ゆるりーの投稿作品一覧
-
「私たち、別れようか」
散歩にでも行こうと誘われて、夜の公園のベンチにたどり着いた時に彼女は唐突にそう告げた。
「何がいけなかったんですかね」
「んー、特別嫌なことがあったわけではないけど、そろそろ限界かなって思ったんだよね」
「これ以上はいられないと、そういうことですか」
「まあ平たく言えばそう...【キヨリリ】まちがいさがし【キヨテル誕】
-
その記憶に確証が持てますか?
--------
目覚めたのは彼の部屋だった。確か彼と話していたら首元に何かを当てられて……、それで?
——“こんなところまで来るなんて、本当に馬鹿だな”——
最後に聞いた言葉を思い出す。そうだ、それで気を失ったんだ。
「起きたんだ」
声のかけられたほうを見る。カーテン...Memoria --『Symphony』--
-
ねえ、もしも。あと一年で俺が大人になったら、あなたは振り向いてくれますか。
生徒のままでは、一人の男としてのスタートラインにすら立てないというんですか。
幼い子どもは、身近な年上の存在に恋をすることが多い。
そう言ってしまえば偏見かもしれないけれど、よくある話の一つではあると思う。俺もその多...【カイメイ】恋煩いの後味と【ハロウィン】
-
それはただの思いつきだった。
保育園からの長い付き合いだけど、ずっと同じ関係性のままではつまらないから、何かの真似事をしようと言ったのは高校二年の夏だった。何かって何を、と彼が笑うので、私は真っ先に思いついたことをそのまま口にした。
「コイビトとか?」
「恋……いやいや、ちょっと待ってください」...【キヨリリ】影を踏むばかり【Lily誕】
-
眠らない街、高みを目指して競い合うスタッフたちは、裏では仲がいいとは限らない。社会勉強とバイトを兼ねてやってみよう、と俺を誘った友人はもうすっかり鮮やかな照明と名声に彩られたこの世界に馴染んでいるようだ。
一方の俺は、次々に注がれる度数も値段も高いアルコールの量に慣れず、せっかくの休憩時間を手洗...【がくルカ】拍手と喝采【がく誕】
-
恋をしている。こう言うとフィクションの物語に影響を受けすぎかと笑われそうだけど、ある日突然彼のことを異性として気にするようになってしまった。
昔から同じことをやっていたくせに、たまたま触れた彼の手のひらが記憶にあるものよりもずっと大きくて男らしいなと感じて、そうなると腕まくりをしたときにうっすら...【がくルカ】拝啓、となりの君へ
-
君はもういない。
君はもう、私の前から姿を消してしまった。
君が何処へ行ってしまったのか。
君がどうして消えてしまったのか。
その理由を、私は一生知ることができないのだろう。
考えても考えても変わらない。
過去も現在も未来も変わらない。
過ちも嘘も事実も、何も変わらない。
何かを変えようとしたところ...【がくルカ】Future【1】
-
友人につられてその空き教室に足を踏み入れたとき、浮かび上がった光景があった。
出席番号が一つ違う彼女は、いつも前の席で笑顔で話しかけてきたんだ。
……その空き教室に入ったのは初めてなのに、なぜか茶髪の女の子の笑う姿が頭から離れない。
立ち止まるオレの意思なんてお構いなしに、フラッシュバックは続いてゆ...【カイメイ】Plus memory【7】
-
記憶の中の彼へ
----------
『空き教室で待ってる』
それだけ書かれたメモを握りしめて、私は教室の扉を開いた。カーテンの引かれた教室で、彼が背を向けて立っていた。
「来たね」
「約束ですから」
イスと机が端に寄せられた教室に、穏やかな光が差し込む。普段なら眠気が強くなるこの時間に、私は...【がくルカ】memory【31・終】
-
玄関のドアが閉じた音を聞いて、眠気に閉じかけていた目を開く。ごろんと転がっていた体勢をそのままお見せするわけにはいかないので、さっと上半身を起こすと、丁度彼がリビングにやってくる。
「ただいま。寒かっただろう、体調は崩していないか?」
「おかえりなさい。大丈夫でしたよ。私は部屋で温まっていましたか...【がくルカ】ゆく年を思う
-
平凡な人生を生きてきた。
映画なら、スタッフロールが流れ始めた瞬間に席を立つような。ミステリー小説なら、中盤で犯人が分かってしまうような。プラスチックのカップ一杯のコーヒーなら、飲み終わった後のカップに氷が半分以上残されているような。
他人にわざわざ語ることもないほど、特別な出来事を人生に刻ん...【がくルカ】夕映えの君
-
もう自らの存在を証明する手立ては失った。
あとは生きるか死ぬかを選ぶだけだ。
そうすれば、余計なことは考えなくてもいい。
--------
その日から、別の誰かが俺に成り代わった。
記憶喪失になった俺は、自身のことを『神威 学』だと思い込んでいた。
