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小説版 South North Story
プロローグ
それは、表現しがたい感覚だった。
あの時、重く、そして深海よりも凍りついた金属が首筋に触れた記憶を最後に、僕はその記憶を失った。だが、暫くの後に、天空から魂の片割れの姿を見つめている自身の姿に気が付いたのである。彼女は信頼すべき魔術師と共に...小説版 South North Story ①
レイジ
第四章 始まりの場所 パート1
意識が途絶えた後、どれほどの時間が経過したのかまるで分からない。そもそも時間という概念が存在しえない場所に僕はいたのかも知れない。だけど、僕は再び瞳を開いた。目に映るのは見慣れない銀色の器具と、無機質な白色に包まれた天井の色。天国にしては味気が無さ過ぎるし、地獄にし...小説版 South_North_Story 50
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート1
「卒業式、終わっちゃったね。」
机の上に腰を置くような格好で教室を呆然と眺めていた金髪蒼眼の少女が、少しだけ寂しそうにそう呟いた。どこにでもある様な、変哲もない卒業式だったけれど、それでも三年間学んだ学舎とこれでお別れだと考えると嫌でも哀愁が募る。同級生た...小説版 South North Story ②
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート1
もう、四年も経ったのね。
丁度一年ぶりに訪れた旧黄の国の王都、四年前にカイト皇帝によりゴールデンシティと改名されたその街に訪れたのは、桃色の髪を持つ妙齢の女性、ルカであった。手にしたバスケットの中にはハルジオンの花束と、丹精込めて焼き上げられたブリオッシ...小説版 South North Story ⑲
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート2
ゴシック調の建築様式を持つルータオ修道院の礼拝堂は、その規模の巨大さと均整のとれた建築様式を持つことで有名な建物であった。その内部にひとたび身を納めると、都会の軋轢を癒すような柔らかい、まるで高性能な濾過機を通したような清浄された空気を堪能することが出来るの...小説版 South North Story ③
レイジ
エピローグ
「リーン、リーンってば。起きて?」
優しい声がリーンの脳裏に響いた。誰の声だろう。ううん。あたし、この声ずっと聞きたかった。だってもう二ヶ月も離れ離れだったもの。
そう考えた瞬間に、リーンは思いっきりその透き通るサファイアのような瞳を見開いた。視界に移るのは月夜のように輝く銀髪と、...小説版 South North Story 56
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート11
やっぱり、あたしがいた時代とは随分と様子が違うな。
無言のままで歩みを続けるリンの背中を追いながら、リーンはその様なことを考えた。リーンが生まれ、そして高校卒業まで住んでいた自宅は影も形もないし、大通りを走る路面列車の姿ももちろん見えない。建物は平屋ばか...小説版 South North Story 29
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート5
カフェでの小休止を終えたリーンとハクリは、少し時間は早いがそのまま帰宅の道へと向かうことにした。ルータオ駅は修道院から距離にして数キロの距離があったが、その移動手段を支える交通がルータオ市内には整備されている。即ち、ルータオのもう一つの名物となっている路面列...小説版 South North Story ⑤
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート16
セントパウロ大学前駅から地下鉄南北線に乗車したカイルは、それから半時程度が経過した頃にグリーンシティ駅に降り立つことになった。グリーンシティ駅は文化都市グリーンシティを象徴するような芸術性の高い建物になっている。現代建築特有の、近未来をにおわせる明るい配...小説版 South North Story ⑰
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート11
レンにもう一度逢える?
リーンの声が海岸に響き渡り、その声が波打ち際の潮の音に紛れて消えていった後、リンはその様に考えてその蒼く透き通る瞳をひとつ、瞬きさせた。潮風が吹き、リンとリーンの黄金の髪を綺麗に靡かせる。
「本当に?」
リンは暫くしてから、リ...小説版 South North Story 30
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート13
「とりあえず、何があったのかを説明しなければならないわね。」
ウェッジがさりげなくハクの隣の席に腰掛けたことを確認してから、ルカはその様に言葉を切り出した。確かウェッジはリンの正体を知らないはずだけど、と考えながら、慎重な口調でハクに向かってこう訊ねた。...小説版 South North Story 31
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第二章 ミルドガルド1805 パート10
一体、リン様はどのような生活を営んでいるのだろうか。
一歩一歩近づく、ルータオで一番巨大で、そして最も美しい建築物であるルータオ修道院を目前としながら、メイコはそのようなことを考えた。リン様にレンの最後の言葉を伝え、そして謝罪したい。その想いだけでゴール...小説版 South North Story 28
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート4
「苦い。」
メイコが丹精込めて淹れた紅茶に対するリーンの一言目はその言葉であった。
「私が淹れれば良かったかしら。」
続けて、ルカがその様に評価を下す。その言葉に後悔している気配を感じたメイコは、恐縮しきりという様子で肩を縮めると恥ずかしそうな口調で...小説版 South North Story 22
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート16
「せいやぁっ!」
可憐な少女の声が広い平原の只中に響き渡った。どうやら一人、剣の素振りをしている様子であった。小麦色の髪を潔くポニーテールにした少女はもう一度剣を振り上げて、そして鋭く振り下ろす。剣が風を切る音が周囲に響いた。その素振りだけでも、見るもの...小説版 South North Story 34
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート10
リーンとハクリが予約していた不動産業者から自宅の鍵を受け取ってから向かった先は、モーリス学生街駅から徒歩五分の距離にある場所である。駅から至近距離にある優良物件であるにも関わらず、家賃は程良い価格に抑えられているのは、ミルドガルド共和国の学生支援策の一環で...小説版 South North Story ⑪
