タグ一覧 > タグ『シェアワールド・響奏曲』の作品

  • 夜明けのはじまる前【シェアワールド】 響奏曲【異世界】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:486
    2011/11/22
    21:57

     森を抜けるとそこには草原が広がっていた。そしてその先にある小さな村。そこが目的地だった。
     馬で「塔」のある街から一週間ほど。術者となってからほとんど「塔」から外に出ていなかったルカにとって、一週間もの距離は長旅だった。元々が「庭」や実家からあまり外へ出たことのないルカである。途中で立ち寄った村や旅商人の広げるテントを物珍しさから覗きこみ、長居をしたりしてしまったために、本来ならば4,5日で来れるところが長くかかってしまっている。
    「がくぽは何度か訪れているのよね?」

  • 少し昔の話  【シェアワールド】響奏曲【異世界側】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:370
    2011/05/17
    18:51

     狂った魔獣が吼えた。大音量の咆哮が森の中の空気を、木々の枝を、逃げる子供の鼓膜を、震わす。肌で感じる魔物の気配に逃げながら子供は悲鳴を上げた。恐怖で走っている足がもつれる、かくんと力が抜ける、水の中に沈み込んだように周囲が重くなる。
    そしてそのまま、まるで地面に滑り込む様な勢いで、ざん、と子供は倒れ伏した。手に持っていたバスケットが、ころんと少し先に飛んでいった。
     身体の下で押しつぶされた草が一瞬、青い香りを立てる。けれど、そんな事を感じる余裕もなく、子供は襲い来る魔物から逃げるために地に伏した身体を起こそうとした。が、しかし恐怖に縛られてしまった手足はもう言う事を聞かず、ただ緩慢に空をかくばかり。焦りで吐く息だけが早く荒くなっていく。それでもなんとか気力を振り絞り、がくがくと震えながらも子供は立ち上がろうとした。

  • 響奏曲 -01- 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:329
    2011/09/17
    21:56

    【序】因と果の律をすり抜ける
     軽く瞼を下ろし、身体から余分な力を抜く。意識からも同じく。ただ在るがままに、在るだけのものに。世界と己の境界を曖昧に、世界に溶け込み、世界と溶け合う。
       時の砂 流れ 落つる

  • 波紋 -響奏曲・Interlude- 藍流さん 閲覧数:317
    2011/06/14
    00:03

     突如湧き起こった衝動に、気付けば目の前の腕を掴んでいた。
    「な、何事です、神威さん」
    「――あ……あ? い、いや……」

  • 呪詞・異界転位【響奏曲・設定】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:304
    2011/09/17
    22:03

    時の砂 流れ 落つる
    夜(よる)告げ鳥の かそけき 囀り
    天に実る 星を もいで

  • 物語の始まる前の日  【シェアワールド】響奏曲【異世界側】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:283
    2011/06/05
    14:35

    「ずいぶん遠くまで見回りをしたようですね」
    きちんとした服装にマントを羽織り、眼鏡をかけた青年が外から『塔』へ帰ってきたルカたちにそう声をかけてきた。眼鏡の奥、読み取ることのできない冷静なその表情に、ルカは思わずがくぽの背中に隠れてしまった。
     4人で数日、森付近に点在する町や村の見回りをして。ルカたちが『塔』に帰って来た時。丁度『庭』から戻ってきたのだろう、玄関のところでキヨテルに出くわしたのだ。

  • 始まりの日【シェアワールド】響奏曲【異世界側】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:279
    2011/07/24
    18:07

     積み重ねられた知識の層が織りなす静謐な空間がそこには広がっていた。丈夫なつくりの棚に詰め込まれているのは過去から続く記憶の書。幾人もの賢者が思考錯誤し生み出した術式が記されたもの、この世界の生物全てに関する習性を緻密に研究したもの、古今東西の文化文明を事細かに記録したもの。
     そして嘘かまことか、胡乱な物語ばかりが綴られたもの。
     書物自体に貴賎は無く、全ての文献が紐解かれる時をただ静かに待っている。選ぶのは読み手側。事の優劣をつけるのは全て人の側。何が正しく何が間違っている、など書き遺されたモノたちには関係の無い話。

  • 弱い音 【シェアワールド】響奏曲【異世界】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:274
    2011/08/21
    18:34

     最初は、がくぽにもルカにも言うつもりはなかったんだ。と旅立つ寸前の彼は言った。
    「だってさ、なんかさびしいじゃん。別れの言葉って」
    ふざけたようにそう言う彼に、別れとかいうな、とがくぽは顔を顰めた。

