リオンの投稿作品一覧
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【The second world】
「――この鍵…。一体どこの鍵なのかしら?」
まじまじと青い鍵を見て、『ミク』は呟いた。
暖炉の前でタオルケットを膝にかけて木製のいすに腰掛け、膝の上には家で飼っている黒いふわふわとした猫が丸くなって、あくびまでしている。うつらうつら...The second world
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「ね、ほら、今日は快気祝いにさ、ちょっと背伸びしてお酒でも飲んじゃおうか」
そう言って、ミクオが振り返った。
石畳の向こうに見える噴水は水を噴き上げることをやめ、レンガ造りの赤い家々は無限に続くようにすら見えた。しかし、その景色の中に、白いワンピースと長いツインテールが映ることはなかった。
「―...Fairy tale 39
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時計の秒針がチクタクチクタクと平坦で規則的な音を鳴らし、時の流れを告げているのが、虚しさを膨らませた。
――カラン。
音が鳴って、大きく砕いた氷がジュースの中に沈んだ。
「…」
声が漏れる隙間など無い。お酒をあおって、暴飲暴食でもしてやりたいところだが、あいにく未青年であるためにお酒を飲みこ...Fairy tale 38
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目を覚ますと、そこはバーの二階のミクオの家だった。
白いベッドに上に寝、天井をしばらく見つめていたが、近くにミクオの姿が見えないのが心配になり、アリスは部屋を出た。寝返りなどを打っていたのだろう、髪がボサボサになっていたのでツインテールは解いてしまった。
階段を下りていくと、バーが開店していた...Fairy tale 37
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「――やりすぎてない、よね?」
「…多分。自信は無いけど…当初の目的は達したからいいんじゃない?」
あっけらかんと答え、アリスは辺りを見回した。
豪華絢爛な家具や調度品の数々がセンスよく並べられ、鮮やかな花が生けられた花瓶が窓辺に飾られ、美しい。どこの大金持ちの家か、二人はよく知らなかった。ただ...Fairy tale 36
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窓一つなく、あるのは豪華なドレッサーと姿見、それと木のドアが一つずつあるだけの部屋に放り込まれ、二人は困惑した。
どうやら壁は薄いらしく、壁に耳をくっつけると、向こうの部屋の音が聞こえた。
「アリス、聞こえる、アリス?」
「うん、聞こえてる。ミクオ、どうしたらいいとおもう?」
「どうにか此処を抜...Fairy tale 35
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窓一つなく、あるのは豪華なドレッサーと姿見、それと木のドアが一つずつあるだけの部屋に放り込まれ、二人は困惑した。
どうやら壁は薄いらしく、壁に耳をくっつけると、向こうの部屋の音が聞こえた。
「アリス、聞こえる、アリス?」
「うん、聞こえてる。ミクオ、どうしたらいいとおもう?」
「どうにか此処を抜...Fairy tale 35
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落ち着いた雰囲気のカフェに、カウンターの向こうから笑顔で客を迎え入れ、今日も一日が始まる…。今日、最初の客は二人――兄妹だろうか、可愛らしい少女と少年が仲よさげにやってきた。
「いらっしゃいませ」
いって、客をまじまじと眺める。
片方はツインテールのワンピース姿、緑に統一した容姿の中に一際清楚...Fairy tale 34
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今日も開店する。
ブラックボードに描かれていたウサギの隣の懐中時計、そのまた隣には可愛らしいアリスと思われるイラストが描かれていた。そのブラックボードを店の外に出して、テーブルといすを綺麗に整え、音楽の準備も終わって、開店の準備は万端である。
「今日も開店ね」
「うん。今日もアリスの歌、楽しみに...Fairy tale 33
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今回アリスが目を覚ました場所は見知らぬ夜の街で、ネオンやらライトやらが昼間以上に明るく月夜を照らしていた。
近くの酒場からは笑い声が、バーからは音楽が、民家や商店からはオレンジ色の明かりが漏れている。キレイなネオンが、町を彩る。今までに無いタイプの場所だな、と思いながら、アリスは町を探索してみる...Fairy tale 32
