↓Bの投稿作品一覧
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一
日光浴をしに縁側に出たら庭に未確認飛行生物が来ていた。上空三メートルに立ったまま浮いているそいつは幼女に猫耳が生えて猫シッポが生えたような格好でしかも巫女服を着ていた。人外である。アンアイデンティファイド・フライング・ジンガイ。UFJだ。
俺は枕用に持ってきた座布団を二つ折りで縁側に設置す...【小説】未知との冷遇
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拝啓 親父殿
晴れ間が多くなってきたな。この長梅雨もじきに明けるだろう。
店は繁盛しているか? 晴れた日はちゃんと換気しろよ。カビは見えないところにいるんだからな。味が悪いんだから、店の中くらい清潔にしろよ。
そうそう、終業式は来週だそうだ。夏の間、またしばらく厄介になる。お隣のモモも親父殿...【小説】夏到来、死なない冷やし中華始めました。
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このあいだまで時をかけていた人々が最近は仏陀がどうだなどと騒いでいる。世間はいつだって愛に飢えているのだ。
「まるで自分は別だとでも言いたそうね」
右斜め前方の少女から物言いがつく。読心術を心得ているらしい少女は一見したところ小学生らしい風体をしていた。ショートの赤毛。真っ赤なランドセルがピカピ...【小説】幼女の吐息
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基本はチーズカレーの大盛りだ。
それに七味をたっぷりかける。ガラムマサラなんてシャレたものがあればその方が合うのかもしれないが牛丼屋にそんなものはない。やたらスパイスをきかせたピリピリするカレーに七味の辛さが加わってホットな感じになる。そして微妙にリゾット風味のチーズ。そんなチーズカレーのことが...【小説】昼休みの計画
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その炎は川べりの芒(すすき)を焼き払い、馬鈴薯(ばれいしょ)の段々畑を煙にうずめ、赤松の山肌を火の粉に変えて、私の心を黒こげにした。それでヨシユキと目が合うたびに、私の胸は焼きすぎたトーストのような苦みに襲われる。ヨシユキはそのとき私の一つ下で、農学部の二回生で、野球部の球拾いをしていた。
ひょ...【小説】二十歳の夜に
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「誕生日おめでとう俺。さあ祝え」
「知らないわよ」
と言いながら鈴音は俺にキスをした。
夕暮れで、昇降口で、部活帰りだった。
「……お前、俺のこと好きだったのか」
「違うわよ。バカじゃないの」
「ツンデレ?」
「死になさい」
「死にたい」
「十秒待つわ」...【小説】世界は平和です
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薬瓶がある。
暗い色をした百ccほどの小瓶で、色の判然としないさらさらした粉末が入っている。
色褪せたラベルには大小の文字が整然と並んでいる。製造者。類別。保管上の注意。ラベルは巨大だった。
ドクロマークのような気のきいたものはない。強いていうなら『劇薬』のゴシック体が太枠つきで赤く強調され...【小説】マイルームにスプーン一杯の劇薬を。
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裸の右腕を台に載せる。台にはシーツが敷いてある。白いシーツだ。言ってしまうといかにも味気ないが台はただの台でなく手術台であるのだった。手術台は人一人横たわれるくらいの長さがあるので右腕一本でその全てを支配することはできない。あちらでもこちらでも空虚で胡乱なスペースが白い白いシーツのまま僕を圧迫して...
【小説】人の生
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双子の一人が言った。オルゴールのぜんまいを巻きながら言った。
「きみは、なぜ食べているんだい」
言われてみると、たしかに僕は食べていた。何を食べているのかはちょっと分からない。
それでもなにか差し迫った理由が、気まぐれや道楽のようなものではない差し迫った理由があって、僕はそれを食べていた。その...【小説】食べる
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雨を眺めるのが好きだ。
昼であれ夜であれ、ぱたぱたと屋根を打つ音が聞こえると、僕の心は応えるようにさわさわとささめき立つ。それが心地よくて、降り始めのこの瞬間がずっと続いたらいいのに、と思うのだが、なかなかそうはいかない。でもそのあとに訪れる、しとしととした時間も、いかにも雨がここにいますという...【小説】蛙
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「下の名前は飛ぶ鳥で」とアスカさんは言ったけれど、僕は彼女の名前を残らずカタカナで書ききったのち出席簿を後ろへ回した。
アスカさんは気づかない。僕を信用しきっているのだ。僕はこんなちょっとした悪戯にだっていつもばれた時の言い訳を考えているのに、それが披露されたことは幸か不幸か一度もない。彼女が鞄に...【小説】アスカさんのこと
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男には。
男には、決して曲げちゃいけねぇ信念がある。
男には、身を盾にして護らにゃならねぇ女がいる。
男には、死んでも守る、友との約束がある。
父さんの口癖だ。
男の三箇条。これを聞きながら僕は育った。
考えてみると、今の僕にはどれも当てはまる。
信念。女。友との約束。
男の三箇条...【小説】ハードボイルド・ハードル