warashiの投稿作品一覧
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世の男性が一度でも経験すればほぼ必ずと言っていいほど思うことがある。
『女の買い物に付き合うものじゃない』
ちょっと近くのスーパーやデパートなんかに入れば、その言葉の通り暇を持て余した男性の姿を見かけられることだろう。
女性とは、その多くが買い物にやたらと時間をかけたがる。挙句、何も買わずに戻...小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(7)
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メイコが思わぬ遭遇を果たしていたその頃。
ミクは人で込み合う教室の前に立っていた。
入り口の真上に立てられているのは店の看板だ。『乙女ロード』と煌びやかな装飾を施された文字が、華やかさを通り越して少し目に痛い。
目的の教室がここであることを確認し、ミクは一度頷いて教室へ第一歩を踏み込んだ。
...小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(6)
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二人の間に僅かに走る静寂。
その背後ではメイド服の女の子が二人組みの男性客に捕まって即席の撮影会ができ、様々な角度からフラッシュをたかれていた。
少しの沈黙の後、メイコの手を合わせた音が僅かな沈黙を破った。
「わお、それは行幸じゃない! で、どこら辺にいるのかしら?」
「ちょうど建物の隅の部屋...小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(5)
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卓は外出の際、大学の図書館へ行くと言っていた。ミクとしては、それ自体が嘘だと思っていた。
だからだろう、まさか本当に大学に来るなどと思っていなかったがため、ミクの驚きは相当なものだった。
そして、眼前に広がる光景が、ミクの驚きを更に強めさせる原因となっているのは明白だった。
「はぁ……これが文...小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(4)
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「それで、卓君が怪しい行動を取り始めたのっていつ頃からなの?」
ミクが定期的にはちゅねのマークを確認しながら、二人は駅前の商店街にまで来ていた。
先日の騒動の傷跡もすっかりなくなり、年齢問わず多くの人が闊歩している中でミクが携帯から顔を上げてメイコを見る。
「海に落ちてから2、3日したあたりです...小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(3)
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それはいつもと変わらない朝食風景。
最近ではすっかりミクの出すネギ料理にも抵抗が無くなり、さも当たり前のように二人と一匹(?)がお茶碗片手に焼きネギを食べていた、そんな食事時。
箸で掴んだネギを口に運ぼうとしていたミクはいったんその手を止めた。
「大学に用事……ですか?」
「ん、まぁ……そう」...小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(2)
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リンとレンとの騒動から数日。卓の生活にも再び静寂が戻り、落ち着いた日々が続いていた。真夏の暑さが更に増していくこと以外では、これといって不満のない毎日がただ続いていく。
だというのに、卓の眉はハの字を作って苦悩を露わにしていた。食らいつくように見つめるモニターには、ミクのボイスデータと真っ白なワ...小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(1)
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「おわっと!……レン?」
声の主であるレンは、卓の手元にあるものを指差す。それに合わせて卓も自分の掴んだものを見た。
手の平ほどの小さなデジタル時計だった。時計は一秒の表示を写したまま、まったく動く気配がない。
「スタートと同時にセットしておいた時計だよ。水没したときに壊れて時間が止まったらしい...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(11)
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ミクは、日が傾き始めた砂浜で頬をくすぐる風にちょっとだけ目を細めて、だけどまた海を見つめて微かに笑う。濡れそぼる髪が潮風に靡き、髪から零れ風に舞う雫がまるで光の粒子のようだった。
「あんま風に当たってると体調崩すぞ、ミク」
後ろから聞こえてきた声に、ミクは振り返る。自分と同じでびしょ濡れになった...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(10)
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「ミク!」
どんな音や風にも負けない、大きく力強い声が名前を呼ぶ。
卓だ。
とても強い力の篭った目で自分を見ている。それは、まるで自分を鼓舞してくれているように見える。だからだろうか、ミクは全身に武者震いのようなものが駆け巡るのを感じた。
僅かな時間の視線の交差。
ミクは自分の胸が熱くなっ...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(9)
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後ろから聞こえた破砕音に先輩も振り向く。バイザーのなくなったヘルメットの中から、かすかに赤い滴が宙を舞って流れていく。二人とも、最悪の事態を想定して凍り付いた。