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鮮やかな緑…。
と、言いたいことは山々なのだが、どうもひざまである丈の長い雑草がこうもびっしりと生えていると、鮮やかと言うよりか、寧ろ恐ろしい風に思える。草原ではなく荒地と言った風の草を掻き分けながら、アリスはしっかりと一歩ずつ進んで行く。
ここは、メイコに教えられた離れ小島。
あれからアリ...Fairy tale 31
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処刑台の前には、多くの見物人が黒い波となって押し寄せていた。
『処刑』とは、重税などでこれと言った娯楽を楽しむ余裕も無かった庶民たちにとって、一つの気晴らしでもあった。両手首をならで縛られた状態で、メイコは処刑台の前に進み出た。処刑台の上には大きな十字架が立っていて、メイコはそれが自分をくくりつ...Fairy tale 30
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背中で両腕をしばられ、メイコはその場に跪いた。
苦しげな表情が浮かぶ。
「めーちゃん、何やってんの?」
まだポカンとした様子のカイトにはメイコも驚いたが、跪いている体勢の足は焼け付くように痛い。
答えようにも答えられないのだ。…いや、答えてはいけない。
確かに私は思いとどまり、短刀を海へと...Fairy tale 29
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「…あの、もう一度、言ってもらいたいのですが」
そう言って、メイトは呼吸を整えた。
「ええ、何度でも言うわ。…私と浮気をして?」
「…いいですか、浮気と言うのは…」
「分かっているわ、それ位。…お付き合いしている異性が居るのに、別の異性とお付き合いすることでしょ?」
「分かっているなら…」
「それ...Fairy tale 28
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「…え?」
思わず、メイコは聞き返した。
「だ、だから、その…」
ごにょごにょとメイトが口ごもって、小さな声で何かを言いながら顔を真っ赤にするのを、メイコはきょとんとした表情で見ていた。メイトの言葉が聞こえなかったわけではなくて、聞き間違いか何かだろうと思って、聞き返したのである。
「ち、ちゃん...Fairy tale 27
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「――あ、これ似合うっ!」
そういって、衣裳部屋のハンガーにかかっていた黒と赤のドレスをメイコにあてがい、アリスはお人形遊びでもするように嬉しそうに笑った。すると、メイコの方が今度はアリスに似合いそうなドレスを選び、白と緑の清楚なドレスをだした。胸元の大きなリボンが可愛らしい。
「似合う?」
ド...Fairy tale 26
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朝。
窓から降り注ぐ温かな日差しに目を覚まし、それぞれの“今日”が始まろうとしているというのに…。
「ダメな騎士ね!」
と、言ってやりたい気分だった。
何度かゆさゆさと揺さぶってみたが、メイトは起きる気配が無い。どうにかカイトに言って、別の奴に変えてもらおうと思ったが、かわいそうな気もするの...Fairy tale 25
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「――めーちゃん」
顔を上げると、そこにはアリスが立っていた。
『何?』
筆談は多少不便だが、なれてくるとそう煩わしいものではない。
「何の絵を描いているのかなぁって思って」
何と無しにアリスにその絵を見せてやると、アリスは驚いたような表情になった。もしかして変な絵でも描いていたのだろうか、と...Fairy tale 24
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「ただ、もしも、もしもだよ…」
「え?」
一気に声を低くしていった魔女の声にメイコは、少し驚きながら聞き返し、その言葉の先を話すよう促した。
「もしも、その相手がお前を裏切ったら、私がその男を貰おう」
「そんな!絶対にあげないわ」
「そいつがお前を裏切ったらの話さ。そいつがお前を裏切ったなら、その...Fairy tale 23
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数日たったが、いまだに女性は目を覚まさないでいた。カイトのほうは大して気にした様子でもなく、どうせ彼女も船に乗っていて、運よく浜に流れ着いたのだろうといっていたが、恐らくそれはない。なんと言っても、あの船が転覆したのをアリスが目撃してから、カイトが目を覚ますまでで数日かかっているのに、二人が通りか...
