タグ:コトダマシ
110件
煙と炎で赤く染まる建物を見上げながら裏手に回った。窓から轟々と火が噴き出して勢いも強い。
「ここが火元…『生成』『消火剤』『火元鎮火』…で大丈夫かな?」
火を消しながら中に飛び込んだ二人が心配になった。こんなに火や煙が凄いのに大丈夫だろうか…?頭の中にお母さんや倒れそうな流船君やゼロさんが次々浮かん...コトダマシ-50.いつもと同じ-
安酉鵺
言魂で火や煙を収めつつ上の階を目指した。階段も煙が立ちこめて少し進むのさえままならない状態だった。
「誰かー?誰か居ますかー?」
火の音だけがパチパチと聞こえるだけで返事は無い。となると地下だろうか…?
「アクセス!」
「おわっ?!」
いきなり目の前の壁が吹き飛ばされ、何やら熊帽子の女…いや、『男の...コトダマシ-49.無邪気な笑顔で-
安酉鵺
真っ暗な中、あちこちで赤い炎がめらめらと燃えて、巻き上がる煙で息が出来ない程だった。言魂で火を消しながら何とか進むとフラフラと歩く人影があった。
「おい!大丈夫か?!」
「ゴホッ…ゲホッ…!」
「この先は火が消えてるから、煙を吸わない様にして避難を…。」
「ヒッ…!ヒィイイイ!!!!」
咳き込んでい...コトダマシ-48.涙で滲んだ世界で-
安酉鵺
突入しようとした矢先、施設の数箇所から火の手が上がった。警備班やスタッフ達にも少なからず動揺が広がる。
「幾徒…これヤバイんじゃないの?」
「先ず消防車だろ。」
「あ!待って!人が…!」
施設の裏手から作業服の人がバタバタと逃げ出すのが見えた。数名の警備班で彼等を拘束させ事情を聞く事にした。
「中学...コトダマシ-47.流れ落ちる血-
安酉鵺
一体此処に連れて来られてからどの位経ったんだろう?暗くて朝なのか夜なのかも判らない。頭がぼんやりして、体中がズキズキと痛む。喉がカラカラに渇いて、息をする度に自分の喉がひゅうひゅう言ってるのが聞こえる。力が入らなくて体を起こす事も出来なくて、何度も眠くなる。目を閉じたら私…このまま死んじゃうのかな…...
コトダマシ-46.容赦の無い力で-
安酉鵺
聖螺の居場所が判ったと言う連絡を受けて、俺を含む適合者はホテルの一室に集まっていた。
「逃げて来たのは適合者の餡音鈴々。武器はそのまま置いて来たらしく不明、彼女を監禁場所
から逃がしたのが凱瑠クロアという少年だ。」
「鈴々にクロア?あの二人も適合者なのか?」
「何だ知り合いか?ゼロ。」
「まぁ…少...コトダマシ-45.ぶん殴って良いですか?!-
安酉鵺
いつもは眠れるのに何故かふと目が覚めた。真夜中で外は暗い、どうしてだろう?何か静か過ぎる様な気がした。散歩でもしたら眠くなるかも知れないし…。
「少しなら大丈夫…だよね。」
夜景の見えるエレベーターホールまで来た所で窓際のソファに座った。流石に起きている人なんて居ない。自販機で買ったココアをゆっくり...コトダマシ-44.恐くないの?-
安酉鵺
書類やデータを前に溜息が続いていた。奪われた武器と、最近の文字化けの大量発生は時期が一致、そして各所で目撃される『黒い翼の男』写真や報告を見る限りその風貌は幎のそれと酷似。この男が現れた場所には必ず文字化けが複数発生している。
「…どう言う事だ…?」
「幾徒ー?幾徒…あ、居た。」
「どうした?」
「...コトダマシ-43.虚ろな目-
安酉鵺
叫び声と悲鳴が聞こえる様になってから丸二日が過ぎた。鈴々はもう耳を覆ったまま殆ど動こうともしない。そしてまた声と音が聞こえた。
「お母さん…お父さん…。」
「鈴々。」
「帰りたい…家に帰りたいよ…。」
「クロアお兄ちゃん!手伝って!純お兄ちゃんが!」
「判った、すぐ行くよ。」
「待って…待ってクロア...コトダマシ-42.帰りたい…。-
安酉鵺
『にぃ、おさんぽ?』
『良いからちゃんと歩くんだよ、流船。』
『にぃ、パパとママも!』
『あいつらは親なんかじゃない!』