  • 響奏曲 -Introduction・2- 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:243
    2011/08/22
    18:32

     くそ、まだぴりぴりする。
     がつがつと足を進めつつ、がくぽは内心で毒吐いた。溢れかけた魔力を強引に捻じ伏せた名残が、乾いた冬の日に散る火花のように指先や髪の根に未だ主張している。
     それにまた苛立ちを煽られながら歩いていたからだろう。常ならぬ空気に彼が気付いたのは、わっと上がった歓声が耳に入ってからだった。

  • コラボ概要  【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:220
    2011/09/25
    13:03

    <ストーリー>
    魔術の生きる、何処かの世界。其処は今、滅びの危機に瀕していた。
    僅かずつ、しかし確かに、消失していく世界。

  • 【告知】響奏曲【シェアワールド企画】 藍流さん 閲覧数:216
    2011/05/19
    00:04

     終わる世界に、彼らは生きる。
     少しずつ、ほんの少しずつ、消失してゆく世界。
     知らぬ間に袖口に跳ねていたインクの染みのように、ぽつ、ぽつり、と、微小な点を穿つように。

  • 明け方の日【シェアワールド】 響奏曲【異世界】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:202
    2011/07/31
    12:43

     提出用の書類を手に、メイコは「塔」の渡り廊下を歩いていた。
     「塔」の名の通り、その建物はいくつもの塔で構成されている。一番広く巨大なのは中央にある研究者用の塔で、次いで居住区としている塔。その二つの大きな塔から派生するように大小の塔がその周辺にそびえ立ち、その間を渡り廊下が繋いでいる。
     これだけ大きな組織となるまでに、幾年の歳月を経たのだろうか。居住区の塔から研究塔へ渡り、更にその回廊をぐるりと回りこんで中心に在る建物へ向かいながらメイコはそんな事を思った。どれだけの人がこの塔の中で暮らしそして終わりを迎えたのか。そんな事を考えながらメイコは「塔」のいちばん中央にある建物へ向かいながら思った。

  • 重なる音  【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:187
    2011/05/17
    20:47

     溢れ返る想いがある。何かを伝えたい、けれどその手段が分からない。どうすればいいのか分からない。どうしようもできない。目の前で起こっている事象に対してなすすべもなく、ただ見つめることしかできない。
     けれど、だからこそ。無力だからこそ。「次」を拓くために私はあがきもがくように、手を伸ばし前を見て、何かを探しているのだろう。
    ――――――

  • コラボ宛投稿リスト【シェアワールド・響奏曲】 藍流さん 閲覧数:185
    2012/06/07
    23:37

    コラボ宛投稿はこちらのページ(マイページ)には反映されないので、一覧リンクです。
    把握しやすいよう、マイページでタグ付投稿したものも拾っておきます。
     □コラボ&投稿概要□

  • 響奏曲 -02- 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:180
    2012/05/20
    00:04

    【一】闇の先の蒼、蒼の内にまた闇
     柔らかに腕(かいな)に抱かれるように、眩い蒼へと融けて。闇に代わってそれに包まれ、再び視界から変化が失われた。けれど、今度は明確に、進んでいると感じられた。見えざる手に腕を掴まれたように、はっきりと"何処か"へ引き寄せられている。惹き付けられる感覚に、鼓動が高鳴る。それはまるで、通りの向こうに恋しい者の姿を見付けた時のように。或いは、待ち望んだ報せを受け取る朝の目覚めのように。
     逸る気持ちをあるがままに、カイトは抗う事なく身を任せた。加速するのを感じる。弾けそうに胸が鳴る。

  • 懐古 -響奏曲・Interlude- 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:176
    2012/06/07
    12:58

     何だか、子供の頃に遊んだ『ひみつ基地』にいるみたいな気分にさせる部屋だなぁ。
     此処へ来ると、カイトはいつもそんな風に思う。天井まで届きそうな本棚と正体のよく判らない怪しげな瓶詰めの並ぶ試料棚に囲まれ、中央には大きな作業机がどんと据えられて、その上にはいつでもいろんなものが所狭しと広げられている、メイコの研究室。机上に留まらず床の上にもごちゃごちゃと散らばるそれらは、例えば作りかけの術具やその材料となる素材だったり、新たな術の構築式を書きつけた羊皮紙であったりする。雑然としていて、でも何処かあたたかくて、カイトは結構この部屋が好きだった。
     『塔』は、その名の通り敷地いっぱいに建ち並ぶ幾つもの塔を持っている。術士達が暮らす居住塔、資料庫付設の研究塔、術具制作の工房がある開発塔……最奥にひときわ高くそびえるのは、管理者達の座する中央塔。そんな中、メイコの研究室は開発塔の端にあった。だっていちいち工房借りに行ったりするの面倒じゃない――とは、研究塔から出る時に彼女が残した言葉だ。

