Vaib_Lasionの投稿作品一覧
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ドアのチャイムの音に、
山羽根がインターフォン越しに聞く。
「はい、どなたですか?」
その声に、男の声が答えた。
『紫苑だ。咲祢は来てるか?』
ドアを開けると、
両手に彼らの私物を詰め込んだ袋を持った
もと上司の姿があった。
「室長…」
奥から咲祢と神委も出てくる。...始まりの音6
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外の騒ぎがおさまって、
紫苑室長がつぶやく。
「…残念だったな。
おまえらの考えてたことは
全部会社に筒抜けなんだよ。」
そして手元にあったマウスを掴んで
口元に持っていく。
「これから作業を始める。
咲祢を入れてくれ。
何にもできん奴だが...始まりの音5
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その日は、突然やってきた。
昼の休憩時間が終わると同時に、
入口から数人の男を従えた
中年の女性がやってきたのだ。
それを紫苑室長が出迎える。
「開発部長直々においで頂けるとは…」
中年の女性は室長に横柄な口調で聞く。
「紫苑くん、早速だけど話にあったプログラムは?」
「そのパソコンに。」
室長が言...始まりの音4
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長い夜を越えて、朝が来た。
その日、咲祢は珍しく
一本早い電車に間に合って、
いつもより早く出社した。
部屋のドアを開けてすぐ、どこからか
可愛らしい歌声が聞こえているのに気付いた。
それが山羽根のパソコンであるのに気付いて、
彼女はすぐにヘッドセットを付け、
モニターをオンにした。
「朝から歌って...始まりの音3
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『Vocaloid』という歌声を得た
『基本プログラム』が、
自ら歌のデータを求める。
歌のデータを<欲しい>という
『それ』に、
神委が
ポータブルプレーヤーの曲を与える。
すると、
『基本プログラム』はそれを解析し
『Vocaloid』の声で歌う。...始まりの音2
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ヒトとプログラムの
重要な違いの一つ。
それは、
自らの《意思》を持つか否か。
ヒトに近いプログラムは、
将来のサイボーグへの応用も含めて
さまざまな企業で
開発が進められてはいたが…
その時はまだ、
自らの《意思》による行動...始まりの音1
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▲深刻なエラーが発生しました▲
▲深刻なエラーが発生しました▲
▲深刻な…
…プツン。
男は、大きく息をついた。
モニターの光が消えた古いパソコンの前で。
椅子にもたれかかり、長い事そのまま座っていた。
>………スタ…ト…
>…プログ…ム……検…証……
>………損傷箇所…………修復………完了。...小説版「カイトの消失」5
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男は古びたパソコンの前で、
旧式のキーボードを打ち続けていた。
やっとその手が止まる。
画面には、文字のやりとり。
言葉にしながら、男は文字を打ち込んだ。
「始めるぞ、KAITO。」
そしてEnterキーを叩く。
『始めるぞ、KAITO。』
その言葉を表示した後、テキストエディタは閉じられた。
俺の...小説版「カイトの消失」4
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翌朝。
マスターはカメラを持って
二階の寝室から降りて来た。
部屋の中央の作業台の上に箱を2つ積み上げて、
その上にカメラを置く。
「マスター、俺を撮影するんですか?三脚とかは…」
「そんなものはない。」
そう言って、俺の所に来る。
「えー、俺とマスターのツーショットですかぁ!?」
「文句言うな。ほ...小説版「カイトの消失」3
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俺がここに来てから、1ヶ月半が過ぎたある日の事。
俺の歌を聞いていたマスターが声をかけて来た。
「おまえ、それ、どうした?」
「え?」
マイクで拾うかぎり、
俺の声におかしな所はない。
質問の意図が掴めなくて聞き返すと、
マスターが仕事用のパソコンから俺の方に来た。
最初にスピーカやマイクをいじって...小説版「カイトの消失」2
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今日もいつもの様に
起きて来たマスターが
仕事用のパソコンの前に座る。
俺は、いつもの様に
邪魔にならない程度の音量で歌を歌う。
昼前に部屋を出て行くのは、近所のコンビニに昼食を買いに行くためだ。
いつもの様に日常が過ぎて行く。
「今日は3時頃に客が来るぞ。」
昼食にコンビニ弁当を食べながらマスター...小説版「カイトの消失」1.5
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こちらからは、
もうノイズがひどくて外の様子はかすかにしか見えない。
外の音を捉えるマイクから響く音は、
音声解析ソフトがダメになってしまってからは只の雑音でしかない。
マスターとのコミュニケーションは、
テキストエディタを介した文字のやりとりだけになってしまった。
ノイズだらけのモニターには、
ま...小説版「カイトの消失」 1
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【おはようからおやすみまで…】替え歌歌詞【今は亡きマスターへ】
おはようございますマスター。
今日は朝からいい天気ですよ。
どの歌を歌いましょうか?
あなたの遺した楽譜の中から…
いってらっしゃいませマスター。
泣きながら見送ったあの日、
僕も一緒に行きたかったけど…
あなたは来るなと言うんでしょう...【おはようからおやすみまで…】替え歌歌詞