しかし、次の瞬間。
「し、死ぬかと思ったああああ!!」
仰け反った体勢から戻り、卓は割れたヘルメットを投げ捨てて額を拭う。
「うわ、...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(8)
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卓達の住む音成町は都心からも離れた片田舎な町だ。それでも近年の人口増加に伴い、街自身の都会化が進めらた結果、音無町の各所には開発途中で止まっている建築物や道路が存在する。その殆どは一般に公表されていないか工事途中のため、未だ一般には情報が行き渡っていない。
そんな誰も知らないはずの一本の道、三車...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(7)
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「突貫!!」
リンの掛け声と共に、RPGが風を切るような音を上げ発射される。突然のことに固まっていた商店街の通行人や店の人間は、真っ直ぐと商店街の中央を駆け抜けてくる木の実のような形をした爆弾に驚き、怯え、しかし皆が一様に脱兎のごとく逃げ、それぞれが安全な場所にとゴミ箱や看板の裏、あるいは店の中に...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(6)
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<<ゲーム開始から10分経過 残り1時間50分>>
簡素な住宅街の道を一台の深紅のバイクが駆け抜ける。
制限速度無視、信号無視といった道路交通法完全無視状態で男二人を乗せたバイクは風となる。
運転手である先輩の後ろにへばりつくようにしてしがみ付いている卓は、走り出す際に渡されたヘルメットの耳元...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(5)
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「どうしましたか卓さん?」
いつの間に下りてきたのか、卓の後ろにミクが立っていた。卓はミクに事情を説明しようとして一息ついて口を開きかけた。その時。
「ミク姉ッ!久しぶり!」
「あぶはっ!?」
卓を押しのけてリンがミクの前に躍り出ると、ミクの両手を握る。押しのけられた卓は物理法則に逆らえず、その...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(4)
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突然突きつけられた意味不明の決闘宣言。
卓はただその場に立ち尽くして呆けた顔で固まっていた。
「・・・・とりあえずあんたらどこの誰なんだよ。一体なんの理由があってそんなこと言ってんだかさっぱりわからないんだけど」
ひとまず現実のことに目を逸らさず話を聞くことにする。ここしばらくで、こんなよくわ...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(3)
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日本の夏に慣れるのは、暑さに慣れたエジプト人でさえも厳しいと言う。それは、日本の夏が湿気を多量に含むジメッとした暑さのためらしい。そんな厳しい環境の中、今日も元気に生活していることに、卓はえらいなと自分で自分を褒めてみる。
ただしそれは、冷房の効いた部屋の中でのことである。
(あんな暑さの中じゃ...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(2)
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藤林孝則34歳。最近8年間の片思いを遂に成就させた、新婚ほやほやの幸運男だ。幸せいっぱいの日々の中で、最近では更に妻の妊娠がわかり、正に幸せの真っ只中である。
仕事場でも開発チーフというポジションを先月拝命し、部下との仲も良好。開発中の試作品も順調に完成へと近づいている。ATDという大きな企業の...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(1)
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「いやぁ、楽しかった!」
日が傾いてオレンジ色に染まった住宅路を、カイトとメイコは並んで歩いている。
「それにしても、まさかあのドッキリ作戦失敗するとは思わなかったなぁ」
「成功するって思ってたんだ、あれ」
カイトはまさかと思いながら苦笑する。そんなカイトに向けて、メイコは胸を張る。
「当たり前...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(7)
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どれくらい経ったのだろう。時計を見れば、既に30分以上ゲームを続けていた。今は卓がトイレに行くといって席を外しており、部屋にははちゅねとカイトだけが残っている。
結局、最後まで彼は自分がミクのマスターに選ばれたわけを聞かなかった。ただ忘れているだけなのか、意図して聞かなかったのか、それはわからな...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(6)
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カイトの言っている人形というものがボーカロイドであるとうっすら気づいた卓は、カイトの言葉に唖然とする。
「起動させた直後に、感情が成長を始める前にその子に対してひたすら殺すということだけを教え込む。他に何もないと、刷り込みをするんだ。感情の伴わない僕らは雛鳥も同じ。たったそれだけで、実際にこの話は...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(5)