  • 希求 -響奏曲・Interlude- 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:172
    2011/05/19
    22:19

     ドン、と重い音が森の奥に轟いた。
     音の後には、抉られた地面。爆発系の術の痕跡。
     そこだけ緑の衣を剥がれた大地をじっと見つめて、少年が一人、唇を引き結んでいた。黒色のシャツに銀のタイを締め、肩にはシャツより更に濃い黒のケープを纏う、『庭(ガーデン)』で学ぶ生徒の制服姿だ。

  • 響奏曲 -Introduction・1- 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 閲覧数:158
    2011/05/17
    23:00

     終わる世界に、彼らは生きる。
    「此処も、か」
     低く呟く男が見下ろすのは、何も無い場所だった。

  • 夢の痕~siciliano 1 Liliumさん 閲覧数:137
    2012/01/28
    03:03

     初めて自分の“力”を意識した日。
     俺の“世界”から兄が消えた。
    「……」

  • 夢の痕~siciliano 2 Liliumさん 閲覧数:113
    2012/02/25
    04:03

      「塔」は俺の所属する組織の名称で、文字通り象徴としての意味合いも強い円塔が拠点になっている。各地に支部となる塔はあるが、俺の暮らす此処はその総本山に当たるため、規模は他と比較にならないくらい大きかった。この中で全ての生活が賄えるよう計算し尽くされた設計は、例え大部分を魔力に頼っているにしろ舌を巻く思いがする。
      ここまで潤沢な魔力を惜しみなく使える理由。それは「塔」が、魔力を己が望むままに操り制御する技術を備えた者――術士を擁する機関だからだ。魔力の用途は多岐に渡り、生活を少し快適にする程度から高度な破壊戦術までとあらゆる方面で活かされる。とは言え当然術士の誰もがそんな高位の術を扱えるわけではなく、各々の実力及び基礎保有魔力に応じたランク分けと、得手不得手から試算されたタイプの振り分けによって、種々の制限が課されているのが現状だった。
      また「塔」に所属する術士には、例外なく一定の待遇が約束されている。つまり衣食住の保障や医療機関での受診など、生きるのに最低限必要な諸々は全て「塔」が肩代わりし面倒を見てくれるのだ。その代わり突然下りる指令へは絶対服従で、個人の思惑など二の次となるのが常だった。まだ救いなのは、その回数がそれほど多くはないということだろうか。ただその指令というのが随分と厄介な代物ではあるのだが。

  • 夢の痕~siciliano 3 Liliumさん 閲覧数:106
    2012/09/07
    04:16

    「またお兄さんの夢、見ていたの?」
     食堂にて食事の乗ったトレイを受け取った所で、背後から声をかけられた。疑問系ではあったが確信している様子で返事を待つ気配に、俺は答えず適当に空いた席へと腰を下ろす。そんなこちらの態度など一向に構わず向かいへ座った彼女は、自身のトレイに置いた皿から一本のペンネをフォークで突き刺し捲し立てた。
    「何でそんなに気にするわけ?別にいいじゃない。血は繋がってないんだし、もういない人なのよ。そこまで引き摺ってる方が異常だわ」

  • 夢の痕~siciliano 5-① Liliumさん 閲覧数:92
    2012/11/10
    01:38

     この世界には人間や一般的な動植物の他に、魔物という生き物が生息している。魔物は魔力のせいで人や動植物が突然変異した成れの果てとも、実は世界が誕生したその頃から存在しているのだとも言われる謎の多い生物だ。
     そんな彼らの姿形は千差万別で、四つ足で歩き回る物もあれば、その場から一切動かず地に根を下ろしている物もある。しかしこんな差異著しい中にも同族と思われる複数のグループ構成が確認されており、動植物の分化と類似した歴史を辿り今の多種多様な形態を手に入れたのは確かなようであった。
     魔物にも草食・肉食・雑食の別があり、食物連鎖が存在する。また彼らの繁殖場所及び活動可能地域も様々で、温帯で繁殖し成長した後に熱帯へと移動する物がいるかと思えば、極寒の地でしか生きられない物もいた。同種と考えられる魔物でも、生息する地域の環境により微妙に身体の発達等が違うことはよくある話で、群れを成す個体や、単独行動を好む個体は特に有名だ。この辺りも動物と酷似した生態と言えるだろう。