それどころか、屋上から投身自殺をした記憶があっ...Memoria --『Serenade』--
-
「やあ、久しぶりだね」
私は目の前の光景に目を疑った。
最後の授業を終えたその日、卒業前に一度景色を見ておきたいと屋上に行ったら、神威先生が柵にもたれかかっていたのだ。しかも白衣も着ていなければ眼鏡もしていない。それに、「久しぶり」なんて言葉はおかしい。
「……毎日授業では顔を合わせているはずな...【がくルカ】Plus memory【6】
-
その夜、きっと僕は疲れていたんだろう。
まともな教育も受けていない僕は定職には就けず、日雇いの仕事で得たほんの僅かなお金と疲れ切った体だけを抱えて、その日寝るための地面を探して路地裏をさまよう毎日。
その日だって、廃棄されたパンでもないかとパン屋がある通りに向かっていただけだった。
「もう、な...【カイメイ】背中合わせの温度【ハロウィン】
-
その日、私は初めて一人になった。
きっかけは些細なことだった。唯一の家族である兄と口喧嘩になり、頭にきた私は部屋に戻り、リュックに荷物を詰め込んで家を飛び出した。
リュックの中身は一日分の着替えと財布くらいのもの。せめて今日一日くらいは、兄の顔を見たくないと思った。
勢いで飛び出してきたもの...【キヨリリ】わたしの居場所【Lily誕】
-
「流れ星が流れている間にお願い事をすると、それは叶うんだって」
かつて彼女から聞いたその話を、今更思い出したのはどうしてだろう。
流れ星を確実に見る方法は流星群の情報を調べることで、次に大きな流星群が見られるのは、八月十二日のペルセウス座流星群。だけど、大量に夜空を流れ落ちる星屑にかける願いは、...約束の日まで【がく誕】
-
「ねえ、こんなトキメキは別に求めていないんだよ」
だから話し合おう、ね? 人間は何のために言葉を持っているの、そう、話し合うため。唯一ヒトだけが取ることができるコミュニケーションだもの、活用しないともったいないでしょう?
「君は私と一緒にいるのが嫌なの?」
「そうは言ってないよ、だけどかわいいきみ...【カイメイ】お願いを、きみに
-
毎週土曜日、午後七時半。それは紫の彼と一緒にいられる唯一の時間。
いつものように各自で食材を持ち寄って、徒歩五分の距離にある彼の家に集まる。お酒が入ることもあるけど、それはどちらかの気が向いた時に限り、大抵はウーロン茶を飲んでこのひとときを過ごしている。
今日もまた、私は彼の向かいの席で、彼の...【がくルカ】グラスを満たす感情は
-
光とは、決して掴み取れないもののひとつだ。物理的な話だけではなく、例えば輝かしい未来や思い描いた希望、人生の道標なども光と言っていいと思う。
僕にとっての光とは、突然僕の人生に現れた君だった。最後列の窓際の席は、片隅でひっそりと生きてきた僕の指定席だった。誰ともうまく接することができない僕には、...【がくルカ】鏡合わせの心
-
俺と彼女は付き合っていない。
成人式後、高校時代のクラスメイトとの同窓会で再会した彼女は、偶々目が合った俺に話しかけた。
彼女は俺に問うた。恋人はいるのか、仕事は楽しいのか。よくあるやり取りだ。
別に隠すこともないから、「一人で繰り返す無色の日常は退屈だ」と返した。
特に親しい仲でもなかったか...【キヨリリ 】歪む光の射す先に【キヨテル誕】
-
高校で出会ったその人は、不思議な女性だった。
息の詰まる授業を終えて、賑やかなクラスメイトに混じらずに、ひとりで本を読む僕は、クラスでも一際地味だったと思う。
だけど本を読みだすと、必ず声をかけてくる女性がいた。
「ねえ、さっきの授業、難しくなかった?」
最初は自分に話しかけられているとは思わず読書...【キヨリリ】夕暮れに染まる恋歌
-
私には、幼なじみがいる。
控えめに笑う彼は一つ年下で、よく互いの家に遊びに行っていた。
彼は優しく、おとなしく、私がよくからかっていた。
彼の性格故にその本心を知ることもなく、私が社会人となっても、近すぎる関係は続いていた。
「やあ少年、今年もお困りの季節がやってきたようね」
「ねえめーちゃん、毎年...【カイメイ】恋とはどんな味でしょう【ハロウィン】
-
私には、幼なじみがいる。
一つ年上の彼とは家が隣で、休日もよく一緒に過ごしていた。
「勉強を教えてもらう」という年下の特権を使って、彼の隣に居続けた。
彼が私のことをどう思っているのか、そんな大事なことだけはいつも聞けないままなのに。
「お願いします、勉強教えてください」
「よっし、まず先週自分が何...【がくルカ】ハニー・ミードは未だ苦く【ハロウィン】
-
私には、幼なじみがいる。
教師を目指している彼とは長い付き合いになるが、お互いに浮いた話もなく今まで過ごしてきた。