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第二章 ミルドガルド2010 パート5
「ルカ殿、ルータオにはすぐにご出立されますか?」
ルカとリーンが飲み残した紅茶を無念という表情そのままで処分し終えると、メイコはルカに向かってその様に訊ねた。まだ午後の早い時間だが、今から出発してもルータオ街道沿いにある次の宿場町には間に合わない計算にな...小説版 South North Story 23
レイジ
第二章 ミルドガルド2010 パート6
日が陰り、夕闇がゴールデンシティを包み込み始める時刻、長旅に耐えられる様にと頑丈な縫製がなされている牛皮のベストを着込んだメイコは、気合を込める様に左右の襟を両手で掴むと、身体を引き締める様にそれを軽く引き絞った。そのまま、私室の窓から広がる景色を視界...小説版 South North Story 24
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート12
入学式を終えたリーンは、他の学生たちと共にひとまず大講堂の外へ向かうことにした。今日の予定は入学式だけだ。早い段階でハクリと合流しようと考えたリーンは、大講堂の出口へと向かって歩き出すことにした。大講堂の一般出口は舞台とは反対側、リーンから見て後方にしか...小説版 South North Story ⑬
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第二章 ミルドガルド1805 パート2
一体、何が起こったのだろう。ぼんやりとした思考のままでリーンはその様に考えて、目の前でまるで大地がひっくり返ったかのような驚きの瞳でリーンを見つめている桃色の髪を持つ女性の表情を視界に収めた。
「あたしは、ルカよ。」
何かに緊張しているのだろうか。軽く...小説版 South North Story ⑳
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第二章 ミルドガルド1805 パート8
メイコとアレク、そしてリーンがテーブルを挟んで向かい合うように座ると、メイコが状況を整理するわ、と前置きをして一通りの話を語りだした。即ち、リンが生きていること。今リンはルータオで静かに暮らしていること。そしてリーンが二百年後の未来から来た人物であるというこ...小説版 South North Story 26
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート6
同じ頃、リーンとは隣合わせの家に住んでいるハクリもまた、遅めの夕食を終えて、先程リーンが寝ている間に読み込んでいた小説の続きを再開しようと自室へと戻ったところであった。ハクリの性格を良く表す様な、余計な物は置かれていない、それでも満たされているように感じる良...小説版 South North Story ⑦
レイジ
第一章 ミルドガルド2010 パート3
「きっと、レンには秘密があると思うの。」
翌日、昼過ぎからルータオの中心街へと向かったリーンは、隣を歩くハクリに向かってそう声をかけた。ミルドガルド共和国沿海地方の中で最大の都市であるルータオには休日に多くの人間が押し寄せる。その中心部は二か所存在していた...小説版 South North Story ④
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート15
作者註:この回は冒頭から「大人のシーン」が展開されています。ある程度抑えたつもりですが、苦手な方はご注意ください。それでもおkな方はどうぞ。(消されなきゃいいけど^^;)
汗ばんだ身体に、茉莉花に似た心地の良い香りがふわりと馴染む。昨晩の行為を思い起こしな...小説版 South North Story 33
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート3
どうしてそのような寂しげな表情をしたのかが判断できないまま、リーンはルカに促される様にして立ち上がるとリン女王の墓石を神妙な瞳で見つめ直した。そして、歴史書で読み込んだリン女王の最後の姿を描写した文面を思い起こす。当時黄の国で絶大な権力を誇った齢14歳の少...小説版 South North Story 21
レイジ
第三章 東京 パート4
「今、レンは何処にいるの?」
暫くしてからリーンから受け取ったハンカチで涙を拭き終えたリンは、一つ深呼吸をするとようやく落ち着きを取り戻した様子で寺本に向かってそう言った。レンがこの世界にいる。あたしはレンにもう一度逢える。そう考えただけで心臓が飛び跳ねそうなくらい高鳴っ...小説版 South North Story 44
レイジ
第四章 始まりの場所 パート2
刀傷の男に向かって謝礼金を支払い終えたレンは、まるで何事も無かったかのような足取りでその小屋を後にすると、海沿いの寂れた路上に駐車しておいた乗用車に再び乗り込んだ。カモメが鳴いている。どこかで聞いたことがあるような声だったが、そう感じたのは海岸の寂れ具合が丁度リンが...小説版 South_North_Story 51
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第一章 ミルドガルド2010 パート13
「ハクリ、こっちよ!」
それから半時間ほどが経過した後、リーンとメイ、そしてカイルはセントパウロ大学の正門でハクリと待ち合わせることになった。学内には待ち合わせに適した場所が他にもあるが、入学したばかりの新入生にも分かりやすい場所を、ということでメイが...小説版 South North Story ⑭
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第一章 ミルドガルド2010 パート11
それから数時間後、リーンとハクリの二人はセントパウロ大学大講堂の中にその身体を収めることになった。セントパウロ大学大講堂は一度に数千人の学生を収容することが出来る、セントパウロ大学では最大の建築物である。ルネッサンス様式を真似た大講堂は、その造形美から観光...小説版 South North Story ⑫
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第一章 ミルドガルド2010 パート17
ミルドガルドには現代日本と同様に、四月の終わりから五月の頭にかけて一週間程度の連休期間が存在していた。メイが迷いの森の探索を目的として指定した日はその春の連休の初日のことである。カイルが運転する車の後部座席に腰かけたリーンは、隣に座るハクリと一緒に流れる...小説版 South North Story ⑱
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第三章 東京 パート6
寺本の話が終わると、藍原は凝り固まった疲労のように重たい吐息をその場に漏らした。寺本はなんと言ったか。ミルドガルド。異世界から来た少女。そんな話はSF小説の中だけの出来事だと思っていたのに。まさか、すぐにその事実を信じられる訳もない。
「二人は明後日の便で札幌に向かう。そ...小説版 South North Story 46
レイジ
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