  • 夢の痕~siciliano 8-② Liliumさん 閲覧数:91
    2015/04/19
    01:32

     そんな俺の狭い視界に、少しして「庭」で支給される質素な革靴が入り込んだ。ステッチの色は群青色――俺と同じだがサイズは一回りほど小さい。やがて頭上から聞き覚えのある大人びた声が降ってくる。忘れようもない、あの因縁浅からぬ女の声音だ。
    『何してるの?』
    『……別に』

  • 夢の痕~siciliano 6-② Liliumさん 閲覧数:88
    2015/04/13
    01:27

     「塔」の術士には、月初めに微々たる額だが給金が渡される。生活に必要な諸々は全て「塔」が負担してくれているため、この金は純粋に嗜好用だ。「塔」側としても、ずっと閉じ込められ鬱憤が溜まるであろう術士の管理は重大な課題であり、任務で著しい成果を挙げた者には特別ボーナスを支給したりと、意気を鼓舞させる努力は惜しまなかった。
     またこれは術士に限らずだが、塔内で起居する者は年に数日、休暇を取り外へ出かけることが許されている。勿論勝手な取得は出来ず、所定の書類に必要事項を記入した上で申請し、受理されなければならない。俺はそんな面倒な手続きをこなしてまで行きたい場所も会いたい人もいないため、一度も利用したことはないが、「庭」の生徒が帰省する際に活用しているのはよく知っていた。
     そして術士になると、その時の家族への土産用にも給金を使うことが多かった。もしくは金をそのまま実家へ持ち帰る者もいる。生活に困窮している家庭も少なくなく、子供の元気な姿を見れたばかりか、ある程度の纏まった金が手に入るのは正に天にも昇る心地だろう。勿論そんな温かい家ばかりではないと思うが――。

  • 夢の痕~siciliano 6-① Liliumさん 閲覧数:78
    2015/04/13
    01:07

     今から数百年ほど昔――まだ魔物との共存が図れており、カオスシードも出現する以前のこと。この世界には「国」という一つの単位が存在した。「国」はそれぞれ境界という名の縄張りを持ち、そこに住む人々はその「国」の所有物として扱われたと聞いている。そしてこれらを侵害する他の「国」には、対話もしくは戦争で牽制し、その機に乗じて相手の「国」を奪い取ることも往々に行われていたらしい。
     また「国」はその単位ごとに独自の自治を行っており、法も言語もまちまちだったという話だ。今を生きる俺からすれば、それでよく意思の疎通が図れたと思うが、図れていないから戦争を起こしたのだと返されれば納得も出来る。言葉が通じていてさえ互いの意図が分からず喧嘩になることもしばしばだというのに、そもそもの言語が理解出来なければ争い合うのは至極当然と言えるだろう。
     だがそれも、まだ「国」という単位で囲われた人同士の争いであり、余裕があったからこそ出来たことだ。カオスシードなる異形の生物が現れ出し、保たれていた世界の均衡が崩れ去ってからは、「国」同士の戦いなどしている暇はなくなった。それぞれ己の「国」を守るのに必死で、他の「国」のことになぞかまけている余裕は失われたのだ。

  • 夢の痕~siciliano 5-② Liliumさん 閲覧数:75
    2012/11/10
    01:56

     そんな魔力の方向付けがまるで異なる三タイプだが、だからと言って自分の役割だけこなせばいいというものではない。チームで行動することが多い以上、他の術士及びタイプの動向も常に把握した上で己の役を全うするのは当然の責務だった。
     分かりやすい所で言えば、術を発動させるまでの所要時間が挙げられる。Aタイプは比較的早く術を完成させることが出来るが、Cタイプは魔力を練り合わせる時間が相応に必要で、怪我をしたから即座に治療を行えるとは限らないのだ。無論個々の努力次第でいくらか補える部分ではあるものの、他のタイプの特徴を掴み立ち回ることの重要性は変わらない。実戦では一瞬一瞬が命がけなのだから、味方に対しても過度な期待を寄せるべきではなかった。それが甘えを生み、結果としてチーム全体の生存を危うくすることに繋がるのだ。
     またCタイプの場合、直接対象の身体に触れなければその効果が発揮されない点も視野に入れておく必要がある。どれほど一流の術士でも、遠距離から怪我を治癒させることは出来ない。つまり治療を行ってもらうタイミングも重要で、その最中に襲われでもしたら負傷者も治療者も両方死ぬだろう。

