悪ノ召使-1

投稿日:2010/11/11 12:16:37 | 文字数:4,665文字 | 閲覧数:600 | カテゴリ:小説

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かなり今更な感じですが、レンが活躍する悪ノ小説を書きたくて書いてみました。テキスト初投稿ー。

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どうして誰も止めてくれなかったんだろう。
どうして誰もちゃんと教えてくれなかったんだろう。
それは最後まで僕にまとわりついた想いだった。

けれど、一番強く想っていたのは、なぜ自分が止められなかったのか。なぜもっと大人でなかったのか。
なぜ僕らは双子だったのか。


虚しい問いかけには答える者もなく、15時の鐘と共に僕の魂は虚空に散った。



悪ノ召使



この国、クローチェオの王政は長いこと続いていた。いくつかの権力争いや暗殺などの波がありながらも、大きな変革のない数百年がそこにはあった。腐敗した政治の裏側は市民には見えないし、子ども騙しのような市民のための政策に目眩ましをかけられてここまで容認されてしまっていた。
誰かもっと早く、この国を変えてくれれば。母が暗殺される、その前に。

クローチェオは何度となく女王がトップに立ってきた。家と家の思惑や力の差によるものだが、実権を握っていた者は少ない。母もそんな一人だった。女王とは名ばかりで、政治にはほとんど口を挟むことはできなかった。
おっとりとして人の良い母は言いくるめられ、権力の矢面に立たされ続けた。彼女は緑豊かで光溢れるこの国が好きだったから。それを背負って国の為になるならと背を伸ばして立っていた。
そして、勢力争いに巻き込まれて文字通りその身を散らした。父も母もこじつけのような罪状を叩きつけられ斬殺されたのに、大臣によるクーデターは結局成功することなく、女王一派がその権力を守った。父も母も無駄死にだったということだ。
このクーデターを経て、若冠11歳の双子の姉は女王に即位する。

僕らは双子としてこの世に生を受けたけれど、それを知るのは城内でも数えるほどしかいなかった。双子は不吉だからだ。恐らくは権力争いを恐れたのだろう。生まれてすぐに姉のリンは王女として、僕は城付きの召し使いとして育てられた。こういった場合、遠くにやることも多いだろうが、母は僕を側に置きたがった。
僕は別に国なんて欲しくなかったから、この扱いの差に不満はなかった。リンは時々、僕にも美味しいものを食べて欲しいと言って入れ替わることもあった。ひらひらのドレスは気恥ずかしかったけれど、リンの気持ちが嬉しくて食卓に着いた。母にはバレていたけれど、その他の誰にもわからないくらい、僕らは似ていた。城内で素性を訊かれた時は遠縁なのだと誤魔化した。
召し使いとしての生活も、特別な計らいがあり、ほとんどの仕事はリンに関係するもので、いつも二人は近くにいた。ただし、人前に出る時は離された。城で留守番をしているか、郊外へ使いに出された。とはいえ、小さな頃はリンと遊んでばかりいたので仕事をしていたなんて気持ちはほとんどなかった。僕はリンが可愛かったし、陰から彼女を守ろうと思っていた。それは母との約束でもあった。いつか彼女には大変な時が訪れる。だから守ってあげてと僕に言った。僕はまだ世界を知らなかった。だからなぜ母がそんなことを言うのかわからなかったけれど、ただ幼心に母に頼りにされたのが嬉しくてしっかりと返事をしたのだ。


朝はゆっくりとやってくる。まだ日が昇らないうちの白を滲ませた空が僕は好きだった。まだ城内も街も静かで、鳥だけが活動を始めている。誰もいない庭で月が溶けていくのを見ていた。

「レン~?今日も早いね。」
バルコニーから毛布をかぶったリンが顔を出す。
「おはよう。そんな格好で出たら風邪引くよ。」
「うん。私もうちょっと寝る~」
「うん。また後で。」

