霧島 要の投稿作品一覧
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俺様天才プログラマ
「ただいま戻ったでおじゃる」
外観からは廃墟に等しい軽度汚染地域の一角、そこに『絶叫の悪魔亭』はあった。まるで大昔の酒場みたいな妙な名前だが、その栄華は朽ちている看板とともに既に失われていた。
樫の木で出来た分厚い扉の先は暗く、人の気配は感じない。がらんどうの広間に調度品はほ...緋色の弾丸 その6
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そこはウォーターフロントにそびえる巨大なオフィスビル群だった。
他を圧倒するような高さと威圧感。いくつものフロアにまだらに点在する明かりは不夜城を思わせる。
ジハドには狭い部屋に無秩序に積み上げられた段ボール箱を思い起させ、その対比が少しだけ可笑しく、失われた記憶が燻る感情を覚えた。
既に真っ...緋色の弾丸 その5
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小さな依頼人
懐かしい。
その一言で全てが足りた。我が家の匂いとも言うべきものか。煙草のヤニとか何かが腐った酸っぱい臭いとかそういうダイレクトなものではなくて、長年住んでいることで染み付く生活の匂いだ。
まぁ、そんな大それた表現を使うまでもあるまい。ようするに八畳間に風呂トイレキッチンがついた...緋色の弾丸 その4
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「破損率が高いとかなり信用できないから、完璧には治せないし、いっそばっさり切り捨てるのがいいと思うけど。どうするよ?」
「消したらどうなる?」
「敢えて言うなら、そう――」
夕澪は尻尾をくねくねと揺らしながらしばらく考え込んでいた。そして丁度いい比喩が見つかったのか顔を上げ答えた。
「夢から覚めた...緋色の弾丸 その3
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「起きてくださいよ」
「う、うぅん……」
頬に冷たくて硬い感触を覚える。そして埃っぽい匂い。
うつ伏せで、なんだか床のようだ。手で撫で、このざらざらした感覚はコンクリートに他ならないと思い至る。
「ねぇ起きてくださいってば」
揺すられる。だるい。
さっきからうるさい。やかましい。
人が気持...緋色の弾丸 その2
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冷たい雫
雨が降っていた。
細い吐息は白く、晒した手がかじかむような氷雨が、暗い禍々しい黒の曇天より街へ降り注ぐ。
その止め処ないゼロ度の雫はひとりの男の頭髪に落ち、そしてコートの肩へと流れ、曇天より尚暗い色をした銃身を伝い濡らした。
「さぁ、早いとこ蹴りをつけよう」
真...緋色の弾丸 その1
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「一番隊前へ出ろっ! 二番三番隊はボーリング班の護衛だっ!」
キメラの大群がボーリング班を包囲していた。その数十一体。それらは奇声を上げて無防備な班――主に女子供、老人――ににじり寄っている。
「班長、だめです。数が多すぎます……」
「キーハ、貴様はそれでも一番隊の斬り込み隊長か! 弱音を吐くな!...絶望の廃墟に降る死の雪_完結
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疾走するアウターバイクの速度を徐々に緩めていく。
(……そろそろだな)
放射能の安全圏をもうじき抜け出る。これより先は生身の部分を晒す事はできない。毛髪の一本すら、だ。
バイクを止め、マスクを外した。三百キロの速度から顔面を守るためのそれは頭部の露出部分が多く、お世辞にもNBC装備とはいえない。...絶望の廃墟に降る死の灰_その3
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滅亡のハイウェイ
滅亡のハイウェイ。溶け、歪んだアスファルトがそう呼ばせていた。
時速三百キロの夜風がリオンの銀髪を激しくなぶる。アウターバイクは途轍もなく速く、鋭く、凶暴で、ただひたすらに直線のハイウェイを疾走する。
この冷たく閉ざされた世界は狭かった。バイクで丸一日もかければ端か...絶望の廃墟に降る死の雪_その2
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序章ではない始まり
極小の太陽が地に千度瞬いた時、世界は滅亡した。
降り注ぐ死の灰。
冬の時代の到来と、輝ける栄光の終末。
瓦礫は風と消えていくようにその姿を崩し、陽の光を遮る曇天は温もりと共に僅かに残っていた希望すらも奪う。
荒れ果てた街、その崩れ落ちたビル跡の一角でも、今、ひ...絶望の廃墟に降る死の雪_その1