『ふぇっ?!…うぇえ~~~っ!うぇええぇぇ…!に…にぃ…おこったぁあ~!』
『ごめん…でも流船、よく聞いて。一緒に逃げよう。大丈夫、兄ぃ頑張るから。』
『ひっく…ひっく…どこ…い...コトダマシ-41.差し詰め珍獣-
安酉鵺
余程疲れてたんだろうか。一体どうしてあんな馬鹿な事を口走ったんだろう?そして…。
「わー豪華ホテルー。」
「…何でお前此処に居るんだ?」
「え?自分で誘ったんじゃない。」
「…やっぱり帰れ、気の迷いだ、ごめんなさい、もう良いです、はい回れ右しておウチに帰ろうね。」
「ちょ…!んもう!そしたら絶対寝な...コトダマシ-40.間抜け所の騒ぎじゃない-
安酉鵺
何かが割れる様な音と人の叫び声が聞こえた。恐怖で思わず耳を覆って蹲る。
「鈴々…。」
「やだ!もうヤダよぉ…!クロア、逃げよう?ね?ね?」
「何度試したと思ってんの…無理だよ。」
「でも…もうおかしくなりそうだよ…!お母さんに会いたい!家に帰りたいよ!」
涙が零れそうになるのを必死で堪えた。泣けば絶...コトダマシ-39.大丈夫が信用出来ない-
安酉鵺
銃の音に思わず目を瞑った。だけど聞こえたのはやっぱりさっきと同じパチパチと言う音で、足元には小さな花がパラパラと降り積もった。闇月幾徒が降り積もった足元の花を手に取る。小さな白い花だった。
「…見えないんじゃなくて…見せなかったのか…。」
「え?」
「武器名『Virgo』…攻撃を一切排除し回復と守り...コトダマシ-38.その馬鹿が気になる-
安酉鵺
昼のチャイムと同時に流船の動きが止まった。ゼロは膝を付いてぜぇぜぇと息を切らしている。
「やっぱり無理なんじゃないの?」
「だ…まれ!」
「暑い…俺も休憩しよ…。」
正直途中で根を上げると思って無茶な提案をしたが、思いの外根性がある様だ。ゼロは休憩室のソファに座ると流石に疲れたのか大きく溜息を吐いた...コトダマシ-37.足手纏い-
安酉鵺
痛い程に手を引かれたまま暫く歩いていた。振り向きもしない。見張っててって、もしかしてあの子が来るのが嫌だったからなのかな?だったら私また役立たずに…。
「腹減ってないか?」
「え?」
「何か食う?それともどっか行きたい所とか無い?」
「別に無いけど…ねぇ、さっきの…。」
「何処でも良いよ、買い物した...コトダマシ-36.六時間睡眠取らないと-
安酉鵺
私何でバスに乗ってるんだろう…?そしてゼロ一体今頃何やってるんだろう…?
「聞いてる?」
「え?何?」
「…だから、名前。彼女のフリなのに名前も知らないんじゃ話にならないだろ?」
「え~っと、じゃあ山田太郎で…。」
「公衆の面前で両手を繋いで満面の笑みでそう呼ばれるのに耐えられるなら構わない。
因...コトダマシ-35.この人陰険だと思うのよね-
安酉鵺
頼流さんは私の腕を引っ張ってスタッフルームに押し込むと、箒と塵取りを持って入れ違いに外に出て行った。一人放置されたので少しドアを開けると、ガラスの破片を掃除しているのが見えた。
「開けられると邪魔なんだけど?」
「あ…ごめんなさい…。」
暫くガラスを片付ける音がしたかと思うと、徐にドアが開いた。頼流...コトダマシ-34.私口説かれてたの?-
安酉鵺
開店前なせいか店は薄暗く静かだ。
「毎回毎回この店を待ち合わせ場所にするの止めて貰えませんかね?」
「あ、巫女フェチ。」
「頑張れ、巫女フェチ。」
「なかーまー。」
「だから…!」
「あの…ゼロさん。ああ言ってますけど流船君も、幾徒さんも、碧砂さんも、勿論私も、
皆応援してますから!」
「あ…その...コトダマシ-33.お前俺の事嫌いだろ…?-
安酉鵺
数日前、ゼロがいきなり家を飛び出して行ったと思ったら、夜中に傷だらけで帰って来た。びっくりして何があったか問いただしたけど、疲れていたのかゼロは直ぐに眠ってしまった。それから毎日、朝出掛けては夜に疲れ切って帰って来る様になった。『放っといてくれ』なんて言われても流石に心配になる。そして今日も同じく…...