手をひらひらと振ってリンは部屋に戻っていった。女王となって2年。僕らは13歳になっていた。この2年、政治はほとんど周囲の大人が担っていた。僕らは極端に外出を制限され、城に籠りきりだった。
外交関係の仕事のたび、リンは駆り出されていったが、もちろん僕はそこへは行けない。時々城内の同僚から物騒な噂も漏れ聞こえてきたが、子どもの僕に気遣ってのことか、詳しい話は聞けなかった。
世の中の動きとリンが、少しずつ遠くなっていく。いつかあの月のようにリンを見失ってしまいそうで、恐ろしかった。


その日は海を越えた東国、チェレステの王子が国交のためにこの城に招かれていた。島国であるその国は海の青を神聖な色とする王室だったため、その日のリンのドレスは青を選んだ。裾は斜めにレースが入れてある。同じレースで髪飾りも作ってあった。豪奢な作り。リンはこれに疑問など持たないだろう。生まれてからずっと身につけてきたのだから。
このドレスが一体どれくらいの金額でどれくらいの対価が払われているのか。召し使いとしての生活と王族としての生活のどちらもを見てきた僕には、少しずつこの生活の差に違和感を感じ始めていた。なにも生産しない、なにも奉仕しない自分たちが市民の年収を一瞬にして消費する。自分たちにそれほどの価値が果たしてあるのだろうか。


「レン。用意できたよ。いつもありがと。」
青のドレスを纏ったリンが出てくる。リンはいつでもごめんなさいとありがとうを忘れない。それは母が教えてくれた大事なことだ。でも僕はいつだってそれを茶化した。13にもなったら双子の姉に毎日ありがとうを言われるのは気恥ずかしいものだ。
「今日は晩餐会があるから、汚すなよ。後で着替える時間ないからな。」
「な、汚さないわよ!失礼な!じゃあ、私朝ごはん。」
「あ、髪飾り、曲がってる。はい、いいよ。」
「ありがと。」

ちょっとむくれた顔で一言残して裾を翻し、リンは行ってしまう。ただし、ドアを開けてこちらに目線を寄越すと、目だけで笑った。茶化してはいても、僕がいつだってその一言のためにリンの周りの仕事に手を抜かないことを彼女は知っているのだ。だから、双子なんて嫌なんだ。通じすぎて、筒抜けで、困る。

今日は、リンが国事、僕は隣国ヴェルデッツァに出かけることになっていた。僕は王子が来る前に出立しなければならない。どんな人なのか見てみたかったけれど、国外の客人が来る時、特に僕はリンから遠ざけられた。人の口に戸は立てられぬ。国外ともなれば検閲だってできない。良く似た使用人が城内にいると知れたら、たちまち噂が広がるだろう。不吉な双子が生まれていた、と。

隣国ヴェルデッツァは上質な布がたくさん流通していた。今回もリンの次の誕生日に贈るドレスの布を探しに行くのだ。自分の好きなものを選べばいいのにリンは僕が好きなものは私も絶対気に入るから、と僕に任せた。昔一度自分でドレスを作ると言ってとてつもない布の種類と型とデザインに目を回したことがある。苦手意識があるのかも知れない。
でも、僕にとってそれは容易なことだった。自分に似合うものを探せばいいのだ。リンと同じ、金の髪と蒼の瞳に合うものを。