その原因が、異性の幼なじみとずっと一緒に遊んでるから、という自分なりの分析はできているのだけど。
恋人とか、深いカンケイというものがよく理解できないまま、結局彼の隣に居続けている。
「...【キヨリリ】甘い誘惑は君だけに【ハロウィン】
-
例えば、昨日まで隣を歩いていた君が、遠くに感じるようになった時。
例えば、久しぶりに会った君の背が、私を見下ろすくらいに変わっていた時。
どれだけ親しくても、長い年月がその関係を変えてしまうことは人生においてよくあることだ。
勿論それが悪いこととは限らない。より距離が縮まることだってあるし、会わなか...【がくルカ】黄昏のジャメヴ【ルカ誕】
-
偶然すれ違ったその人に、懐かしい面影を感じて振り返る。
腰まで伸びた輝く金髪、鮮やかな青色の瞳が、ゆっくりとした動きで僕を捉える。
一介の通行人に過ぎない彼女が、同じくただの通行人である僕を見つめたまま動かない。
午前十時、駅前の大きな交差点の信号待ちで、キャリーバッグを引いたその人は声を発した。
...【キヨリリ】瑠璃色の氷上【キヨテル誕】
-
まとまらない思考で階段を降りきって、彼女の元へと辿り着いた。
予想していた光景と違うものが視界に飛び込んできて、俺は言葉を失った。
彼女の体は、まるでその場に眠っていると錯覚するほど、状態が綺麗だった。
その場に広がっているはずの、赤色が全くなかった。
血液が流れていない人間などいるはずがない。
現...【キヨリリ】Lost days --下--
-
十月三十一日、ハロウィン。
それはかつて古代ケルト人による秋の収穫祭として考えられたお祭りの日。
秋の終わりと冬の始まりを告げるこの夜は、死者が家を訪ねてくるらしい。
魔除けの火を焚いたり宗教的な意味合いが強かったこの海外の祭も、現代のこの国ではお祭り騒ぎの口実として使用されている。
十月に入ればハ...【キヨリリ】迷い子の祈り【ハロウィン】
-
教会の鐘がその大きな音を二回響かせた時、私はルシフェニア王宮の厨房にいた。
レヴィン大教会の鐘は、王都ルシフェニアンのどこにいても判別できる。この王宮にもすぐ何時かわかってしまうほど大きな音が届くので、教会の周辺で鐘の音を聞けば耳が壊れるのではないかと、この国にきた幼い頃の私は感じたほどだ。不思議な...もうひとりの
-
「それで、課題は進んでるんですか?」
その声は、私一人に向けられた先生としての言葉。
心の内では何を思っているのか。彼がそれを口に出すことはない。
「手厳しい誰かさんがしっかり勉強教えてくれたおかげで、大体は終わってまーす」
「それは良かった。去年聞いた話では、最後の週にまとめて終わらせたということ...【キヨリリ】モノクローム【Lily誕】
-
振り返れば、隣にはいつも君がいた。
楽しそうに笑う君が、僕のことをどう思っていたのか、それは本人にしかわからないけれど。
その距離感だけは、十年間ずっと変わらないものだった。
家が近所だったわけではない。
物心つく頃からの付き合いでもない。
ただ、小学四年生の春、席が近くなったことから仲良くなった。...【がくルカ】宵を待つ間、【がく誕】
-
平成最後の夏は茹だるような暑さだった。
すっかり人の出入りが少なくなったかなりあ荘の共有リビングで、扇風機がひたすら首を振る音だけが響く。
ぶーん、ぶーん、ぶーん……。
一般的に扇風機からエアコンへ冷房を切り替える温度の目安は三十度らしい。
かなりいい感じになったかなりあ荘でも、さすがに扇風機だけで...【かなりあ荘】おかしな騒動
-
彼女の瞼が二、三度瞬いた。
数秒遅れて傾げられた首と、いっぱいにクエスチョンマークを浮かべたようなその表情さえ愛おしい。
「いやいや、人にものを教える仕事をしているキヨテルさん?今が何月か言ってみようか?」
「ええと、六月も終盤に差し掛かる頃ですね」
「良かった。時間の感覚が急激にズレたのかと思った...【キヨリリ】砂上のネリネ
-
いつまでもずっと、昔からの関係が続くと思っていた。
ただの幼なじみとして過ごした期間が、彼が大人になり始めていることを認めたくなかったのだ。
高校最後の年を迎えた私と、教育実習を明日に控えた彼。
四つも年が離れた私たちがどうして仲良くなったのか。
親同士の仲が良いのは間違いないだろうけど、肝心の本人...【キヨリリ】夜空を紐解く
-
「ねえ、明日は出張なんでしょ。準備しなくていいの?」
呼び出された数学科準備室で、未だデスクの書類から目を離さない彼に問いかける。
私が入室して十分程経つが、彼は入室の許可以外に全く言葉を発していない。
人を呼び出しておいて待たせるなんて、という在り来たりな不満はとっくの前に投げ捨てている。
「春休...【キヨリリ】ジェニュイン