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鏡の悪魔Ⅲ 4

                 -接触-
 少なくとも、レオンはアンについて何か知っているらしい。あえて追求はしない。レオンは何かを隠し、レンに、そしてランに接触してきているのだ
「嫌な感じがするな」

 夕方の六時、鈴は仕方なくアンを探すのをあきらめ、帰路につこうとしていた。隣には今、用を済ませてアンを探しに来たばかりのレンが何かを考えるように、ブツブツと呟きながら歩いていた。
 先ほどから気まずい空気が漂っていて、どうも話しかけづらい。
 館まで殆ど言葉を交わすことなく歩いた二人は、館の前で立ち止まった。後ろから誰かが声をかけてきたのだ。後ろにいたのは、黒髪の―――
「アンちゃん!」
「お久しぶりです。しかし、私の名はアンではありません」
「どういうこと?」
「私はアンではなくプリマと申します。そしてアンというのが――」
「私です」
 そう言って顔を見せたのは健康的な小麦色の肌に長い金髪の、意志が強そうな目の女性だった。唇にぬった赤紫の口紅は彼女のイメージとぴったりあう、怪しげな色調だった。
 小柄で童顔、清楚な服を着たプリマとは対照的に、スタイルのよい長身に大人びた顔立ちや露出の多い服を着たアンは二人の見たアンとは明らかに違って見えた。
「私達はそれぞれの名を語り、他人を欺いて暮らしていました。私はアン、アンは私の名を。こうすると、住所等の情報が流出するのが遅れるので」
「どうしてそんなことを?」
 やっと話がわかってきたところのリンが問う。
「それは、今、お話しすることはできません」
「なら、何故ここへ来てそんなことを言う必要がある」
「ミク様に…ミク様に伝言をお願いしたいのです。私の名はアンということで」
「お願い、いいでしょう?今はわけあってその子に会えないの」
 横から切実なプリマの言葉を弁護するようにアンが言う。しばらく考えていたリンとレンはそれを拒む理由もなく、ゆっくりと頷いた。一気にプリマの表情が明るくなる。
「ありがとう!『今は会えませんが、元気ですから、気になさらないでください。ミク様も体に気をつけて』と、伝えていただけますか?」
「…わかった」
 頷いて了承したレンを見て、プリマはふと悲しげな表情になってうつむくと、
「お二人は優しい方ですね。私はあんなに酷いことをしたのに」
「困ったときはお互いさま、気にすることないよッ!それにおかげでミクちゃんとも仲良くできそう!」
「そうですか、それはよかった。では…」
「あ、ちょっと待って」
 立ち去ろうとする二人を止めたのはレンだった。
 少しプリマのほうへ近寄り、耳打ちをして何かを質問をしたらしく、プリマはそれを聞いて表情を硬くしたが、それから少し悲しげにレンをみて、
「ええ」
 と答えた。
 それからリンとレンに深く頭を下げて、顔を上げるとアンと共にその場を去っていってしまった。今度はレンがとめることはしなかった。
 その足取りは見ていても重く感じられ、まるで帰るのを恐れるようにも見えた。
 二人の姿が見えなくなるとリンが
「ねえ、何を聞いたの?」
「なんでもない。気にすんな。―さ、中に入った入った」
「あーちょっと、押さないでよー!!」
 質問をまともに聞こうともせず、レンはリンの背中を押して開いた扉の中へと入っていった。

『レオンというやつを知っているか?』
 その問いにプリマは間を置いてだが、明確に答えた。『ええ』と。それが、どんな関係なのかはわからないが、レオンと何か関係があることがわかっただけでも大収穫というものだ。
「――これで謎は一つ消えた…か」
 そう呟いて、館の中へ入っていった。中からは美味しそうな夕飯の香りが溢れているようだった。