朝食を終えたリンに一声かけて、僕は城を出た。城門を出るとなだらかな下り坂。レンガで舗装された美しい道だった。その向こうに見える街並み。市場の方から賑やかなざわめきが伝わってくる。街道に出るためには人通りの中を抜けなければならない。僕は少し帽子を深く下げて歩きだした。
街の様子にそこまで大きな変わりようはなかったと思う。ただ、なんとなく以前より活気がないような気がした。街道に出るところで馬を借りる。公費として支給されていた金額を支払う。いつもと同じ金額。持っていたので買ってはいないが、一緒に並んでいた水の値段が高いような気がした。
よく考えてみたらここのところ良い天気が続いていた。雨が、降っていない。城内はいつも全てが満たされていて、なにも問題がないかのように感じてしまう。国内は水が足りないのかもしれない。
街道を馬で走る。風はカラカラしていて、どんどん僕の水分を奪っていった。土も乾燥し、走った後に土煙が舞い上がっていた。水分が足りずに干からびた草もあった。
昼過ぎにヴェルデッツァへ着き、馬を預けようと店に行く。ここは公費とはいえ、値段は変わる。国内とは違うのだ。その値段に僕は驚いた。店主に言う。
「値段上がりましたね?」
「馬に飲ませる水も食べさせる草も値段が上がってるんでね。このくらいじゃないとやっていけねぇんだ。」
地続きのヴェルデッツァとクローチェオの天気はほぼ変わらない。ということは、僕らの国も同じだということ。リンは、知っているのだろうか。

王室や貴族などが利用する高級店に向かう。今度の誕生日で14歳。リンが女王になって3年になろうとしていた。両親が殺されたのは僕らの誕生日だった。後から発見された、僕らへのプレゼント。それを直接受けとることなく、二人は逝ってしまった。だから、僕らの誕生日は両親の命日でもあった。女王の誕生日だから、城内では盛大に祝うけれど、去年も一昨年も夜は泣いていた。リンが泣き疲れて眠るまで、側にいて手を握っていた。そんなリンが昼の間は笑っていられるように、今年もリンに喜んでもらえるドレスを用意しよう。

先客が一人。髪の綺麗な、かわいらしいお嬢様で、執事を一人従えていた。その様子だとどこかの貴族の令嬢だろう。
店のオーナーが出てきて僕に挨拶をする。ドレスのオーダーをお願いしますと言うと椅子を勧められた。
「ああ~!リンさん!?」
ぎくりとして振り返ると、先ほどのお嬢様が僕に目線を寄越していた。
「…僕、男ですけど。」
かろうじて応える。
「え、あ、そっか。ごめんなさい。とてもよく似ていたから。」
まさかリンを知っている人に会うなんて。
「確かに僕はクローチェオの人間で、女王とは遠縁です。よく似ていると言われますから、気になさらないで下さい。」
「あ、そうなの。リンさんはお元気?まだ女王に即位なさってすぐにお会いして以来だから。」
「お元気でいらっしゃいますよ。もう少し先ですが誕生日なので、ドレスの用意に参りました。」
「誕生日!素敵ね。それにしてもあなた、若いのにしっかりしてるのね。リンさんと同じくらいかしら?」
「一つ上で15歳になります。ただのご用聞きですよ。小さな頃から仕事を与えられていますので、言われたことくらいはできます。」
年は違うことにしていた。誕生日もリンとはずらしていた。僕の本当の誕生日を祝ってくれるのはリンだけだった。二人だけでこっそりと二人の誕生日を祝うのだ。

「そう。私、最近のリンさんの様子が伺いたいわ。あなたの用が終わったらお茶でもいかが?」
さすがに言い淀んだ。この申し出を受けて良いのか。隣国の貴族だ。国内情勢を聞き出したいのかもしれない。
でも、考えてみたら僕には国内情勢なんてなにも知らされていないのだ。話しようがない。逆に僕の方が、何か情報を得られるかもしれない。
「お嬢様にご迷惑でなければ。」
「あら、私が誘ったのよ。じゃあ決まりね。早くお互いの品を決めてしまいましょう。」
そう言ってにこりと笑うと担当者との話し合いに戻っていく。そこに何の裏も意図もない、澄んだ笑顔だった。美しい笑顔だった。

結局、リンのドレスは当初の予定通り、イエローにした。陽の光を吸い込んだ海のような碧と、かなり迷ってしまった。けれどまだ13歳のリンには早いような気がした。まだ、ひまわりのように笑い、無邪気な振る舞いをするリンには。その碧はもう少し大人の顔をする、彼女の瞳の色だったのだ。

レン廃の一途を辿っています。カプはレンミクが好き。レンミク友達募集中!

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