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【がくルカ】Snowy night

冬の雪は、静かに街に降り注ぐ。
寒さに身を震わせる人々の気持ちなど、何も知らずにただ舞い落ちる。

子供達は、白く冷たい雪で、はしゃいでいる。
大人達は、振り続ける雪など構いもせず、歩く速度を速めていく。


賑やかな街へ出かける気にもなれず、俺はただ窓を見ていた。
いや、正確には窓の外か――…まぁ、どちらでもいいか。

外では、白い雪が灯りに照らされ、銀世界が広がっていた。
初めてこれを見たとき、俺はどう思っていただろうか。
輝く世界に憧れ、感動したか。
それとも今の俺のように、ただ無気力に景色を眺めていたか。
今はもう、思い出すことはできない。
思い出す必要すら、ないと思う。


俺は何がしたいんだろう?
何も満たされないまま、淡々と日々を過ごしているように思える。
与えられた仕事をこなすだけの日々。
退屈な日常を変えるきっかけは、ないのだろうか?










<<Snowy night>>










「二人で…抜け出さないか」


あの日、ルカを抱きしめて、俺は彼女にそう言った。
声に込める想いは誰よりも強く、切なく――大切に。


「…え?」
「今夜だけでいいから…」


何故そう思ったのかはわからない。
何故そう言ったのかはわからない。
こんな行動…俺自身にも、理解は不能だ。


思えば、あの夜もそうだった。
何故、ルカにあんな『悪戯』をしたのだろうか?
何か目的があってやったことだったか?
答えは…わからない。



その後、確かに彼女は言った。
「ごめんなさい」と、震える声で。
それは拒絶の言葉。
だが、そこにはっきりとした意思が感じられない。
言ったこととは逆に、彼女の腕は俺の服をつかんでいた。
彼女の行動は、小さな矛盾を生んだ。
時間にして三分ぐらい、俺たちはそうしていた。


「…ルカ、俺は……」


俺は何を言おうとしているのだろう。
自分自身でさえ理解ができないのに。
なんて言うのだろう…自分で、自分を抑えることが出来なくなっている。
こんなわけのわからない自分は、そのうち壊れてしまうのではないか。

そう思ってから気づく。
なんだか…ルカがやけに静かじゃないか?
とりあえず反応を見るために、腕を緩める。
彼女の重みが、少しだけ腕にかかる。
…ちょっと待て。これって……。


「ルカ…?」


試しに耳元で囁いてみたりする。
しかし返事がない。
彼女は静かな寝息をたてている。
眠ってしまったようだ。

とりあえずこのままだと何かと悪いので、ルカを抱き上げる。
世間でいうお姫様だっことやらである。
そういえば、こうやってルカを抱きあげるのは久しぶりだな…。

なぜかルカの部屋は鍵がかかっていて入れない。
なんで鍵かけてんだ…?
仕方がないので俺の部屋に運び、ベッドにルカを寝かせる。
そして布団をかけてやる。俺は椅子で寝るか。


さて。このまま寝るのもなんかアレだな…。
かと言ってやることもないしとか思いながら、とりあえずルカをじっと見ることにした。

こうやって見ると、寝顔けっこうかわいいな……。
もしこの状態で襲われたらどうすんだよ。
かなり無防備だな。寝てるから仕方ないだろうけど。

よし、じゃあ寝よう。
このまま見てると、また自分でも目的不明な行動しそうで怖いし。
……怖い?俺は、何が怖いんだ?




*




そして何事もなかったかのように翌日の夜が来た。
俺は少し体が痛いというペナルティつきで朝を迎えた。
椅子で寝てたから当たり前だけど…。

朝、俺が起きたときにはルカはすでに消えていた。
多分、ルカは自分の部屋かリビングにいるだろう。
まぁ、今日は俺に会いたくないだろうけど。
しかし、もし彼女に昨日のことを聞かれたら、どう説明するか…。


今日、俺は仕事が休みだった。
他の皆は仕事だった。ルカはどうか知らない。
俺は暇だったから本を読んでいた。
二週間ぐらい前に買ってから一度も読んでいなかったので、暇な時間を見つけては少しずつ読んでいる。
おかげで細かい内容を覚えてない。
まぁ、正直どうでもいいんだが。

そして今現在、夜中である。
十一時くらいである。
夕食のとき、ルカは俺と目を合わせようとしなかった。
いつもより急いで食べているようにも見えた。
いつもとは違って何も言わないので、ミク達が驚いていた。
ただし、双子は残った唐揚げの争奪戦をしていたので気づいていなかったが。
ちなみにじゃんけんによる激闘の末、半分ずつという結果で終わった。

ルカは「いただきます」と「ご馳走様」以外は何も言わずに、食べ終わったらリビングを出て行ってしまった。
まるで、誰とも接したくないように。
まるで…俺を、拒んでいるように。


そして、少し控えめなノックの音が響く。
このノックの仕方は…ルカだ。


「いいよ。入って」


俺は本を読みながら答える。
ルカは静かに入ってきた。


「……」


ルカは何も言わなかった。
俺と喋りたくないのか。
それとも、俺が「何か」を言うのを待っているのか。


「……何か、用件があるんじゃないのか」


俺がそう言うと、ルカはようやく言葉を返した。


「…そうですね。あなたに、聞きたいことがあるんです」
「昨日のことか?」


読みかけの本を閉じ、俺は顔を上げる。
ルカは俺のベッドに座っていた。


「そうです。…昨日、あの後、何があったんですか?」
「……別に何もなかった。心配しなくていい」
「何もなかったら、私は神威さんの部屋で起きることはないでしょう」
「簡単だよ。あの後、ルカは眠ってしまったようだから俺の部屋で寝かせた。ルカの部屋は鍵がかかってたからね。それだけだ」
「つまり、特別な意味とか、そういうのはなかったと?」
「あぁ」