コトダマシ-32.取り敢えず謝ろうね!-
安酉鵺
偶然点けていたニュースに見覚えのある建物が映っていた。
「―――っ!!」
驚いて立ち上がった拍子にコップが落ちて床にウーロン茶とガラスの破片が飛び散った。
「きゃっ?!…ゼロ?」
「あ…ごめん…!すぐ片付け…いってぇ…!」
指先にチクリと痛みが走って赤い血が落ちた。
「ちょっと、大丈夫?片付けるから...コトダマシ-31.助けて欲しいのは-
安酉鵺
粉々に砕け散ったガラスが散らばった部屋で、また一人、苦しそうに蹲る影があった。声を殺して、震えながら傷だらけの自分の体を、ぶるぶると震える手で抱き締めている。
「…純…?」
「ヒッ…!あ…ああ…!ああっ!来るな!僕に近付くな!」
怯える様な目は、涙に濡れて尚涙を流していた。手辺り次第に物を投げながら...コトダマシ-30.祈らずには居られなかった-
安酉鵺
小さなバッグに荷物を詰め終わるのと同時に、看護士さんが部屋に入って来た。
「蛟音さん、今日で退院ね、長引かなくて良かったわ。」
「色々お世話になりました。」
「よくお見舞いに来てくれた綺麗な子、最初女の子かと思っちゃったわ~。」
「よく間違えられる~って、本人も言ってます。」
「彼氏さん?良いわねぇ...コトダマシ-29.私を許して下さい-
安酉鵺
ここ数日行き辛かった鈴々の店に久し振りに顔を出すと、入口には白い紙が貼ってあった。
『都合により臨時休業致します』
何だ?店長さんの体調でも悪いのか?それとも何か別の事情でも…。
「あら…クロア君。」
「っ!おばさん…ねぇ、これどうしたの?臨時休業って…。」
「鈴々が…鈴々がおかしな奴等に連れてかれ...コトダマシ-28.名前を呼ぶ声-
安酉鵺
流船が怒りながら店内に戻ったのを確認すると、幾徒は軽い溜息を吐いた。
「…笑えていましたか?」
「ああ、ばっちりな。」
「…そうですか…。」
休んでいないのか少し顔色が悪かった。溜息を何度も吐いてはふら付く足取りで車へ戻ろうとしていたが、流石に限界だったんだろう。幾徒はよろめくと壁にぶつかる様にもた...コトダマシ-27.見れなくて困ってます-
安酉鵺
どうやっても赤くなる顔で何とかバイトに集中しようとした。平常心、平常心…!
「月乃ちゃん、7番卓のお茶まだかしら?」
「えっ?!あ…す、すみません!」
何をしようにも頭から芽結の顔が抜けなくて本気で仕事が手に付かなかった。
「月乃たぁ~ん、今日はドジッ娘デーかなぁ?」
殴りてぇ!いや、待て、いっそそ...コトダマシ-26.勘弁して下さい。-
安酉鵺
病院から帰る途中、何と無く会話が無くて二人で歩いていたけど、つい言葉が零れた。
「『言魂』が万能なら良いのに…。」
「え?」
「あの子の先輩の脚とか、お母さんの怪我とか…直ぐ治せたら良いのに…。」
病院で悔しくて悲しくて泣いていたイコちゃんの姿が、かつての自分とダブって見えた。何も出来なくて震えてた...コトダマシ-25.本当に馬鹿みたい-
安酉鵺
「全治一ヶ月…?!」
「ええ、亀裂骨折ですから少なくともその位は…。」
「そんな!来週には大事な試合が…!」
「まぁ…残念ですが試合は無理ですね。」
「そん…な…!」
「芙花先輩っ!」
「何とかして!ねぇ何とかしてよ!お願い!この試合に勝てば全国に…!」
「今無理をすればテニスどころか走れなくなるか...コトダマシ-24.また女の子泣かしてるのかと-
安酉鵺
病院の消毒臭い匂いってどうも慣れない。そもそも病院嫌いだし、良い思い出も無いし、注射とか痛いイメージばっかり。
「あーあ…面倒臭いなぁ…。そもそもハレルは大袈裟なんだよ、ちょっとの怪我で病院
行けなんてさ。」
「得体の知れない化け物に襲われたのに放置して置く方が危険だ。何も無いならそれで
構わな...コトダマシ-23.真っ黒で目が死んでる人発見-
安酉鵺
休日を挟んで登校するや否や、煩い声が聞こえた。
「おい蕕音!蕕音流船!聞いているのかこの不埒者!」
「聞こえてる…後不埒者って何だよ?」
「蛟音さんが入院したと言うのは本当か?!」
「えっ?!聖螺が?!何時?!病院何処だ?!」
「フッ!何故俺がライバルに情報を与えなきゃならん!聞きたければ星様教えて...コトダマシ-22.明らかなカラ元気-
安酉鵺
いつもよりふかふかの感触に包まれながらまどろんでいた。正直昨日は中々寝付けなかった。夜中にうなされる声で目が覚めて、起こそうとしたらいきなり強い力で押さえ付けられて…。
『行かないで…。』
顔がカッと熱くなった。寝ぼけてたとは言えあんな事されたのも言われたのも初めてだったから。
『流船君が眠れるまで...コトダマシ-21.満面の笑みで言われると-
安酉鵺