑舌の悪い機械的な歌声が聞こえてきた。
…VOCALOID。
もう何年前の話だろうか。
ボカロが有線に流れ、オリコン1位をとっていた時代もあった。
しかし、諸行無常・盛者必衰の理で、ブームはいつか廃れるものだ。
理由としては某動画サイトの衰退によって発表する場を失ったこと。
「ボカロは儲かる」とインスト会社が次々に参入。最終的に50を超えるボカロができた。あまりにもゴリ押しな宣伝する会社も多く、商業的なものが嫌で離れて行った人が多かったのも主な原因だと思う。
最後はパチンコ会社に権利を売って、「初音ミク台」なんてものもできたし、
こっちは冷めきっているのに、宣伝だけゴリ押しで見ていて痛々しいものがあった。
当時、俺もそこそこ名の売れていたボカロPで、殿堂入りも何曲か持っていた。
実力のある人はどんどんメジャーデビューしていったけど、自分にはそんな実力も努力も勇気もなかった。今でも活躍している人はいるが、ボカロなんて使っているひとは1人もいない。
…まぁ、そんなわけでVOCALOIDなんてものは久しく聞いてもいなかったわけだ。
久しく聞いてみると、どうだろう。やっぱ機械的な声だし、人間には敵わないのかな、と思ってしまう。
エディタ上で四苦八苦して「神調教!!」なんて言われても、違和感も感じてしまう。
当時は自然に聞けていたのになぁ。
なんてことを考えながら曲を聞いていると、先程曲を流した客がこちらを見て声をかけてきた。
「VOCALOID、ご存じで?」
「ええ…。まぁ、それなりに」
どうやら、少し自分挙動がおかしかったのか、ボカロに興味をもっていると思われたらしい。まぁいいや、ひとりで飲むのもあれだし、からんでやろう。
「なつかしいですよね。私、当時よく聞いてましたよ」
「当時はすごかったですよね…。でもすっかり今じゃ…」
「あははー。いろいろありましたもんね。私、今でも聞いてますけどねw」
「今でもですか?物好きですね…」
「すっごい好きだったんですよっ!自分でも曲作ってましたし!」
「おぉ…ボカロPさんって奴ですか?ちなみになんという名前で?」
「えぇと、実は………」
驚いた。目の前のいるのは当時の大物中の大物。自分とは比べ物にならないくらいのボカロPだったはずだ。出す曲は10万再生なんてものじゃない。アップすればランキングは歌ってみた等の関連動画で埋め尽くされ、100万再生の曲だっていくつかもっていたはずだ。メジャーでもCDいくつか出していたし、おしっこちびれそう。
「昔の話ですよ。今となっちゃ、ひどいもんですw」
「いやはや…まさかそんな大物さんだったなんて…自分なんて…」
「あれ?もしかしてあなたも?」
「恥ずかしいP名なんですけど…実は………」
「あっはっは!あなたでしたか!動画毎回拝見させていただいてましたよ!」
昔のボカロP名で呼ばれるのはすごく恥ずかしかったが、それ以上になつかしいものがこみあげてきた。
「それにしても」
「そうすね…お互い…」
「「変な名前!!」」
お互いよくこんなHNでやってきたもんだ。
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小説「お前のその恥ずかしいHN」1部完
昔のHNを思い返すと、やっぱり恥ずかしいと思うんですよね。
まぁその時代時代にあった活動をそのHNでやってるんですけど。
あらゆる物事は諸行無常。いつか終わりがきます。
終わったあとでも、あとで振り返って笑えるような活動をしたいものです。
っていう曲を書きたいなぁと思ってストーリーっぽいものを書いてみました。
【小説】お前のその恥ずかしいHN
http://piapro.jp/content/6ydcv4evrj75ngnd
世界観お借りしました
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光栄ッスww
第1部ってことは、第2部第3部があるって事ですよね?
リアルのボカロPさんが、この世界観でどんな物語を見せてくれるのか楽しみです!
完結したらガッツリ感想書かせて頂きます。
……ところで、クソゲー実況プレイの小説マダー?(w
2011/10/01 23:46:16