Fairy tale 22
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ザザァァ…。
ザザァァ…。
「ん…っ」
目を覚まして頭を押さえ、上半身を起こしてからアリスは辺りをきょろきょろと見回した。
砂浜だ。森や草原とは違うタイプではあるが、今までと同じような過去に跳んできてしまったらしいことはすぐにわかる。左右を見ると、広がるのはただ真っ白な砂浜にキレイな色の輝く...Fairy tale 21
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「――お願い!入れてよ!女王様に会いに来たんだから!!」
「そ、そういわれても…」
不思議な、トランプの格好をした兵士たちの衣装を引っ張って破いてしまいそうな勢いで、アリスは頼み込んだ。ここはデル達に教えてもらった女王様がいるはずの城の、門の前である。
「お願い、お願いお願い、おーねーがーいー!」...Fairy tale 20
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「アカイト…。そう、アカイト」
何度か繰り返して、笑う。
「何だよ、気味悪いな」
思い切り嫌な顔をして、アカイトは少し後ろへ下がった。
「ごめん。あなた、これからどうするの?このまま森にとどまるつもり?」
「とりあえず…。デルはここを出るつもりらしいし、さっきのみたいな人間が出ないとも限らないし...Fairy tale 19
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「危ない、ハク、後ろッ」
「え――?」
赤い目に映る白の白い髪。その瞬間、ハクの目に恐怖が宿った。
「――っぶねぇッ」
二つの声が重なった。
ガンッと音が鳴って、影は下に落ちた。…三つの影が。
驚いて腰が抜けた様子のハクを助けつつ、アリスは影の正体を冷静に判断しようと、ハクの後ろから首を伸ば...Fairy tale 18
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「す、す、すみません…。だから食べないで…」
「くわねぇよ」
気弱な少女に説教をする不機嫌な少年、その横で少女を弁護しようとしている、もう一人の少女…近くに一頭、銀の狼。
「混乱していたんだから、仕方ないんじゃない。無事だったんだから、許してあげてよ」
「うっさい」
「ごめんなさぁぁいぃ…」
こ...Fairy tale 17
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森はただひたすらに奥へと続く。
奥へ奥へと進んでいけばいくほど、次第にあたりは暗くなっていった。森の奥が暗いのか、それとも時間が過ぎて暗いのか、自分の気持ちで暗く思えているだけなのか、ハクには分からなかった。ただ、混乱していたのだ。
おばあさんが死んでしまった。
優しかったおばあさんが死んで...Fairy tale 16
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「おばあさんの家は、こっち…」
道案内をしながら歩いていくハクは、いつのまにか息切れをしていて、横で歩いているアリスも段々と心配になってくるほどだ。元々体力のあるほうではないのだろう、無駄な贅肉がないぶん、筋肉もないように見える。
「大丈夫?」
「大丈夫です…。あ、こっちです」
随分と歩いてきた...Fairy tale 15
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ズキズキと頭が痛むのにも慣れてきた。三回目ともなれば、普通はそういうものなのかもしれないが。
辺りは双子のときよりもいくらか明るい森が見える、小さな家の横の茂みで、アリスは思い切り尻餅をついて、図らずして身を潜めるようにした。
「あれ、えっと…あの二人はどこだろう?」
大体過去に飛んだときのこ...Fairy tale 14
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暗い森を抜けると、その先には白く長い髪を黒と青のリボンで結んだ、炎のような赤眼の女性がいた。辺りは草原、いくつかの道が分かれその道の真ん中でおろおろと落ち着きなく右往左往している女性の姿は異様といえば異様なのであった。
そして、女性はアリスに気がついて近寄ってくると、情け泣く眉を下げたままアリス...Fairy tale 13
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少しだけ甘酒に口をつけた。
ひな祭りだからと配っていた、紙コップに入った安物である。
甘酒は正直、あまり好きではないのだが…。
「リン、これ飲み終わったら帰るぞ」
横から(まだ付き合っているのか定かではない)レンがもうすぐ甘酒を飲み干してしまおうとしながら、言った。
ちまちまと少しずつ飲ん...双子番外・
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…プツン
――自分の中で何か糸のようなものが切れた音がした――
「アリス、メイコをお願いします」
自分にしがみついていたメイコをアリスに任せ、次第に硬くなっていく神威の体をひざの上から下ろすと、ルカは地に落ちた神威の刀を強く握った。どうか、私に力を貸してくれるようにと、願いながら…。
「る、ル...Fairy tale 12
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暖かいな…。
人に手を握ってもらえるって、こんなに体中暖かくなっちゃうことなんだ。こんなに、心がポカポカするものなんだ…。
「どうしたんですか、メイコ?」
「い、いいえ!なんでもない」
「おかしな子ですね」
ルカは優しく微笑んで応えた。すると、メイコは恥ずかしそうに顔をそらしてうつむき、小さな...Fairy tale 11
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夜も明ける…。
この世界で、最も美しい時間。月が浮かび、陽がゆっくりと地平線の彼方から顔を出し、お互いを引き立てあうように、かつ、それぞれが鮮やかに輝き、地上を明るく照らし出す…。人間がもっとも安心できる時間には遠いが、それでも多くの動植物はその偉大な光りに大きな安心感を得る。
神秘的な時間だ...Fairy tale 10
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深くため息をついた。
窓の外は既に闇に落ち、うすぼんやりと町明かりがめど枠の中に絵画のように見え、遠めに見ると神秘的でもあった。しかし、窓に腰掛け、淡く光を発するランプに緑色の傘をかぶせると、二人の顔は闇の中に沈んで分からなくなってしまった。部屋に満ちたガラクタは、ご主人様が好き好んで買ってきた...Fairy tale 9
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しばらくその二人組についていくと、二人は目的地の町にたどり着いてさっさと宿を見つけ、それから早々に腹ごしらえをして宿に入っていってしまった。
どうしたものかとアリスが迷っていると、黒い帽子にジャケット姿の、いかにも男性っぽいものと肩がぶつかり、アリスは嫌な顔をしてそれを見上げた。すると相手は、驚...Fairy tale 8