俺は無表情のまま答える。
ルカもそんな感じだ。ただ、少しだけ寂しそうに見えるのは、俺の気のせいか。


「別に深い意味はない。俺は椅子で寝てた。おかげで、朝は体が痛かったよ」
「…何も、感じなかったんですか?」
「そうだね…そういえば、ルカは軽かった」
「…そうですかね?」
「あぁ、軽い。おかげで、すんなりとここまで運べた」


少しずつ、ルカの表情が曇っていく。
それはきっと、俺が彼女の望む答えを言わないから。


「…私はバカです…勝手に想像して、一人で迷って…本当に…」
「……それは、ルカの本音と受け取っていいのかな」
「…え?あ……」


独り言だったらしい。
そして言うつもりもなかったらしい。
彼女は気まずそうに、俺から視線を逸らす。


「違います…これは、そういうのじゃなくて」
「なんなら、してあげなくもないけど」


仕方ない。
俺は机に右手をついて立ち上がり、ルカのほうへ歩く。


「これは俺の予想だけど…多分、ルカは……」


そして、彼女の頬に触れて顔を上げさせ、無理やり俺と目を合わせる。
彼女は少しだけ、驚いたような顔をしていた。


「俺に、何かを望んでるんだろう……違う?」


最後のあたりは、僅かに笑いながら言う。
ルカは視線を俺から逸らし、そして片方の手で俺の手をほどく。
俺はおとなしく、彼女から手を離した。


「どこを見ている?…俺が、見れないか」
「……」


彼女は無言のまま、一向に俺と目を合わせようとしない。
何か、俺と目を合わせたくない理由でもあるのか…大体予想はつくけど。


「ねぇ、ルカ。俺が何を考えてるか、知りたい?」
「え……?」


少しだけ声のトーンを落とし、静かな声で言う。
すると、ルカはようやく視線を戻す。
目が、合った。


「少なくとも、俺は知りたいと思っているよ。ルカ…君の考えてることを」
「……っ」


今日のルカは、言葉攻めをしないと俺には反応をしてくれないようだ。
ハロウィンのときや昨日は、結構簡単に反応してくれたのにね。
まぁ、いいかな…たまには、こういうのも。


「さぁ、どうする?君が望むことをしてあげる」
「……私は…あなたの考えてることを、知りたいです」
「そう…」


なんなら、もう少し焦らすかな…
俺は再び、彼女の頬に触れる。
いいよ、ルカ。
今は少しだけ、君に「答え」をあげる。
そして…あの“悪戯”を、また君にしてあげる。

俺は彼女の頬に触れたまま、顔を近づけた。
彼女は、強く目を瞑った。
この距離にいるのは、これで三回目。
唇が触れるか触れないかの位置で動きを止める。
次に彼女がとった行動は――


俺の胸を押し、俺を遠ざけることだった。



「ふうん…今回は抗うんだね…いや、今回も、かな」
「……今、私…」


彼女は、自分がしたことを理解できていないようだった。
ということは、自分の意思で俺を拒んだわけではないのか。


「…神威さんを……どうし、て……」


消え入るような声で、彼女は呟く。
彼女はどうしても理解できないとでも言うような顔で、俺をずっと見つめていた。
俺は、ただ彼女の目を見る。

そして、彼女は立ち上がり、部屋を出て行った。


彼女のしたいことを、俺はなんとなく解っている。
足音が遠ざかっていった方向を考えれば、彼女は自分の部屋に行くのではない。
行き先はきっと、外。

外は今、雪が降り始めている。
この状況で外に行ったら、ルカは一人で泣いてしまうのではないか。
そう思っていたら、ケータイが鳴る。
この着信音はメール。送り主は、ルカ。


[捜さないでください…放っておいて]


短い用件だな、そう他人事のように思う。
だけどね、ルカ。
俺は捜すなって言われても、君を捜す。
放っておく?そんな事…出来るはずがないんだよ。


まずは彼女を捜そう。
寸止めが嫌なら……君の望むことを、今度は本当にしてあげる。
四度目は「本当」の回答をあげよう。
俺はコートを掴み、部屋のドアを開けた。
そこには、壁に背を預けたマスターがいた。


「あーあ、ルカさん泣いてたよ?」
「…まだ泣いてはいないだろ」
「そうね。だけど、これから泣くでしょうね」


マスターはどこかおもしろそうに言う。
この人は何故、ここにいるのか…
俺たちのことを気にしてるのか。


「とりあえず、責任はとりなよ?」
「とってやるさ。俺の好きなようにやるから、邪魔はするなよ」
「はいはい、わかってますって。…それじゃあ、頑張って」


会話を終わらせ、再び歩き出す。
行く先は、雪の降る冬の街。
ただ一つ、彼女…ルカを捜すために。

「Jack-o'-lantern」「Secret answer」の続きです。
多分次回で最後です。
もうほとんど暖かくなってますが、12月中の話だったりします。
仕事が遅くてすみません。

ちなみにがっくんが言ってた「抜け出す」は「外に抜け出す」ではなく、「このままパーティーを抜け出そう」的なことらしいです。

投稿日時 : 2013/02/25 18:19    投稿者 :ゆるりー

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