  • 夢の痕~siciliano 7-① Liliumさん 閲覧数:66
    2015/04/15
    01:19

     その翌日、俺は自室がある階層の中央通路でMEIKOを待っていた。昨晩、あの予言者を自称する女と別れた後。俺たちは何とも形容し難い微妙な空気を払拭すべく殊更精力的に店を回り、無事従妹への贈り物を手に入れることが出来た。そして今日もお互い暇なため、昼からトレーニング室へ行こうと約束していたのだ。
    「遅いな……」
     普段なら俺より先に来ているか遅れてもせいぜい数分程度なのに、今日は十分以上経っても現れない。そういうことはこれまでもごく稀にあったが、やはりその都度何かあったのではと心配になる。やきもきしつつ更に十分ほど待っていると、テレポートスポットからようやく彼女の姿が吐き出され、俺はやっと安堵した。

  • 夢の痕~siciliano 4-① Liliumさん 閲覧数:64
    2012/09/23
    04:54

     朝食を終えMEIKOと別れた俺は、九十二階にいた。この階層は医療地区となっており、テレポートスポットを円形に囲む幅十五メートルほどの通路を中心に、三つのドアが壁の内周に沿い均等な距離を空け並んでいる。
     医療地区がこんな高階層にあるのは、この上階――九十三階から百階までがトレーニング地区に割り当てられているからだ。
     トレーニング地区はその名の通り術士が自主訓練を行う場所で、一フロア九室ずつあるトレーニング室は随分と重宝されていた。個人で魔力の出力具合を確かめたり、新たな魔術の創作に励んだりは勿論、仲間と協力し合う訓練を行うことも出来る。満室だった場合は先客の了解の下、相部屋となることも間々あるものの、俺も暇な時はよく此処へ赴き、時折MEIKOも誘っては、互いの術を評価したり技を磨いたりと利用していた。

  • 夢の痕~siciliano 7-② Liliumさん 閲覧数:63
    2015/04/15
    01:34

     あれは俺が「塔」へ連れてこられまだ間もない頃の話だ。一度だけ俺は“彼女”と対面したことがある。隣に立つ幹部が宙に複雑な光陣を描き何やら唱えている様を、テレポートスポットの手前でぼんやりと見ていたのがその始まりだった。当時は魔術というものをまるで理解していなかったため、綺麗に輝く紋様を俺はただただ物珍しく眺めていた。今思えばあの幹部は高度なセキュリティを解析し解除していたのだろう。
     やがて俺と幹部はテレポートスポットに入り、刹那別の場所へと飛ばされた。そこは塔の遥か地下層で、魔石の灯りもほとんどない暗がりだった。空間の横幅は数メートルと然程でもなかったが、仰ぎ見た頭上に天井は見当たらず、結構な高さであることが窺えた。時折落ちて来ては地面に当たる水滴の音が、不規則に反響していたことも相俟って、何となく不安定な気持ちにさせられたものだ。
     またむき出しの岩盤がそのまま壁面となっており、盛り上がった地面の歩きにくさにうっかり手をつき擦り傷を負った記憶がある。加えて酸素を循環させる程度の空調しか効いていないのか、あまりの蒸し暑さにたった数メートル歩いただけで汗が吹き出た。

  • 夢の痕~siciliano 8-① Liliumさん 閲覧数:61
    2015/04/19
    01:24

     自室のドアを開けると、ベッドに腰掛けるMEIKOが映り何だか安堵した。ようやく俺のいるべき場所へ帰ってきたという実感が湧き上がり、自然と頬が緩んでいく。
    「おかえり、KAITO。何の話だったの?」
     部屋にあった本を適当に読んでいたらしい彼女は、俺が近付くとそれを脇に置きこちらを見上げた。

  • 夢の痕~siciliano 4-② Liliumさん 閲覧数:59
    2012/09/23
    05:05

    「じゃあ、診察を始めるわね。はい、服を上げてくれる?」
     何はともあれ、どうにか通常の軌道に戻ってくれたようで心底ほっとする。そうして滞りなく検診は進み、さらさらとカルテへ結果を書き込んだ彼女は再び俺に向き直った。
    「後は簡単な質問をするわ。気楽に答えて頂戴ね」

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