リオンの投稿作品一覧
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双子だからか、俺にはリンのついた嘘が他人よりよくわかる。見抜きやすい。となると、リンには俺の嘘を見抜く能力があるのかと言うと、実際そうでもなくて、俺がさらっと嘘を言って見せると、ころっと騙される。騙されるフリをしているわけではなく、実際に騙されている。俺が嘘をつくのが特別うまいわけではない。まあ、...
FOR YOUR HEARTS. 7
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目が覚めると、まだ五時だった。既に日は昇っている。もう夏なのだ。
頭ががんがんと痛かった。昨日、家に帰ってきたときのままの服装で、髪も解かず寝てしまった所為で、髪も服もぐちゃぐちゃである。二日酔いってこんな感じなのかな、と考えたが、分かるはずもなかった。
とりあえず、制服に着替えた。少し早いが...FOR YOUR HEARTS. 6
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曲のイントロだけで分かる。リンが作詞した、ラブソング。
この曲が発表された当初は、十四歳の少女にしては歌詞が達観しきったように聞こえることや、リアルさゆえに誰に向けた歌だったのかと言うことについて、議論を呼んだが、実際、俺自身もリンに好きな人がいるのではと疑ったものである。
この曲は、すきあっ...FOR YOUR HEARTS. 5
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暗いステージにスモークがゆったりと流れ、不思議な雰囲気を醸し出す演出の中、ステージの両端にある巨大なスピーカーから、リンのデビュー曲が流れる。リンの出した曲はすべてチェックしてあるから、イントロだけでも聞き分けられる。自分で買っているわけではなく、リンから新曲を出すたびにCDが送られてくるのだ。そ...
FOR YOUR HEARTS. 4
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リンのライブ会場までは、リンのマネージャーさんが車で連れて行ってくれるというので、とくにその後の予定もなかった俺は、リンの勢いに押され、車に荷物ごと押し込まれてしまった。ぬいぐるみやらクッションやら、小物入れやらノートやら…、よくもまあこんなにほしいものが見つかるもんである。俺にはまったく理解でき...
FOR YOUR HEARTS. 3
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リンの整えられた金髪を結い上げ、地味なヘアゴムで結ぶ。リンは金髪のショートヘアーに大きなリボン、と言うイメージが定着しているから、このままキャップでもかぶっておけば分からないだろう。
「ほら、行くよ」
そういうと、リンはあわてて後をついてくる。どうやらマネージャーさんに大分絞られたらしい、元気が...FOR YOUR HEARTS. 2
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鏡音リン。
人気急上昇中のアイドル歌手。十四歳。芸暦はまだ二年。本日、人生初の単独ライブを行う予定。そして、鏡音リンは今、俺の目の前にいる。
鏡音リンなう。
携帯電話で写メを撮る。友達に送信しようとしたが、人ごみに押されてうまくできなかった。
「リンちゃん、サインして!」
「握手してーっ」
...FOR YOUR HEARTS. 1
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少しだけ音量を下げ、ミクは顔をしかめた。
「何よ、大きいか小さいかしかできないの、使えない!」
街中でイヤフォンに大声で文句をつけている美少女、となれば、嫌でも目立つもので、カイトがミクを見つけるのに、そう苦労はしなかった。…と、いうか、うるさいので、目をそらしても無視できなかった。
「ミク」
...日常 28
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雪がちらほらと舞っていた。
マフラーに首をうずめながら、携帯電話を開く。
「…遅い」
遅い、遅すぎる。
「『レン、今日は一緒に帰ろー。行きたいところがあるの。ついて来てくれるでしょ?』…って言ったのはどこのドイツだ…」
一字一句間違えるところは無いぞ。何せ、クリスマスにそんなことを言われて、...双子番外っ
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ギターの音色がステージ上に響いていた。
ギターの音色だけが、スタジオに響き渡っていた。
二人だけの演奏が終わり、あたりはしんと静まり返っていた。
「いやあ、すばらしい演奏でしたねー」
マイクを持った司会者がリンとレンの元にやってきた。
「今回はメンバーが…」
言い終わらないうちに、リンはそ...日常 27
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歩き出した。
コツ、コツ、と単調なハイヒールの足音が、ひたすらに長い廊下に響き、美しいルカの姿を、よりいっそう際立たせるようだった。手には書類、顔にはめがね、髪はバレッタで止めて、淡いブルーのブラウスに紺のパンツスーツ、と言う格好は、元々クールなルカの印象を更に強めていた。
木製の大きな扉をノ...日常 26
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ゆっくりと、ミクは部屋を出て行った。
誰もが声を発しようとはせず、狭い空間に、重苦しい空気と沈黙だけが取り残されていた。
しばらくして、カイトが静かに音を立てないように、そっと立ち上がった。全員の視線がカイトに向けられ、カイトはうつむいて小さな低い声でつぶやくように言った。
「ごめん」
そし...日常 25
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ルカから連絡が来たのは、それからちょうど一日ほどたったころだった。
メールの字数制限一杯に書かれた、長文だった。いつもよりかっちりとした敬語に、決まりきった書類のように不自然なくらいに回りくどい言葉。なんだか、会議の書類を見ているようで、メイコは思わず目をそらしたくなってしまったほどだった。
...日常 24
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「それで待ってたの、二時間も?」
「そう…だよ…」
本日の教訓。雨の中二時間は、辛い。
あきれたようにメイコはため息をついて、カイトから傘を受け取ると、平気なフリをして一番危機的状況にある(気温的な意味で)ではないレンを立たせた。全員がのそのそと立ち上がる。
