タグ「鏡音リン」のついた投稿作品一覧(8)
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今更怖いものなんて僕らにはなかった。人を殺してしまって、死ぬために逃げている僕らを怖がらせるものなんて、一体何があるというんだろう。
ここ数日で長時間乗り続けることにも慣れた電車に揺られながら、窓の外の景色をぼんやりと見つめる。隣に座るリンも、同じく景色を見ているようだった。
「昨日、いろいろネ...あの夏が飽和する。【後編】
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「私、田舎に行ってみたい。静かで景色がいい所がいい」
そう言うリンの希望で、東京とは逆方面に向かう電車に乗り込む。終点がどこなのか、何県なのかもよくわからないが、別にそんなことはどうだってよかった。ただ、逃げ出したかったんだ。
券売機の上にある路線図や流れる風景を見ていると、自分たちがいた世界が...あの夏が飽和する。【中編】
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「昨日人を殺したんだ」
雨が地面や屋根を打つ音がうるさいぐらい鳴っているのに、リンのその小さな声はよく響いた。
「レン」
全身ずぶ濡れなのに、涙が流れた跡がよくわかった。
「私、人殺しになっちゃった」
梅雨時で蒸し暑いぐらいだというのに、リンの体はひどく震えていた。
他の人たちより少し暗い人...あの夏が飽和する。【前編】
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電気屋の音楽機器売り場にはたくさんのイヤホンやヘッドホンが並べられている。予算は千円から三千円。もっと高い物のほうが音質はいいが、バイトをしていない学生にはそのぐらいが限度だ。
数ある物の中でも、カナル型のイヤホンに絞って探してみる。うーん、どれにしようか……
「ねえ、これ」
そんな中で差し...イヤホンとセンスと幼なじみ【後編】
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「あ、教科書忘れた」
ざわざわと賑やかな昼休みの教室。昼休み前に行った席替えで、窓際の一番後ろという、教室内No.1の席のくじを運良く引き当て喜びに浸っていたのもつかの間。この席だと授業中先生の目に留まりにくいな、あれ、そういえば次の授業なんだっけ──そんな思考の流れから、数学の教科書を部屋の机...イヤホンとセンスと幼なじみ【前編】
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「幼なじみって、いいよね」
ふと聞こえてきた言葉は、聞き間違えだと感じさせるには十分で、むしろそうであって欲しかった。そう、これは聞き間違いなのだ。
「リンちゃん、心底理解できないって顔してるね」
「友達にそんな顔されたの人生で初めてだわ」
しかし現実は非常なり。この顔は無意識に出たもので...ヘアピンと約束と幼なじみ
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『一時はね、お昼ご飯を食べ終えて、診察も終わって、ほっと一息つける時間なの。一人にしてって言ってあるから、誰も入ってこないわ』
少し前、リンは笑顔でそう語っていた。
だが、今目の前に広がっているのは──
「リンお嬢様、大丈夫ですか!?」
「早く、早くお医者様を……!」
苦しそうに胸を押さえるリ...鎌を持てない死神の話【後編】
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──退屈だ。
街を歩きながら思うことは、ただそれだけ。
賑やかな所だが、何年暮らしていても、その思いは一向に変わらない。
退屈な気分を誤魔化すために『人間の暮らし』とやらを送り始め、人間と同じように働き、就寝して、起床し、飲食をするなど、いろんなことをした。自分にとっては不必要なことだが、長...鎌を持てない死神の話【前編】