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ミクたちが部屋に入ってからしばらくすると、俄かに華やかな笑い声と物音が居間にまで聞こえてきた。検査だけするにしては随分と賑やかなようだ。
元からあの二人はとても打ち解けていたように見えたから、もしかしたら二人で何か楽しげな話でもしているのかもしれない。
うら若い女性が仲良く語り合っている光景。...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(4)
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ミクが来てから、それまで空き部屋となっていた卓の隣の部屋は、ミクの部屋となっている。
装飾品の少ない簡素な8畳ほどの部屋。あるのはテーブルとベッド、それに小さな本棚だけだ。女の子らしい何かは一つもない。
普段は静かなその部屋で、今は珍しく小さな電子音とキーを押すタイピング音が響いていた。
着...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(3)
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体中から嫌な汗が出るのを感じながら、卓は急いで青年の下へ走りよる。こんな炎天下の中、熱射病か何かで倒れているのだとしたら命に関わる問題だ。
「ちょっ、大丈夫です・・・か?!」
駆け寄って青年のすぐ傍まで来た瞬間、首の後ろの辺りがチリチリと痛み、伝えてきた。
危険をだ。
卓はその本能にも似た直...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(2)
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夏だ。
ただひたすらに、その一言だけが脳裏をリフレインしている。
喚き散らすように鳴くセミの声をBGMに、雲ひとつない晴天晴れの正午。おそらくは日本でもっとも熱い時間帯である。せめて風さえ吹けば幾分熱さも柔らぐというのに、その気配は一向にない。
滴る汗を腕で拭って、卓は片手にビニール袋を持っ...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(1)
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家に着くとミクは新ためて卓の家を見上げる。どこにでもある極々一般の一軒家。これからここが、自分の家になる。そのことが少しくすぐったかった。
「なにやってんだよ、早く上がりなって」
「はい、失礼しました」
先に玄関へと入った卓を追うように、ミクは小走り気味で玄関へと入り靴を脱ぎ始める。そして脱ぎ終...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(6)
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小脇に何かの紙袋を持った卓は、通りの人の流れから外れてミクの傍に寄る。
「一人で出てきたのか?よくここまで来れたな。てか、俺お金渡してたっけ」
驚きで目を丸くしていた卓はそう言いながらミクの手にしていたコップに視線を送る。
「いえ、これは先ほど他の方に頂いたもので」
「他の人って・・・まさか怪...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(5)
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席についてからも早かった。あっという間にアイスコーヒーとカフェオレを頼み、彼女は運ばれてきたアイスコーヒーを口に含む。お酒が入っていてよくカフェインを摂取する気になるなと感心してしまう。
そんなことを思いながら、自分に与えられたカフェオレをちびちびと含む。ほのかな苦味の中にミルクの芳醇な甘さが舌...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(4)
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ミクは卓の後を追うべく勢いよく外へ出た。走って行く最中、しかしその足がぴたりと止まる。
そして自分の痛烈なミスに気づく。
「・・・・・どこに行けばいいんでしょうか」
よく考えてみれば、自分が元はどこにいたのか知らない。そもそも卓がどこに向かったのかもいまいち見当がつかない。
何よりも一番問題...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(3)
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ひとまず居間に置きっ放しのダンボールを片付けて、卓は何枚かの紙を持って居間のテーブルに突っ伏す。うぅ、という唸り声とともに顔が上がる。
「なんだよ、使用書とか保証書とかあると思ったらこれ伝票とかしか入ってないじゃないか。どうなってるんだよ」
なんとなくだが今後の方針とか具体的にやることとかはわか...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(2)
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触って思った、人の頭ほどの何かとは本当に人の頭だった。
冷たいが人の肌と変わらない質感の頬を、ちょうど撫でる様な状態で思考が止まる。
綺麗だ。
飾り気も捻りもない、そんな言葉が脳裏を過ぎる。
柔らかい頬に触れながら、眠るようにして瞼を閉じているそれに卓は心を奪われた。
「…………ッは?!」...小説『ハツネミク』 part1.スタートライン(1)
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俺にとって、音楽とは聞くものであり、作るものではなかった。
音楽自体は好きだが、作曲なんてする才能は、微塵も持ち合わせていなかったし。
そもそも、自分で歌を作るなんて考えたこともなかった。
テレビやラジオ、ネットの海から流れる曲をただなんとなく聴き、時々気に入った曲があれば携帯やプレーヤーを...小説『ハツネミク』 序章