 リンを部屋へと押しやって、自分は部屋には戻らなかった。
 まっすぐに向かったのは、客人用にあいている三つの部屋のうちの一つで、今はその部屋を兄が使っているはずだった。その隣の部屋は、ランが使っている。キッチンのほうで昨日のように手伝いをしている様子なかったから、多分はこの部屋でアイスを食べているか、寝ているかあるいは―――
「死亡中?」
 そんなわけがない。
 というか、『中』って何だ。お前の兄は生き返るのか。
 この場にリンがいたら、そんなツッコミを入れたのだろうが、あいにくこの場にはリンがいない。
 木の戸を三回ほどノックすると、中から
「もう夕飯?まだ六時二十三分だけど。七時じゃなかったの?」
 という声が聞こえてきた。大方、ノックをしたのはメイコだと勘違いしているのだろう、夕飯だと知らせに来たのだと思っているらしい。仕方なく、そのまま中にはいっていくと、カイトは少し驚いたようにレンをみていた。
「何?レンが夕飯を知らせに来たの?」
「夕飯じゃねぇよ」
「えー、じゃあ何?…あっ俺のアイスは上げないからね!」
「いらねぇよ!」
「じゃあ、何しに来たの?勉強は教えてあげられないけど」
 そういうカイトにレンは呆れたようにため息をついて見せたが、表情を切り替えると、スクールバックからメモ帳を取り出し、小さなテーブルの真ん中にカイトの方へ向けておいた。あの箇条書きで書いた、メモだ。しかし開いたページに書かれていたのは、箇条書きのメモではなく、ある程度整った堀の深い――レオンの似顔絵だった。
「これ、レンが書いたの?上手だなぁ」
「ふざけてる場合じゃないんだって。カイト兄、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
 
 しばらくレンはカイトとの話に夢中で、時間を確かめることをしなかったため、夕飯の時間が迫っていることに気がつかなかった。
 いきなり戸が開いてランが二人を夕飯に誘いに来た。
「カイト兄、レン、晩ご飯。…あれ、その絵の人…私、この間あったよ?」
「あっいや、これは…転校生が変わってたから…その似顔絵!ランがみたのとは別人だって、絶対」
「えー。でもー」
「…晩ご飯、行こうか。二人とも行くよ。あ、レンは着替えてね」
 そういうとカイトはランを連れて部屋を出て行ってしまった。その場をどうにかするために、カイトが気を使ってくれたのであろうことは、レンにもよくわかった。
 メモ帳をバックの中に滑り込ませ、自分の部屋へと着替えに戻っていった。

こん…ばんは、で良いんでしょうかね?
お久しぶりです、かえって来ました。
今回の話を要約するとですね、
『カイトが死亡中』…あ、嘘です。これはレン君のジョーク…え、レン君マジだったの?ごめん、だってあれはありえな…ごめんなさい。
要約するとですね、
『晩ご飯の時間』
です。だって、カイトが晩ご飯…。
じゃあ、また明日!

投稿日時 : 2009/08/08 19:15    投稿者 :リオン

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鏡の悪魔Ⅲ 23

                 -過去-
 その声の震えは次第に大きくなり、最後には泣き出してしまうのではないかと思わせるほどになって行った。けれど、ルカは話すのをやめようとはしなかった。
「次の日、私の靴箱に彼からの手紙が入っていました。答えは、ふられました。でも、その文面からは、彼の誠意が垣間見られたような気がしました。便箋は何度も消した跡がありました。いつもは汚い字も、綺麗でした。言葉も選んで居てくれたようでした。綺麗に返そうと思ったのだと、私は解釈したのです。それから、私は少し落胆して教室へと向かいました。今すぐにでも大声を出してないてしまいたい気持ちでしたよ。けれど、スラスの空気は異様でした。私を見た瞬間に女子たちの目つきが変わったのです。放課後、私は大勢に女子に呼び出しを受けました。内容は、私が彼に告白した件についてでした。何故知っているのかと聞いてみると、女子のリーダー格だった一人が言いました。あの手紙を書いたのは私よ、と。彼は、私からの告白を受けた後、彼女にその話しをしたのだそうです。どう断ればいいのか、と。自分が何度も書き直した手紙を渡して、どうしたらいいのか相談していたそうです。そうして彼女はキレイな字で私への手紙を書きました。彼を装って。彼と彼女は付き合っていたようでした。それを知らないで、私は大変な間違いをしてしまったと思いました。女子たちからは無視されるようになりました。男子と話そうとすると、放課後呼び出されました。先生に話しても、保護者とのトラブルを避けようとしてカ、聞く耳を持とうとはしてくれませんでした。話を聞いてくれる人なんて、どこにもいませんでした。私はいつしか、人との係わり合いを避けるようになりました。それは進学しても同じでした。ずっと、ずっと一人ぼっちのような、深い孤独が、酷く怖かった」
 そこで、レンはドアからはなれ、もう一度ベッドの上に座ってリングノートを手に持った。それ以上はルカの震えた声を聞いてはいられなかった。声を振るわせるルカは、今にも泣き出してしまいそうなのだろうと考えると、レンにはそれを背中合わせに聞くことはできなかったのだ。
ベッドの上で開くリングノートに書かれた言葉と、ルカの少し低いキレイな声が、レンの脳内で交差した。

リオンさん

リオンさん

2009/08/28 23:55

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