「ルカは?」
「休み。親戚にご不幸が...日常 23
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ギターが、空間を震わせた。
キーボードが優しく部屋の中を満たしていく。
「皆遅いねぇ」
リンが言うと、
「まあ、皆忙しいから」
カイトが言った。少し困ったように笑ったカイトは、なんだかとても淡い印象を受けた。ふわふわと溶けてしまいそうな、不思議な笑顔なのだ。
「二人だけでやるのもね」
「まあ...日常 22
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「これから、どうする?」
一人が言った。特に誰が言った、と書くことも無いだろう。兎に角、誰かがそんなことを言った。
「家に帰る」
誰かが返した。
「将来の展望みたいな?」
「そうそう!」
誰か――カイトが言った。
「そうだね、真っ先に家に帰るかな」
「その考えは捨てようか」
と、カイトが言っ...日常 21
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やっとリンが焼肉屋にたどり着いたころには、すでに全員がどんと座敷に陣取り、肉のいいにおいを漂わせていた。
「あ、皆、ずるい! なんで待っててくれないのー?」
言いながらリンが靴を脱いで座敷に上がると、さも当たり前、と言うようにレンが肉を焼きながら言った。
「リンを待ってたら、皆が餓死するって言う...日常 20
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「大好き」
「愛してる」
「ねえ」
「殺して」
孤独な僕に、マスターは『お人形』を買ってくれた。
金色の髪、青い眼の僕に対して、金髪、翡翠の眼のお人形はきれいで、きれいで、僕はそれがこの上なくいとおしくて、僕以外の誰も触らないよう、汚れないよ...人形【腐、残酷注意】
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ぽわりん
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「とりあえず、結果を校長に報告して」
メイコの言葉を聞いて、リンはしばらく意味がわからないというようにきょとんとしていたが、すこしして、
「あ、うん、OK、わかった」
「本当にわかったんでしょうね」
「うーん、多分?」
非常に心配だ。
とりあえず、大丈夫と言うことにしておこう。大丈夫でなかった...日常 19
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かわいらしいテディベアが、テーブルの上におかれている。
横目でそれをちらりと見て、リンは深くため息をついた。オーディションがあった比からいつか、そろそろ結果がきてもいいころだ。やっと、終わったのだ、と言う実感がわいてきた。
メイコの名前で登録してあるはずだから、メイコのところに結果の通知が届い...日常 18
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氷のような冷たい視線を浴びつつ、リンたちはそれぞれの立ち位置に立ち、楽器のセッティングを始める。ドラムセットとキーボードを中心に立ち居地を考えた結果の、一番よく聞こえる場所、とミクが太鼓判を押していたのだ。
「はじめてください」
全員の準備が終わったころ、審査員の一人が言った。一気に空気が張り詰...日常 17
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電車の窓の外の景色に眼を輝かせる。
「わぁ、わぁ! すごい、速い!」
「ちょっと、リン、ちゃんと座って。恥ずかしいでしょ」
「だって、すごいよ。きゃぁぁあ、はっやーっ」
「まったく、子供なんだから!」
あきれながら言うメイコも、さきほどからそわそわとして、落ち着きがない。いや、誰もが、それは同じ...日常 16
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大きな歓声。
黄色い声、と言うより、寧ろオレンジ――を通り越して。茶色いくらいの『濃い』歓声だ。鼓膜を突くような、鋭い声。悲鳴といわれても、そう否定は出来ないだろう。
「準備はいいっ?」
メイコが声を張り上げた。
歓声がさらに大きくなり、辺りはいっそうにぎやかに、騒がしくなった。
「いっくよ...日常 15
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「へぇ、気が変わったの」
カイトが言った。
「まあね。だから、だれか応募しておきなさい。オーディションに」
どうしてそうメイコの考えが変わったのかはわからないが、リンとの関係もおかしくなっているわけではないらしいし、まあ、よかったということにしておこう。そう思いつつ、カイトは微笑んで、
「うん。...日常 14
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部屋に戻ってきたリンは、体中でため息をついた。
嫌なのはわかったけれど、それでももう少し言い方を考えるとか、せめて理由を言うとか、それくらい、出来るはずではないか。あんな言い方、あんまりだ。
かばんをベッドの上に投げ出して、スポーツドリンクを冷蔵庫から出してくると、一気に飲み干してしまう。ぷは...日常 13
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朝、急いで家を飛び出してきたリンは、大学の校門に集まっている人だかりに、自転車のまま突っ込んでいった。
「キャ――――ッ!!」
どうにか負傷者は(リン以外)でなかったものの、リンは校門に顔面から衝突、レンに直してもらったばかりの自転車は一部、ぐにゃりと嫌な形に曲がってしまった。
「おぉーぅ」
...日常 12
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その日の帰り道、レンはさもおかしそうに笑いながら、
「すごいよ、ホント、君!」
「すごい、って言うか、ひどいよ」
「何がすごいって、演奏終わるまで、音符をたどるだけで、あとはアドリブだってトコ!」
「そんなに笑うこと無いでしょっ」
仕方が無いだろう。ほぼ独学のリンには難しすぎる音楽記号だらけで、...日常 11
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「今日は、初めてあわせてやってみようとおもいます」
こほん、と一度わざとらしくせきをして、カイトは言った。おー、と何人かが声を上げた。
「皆、そろそろある程度までできるようになってるよね?」
曖昧に全員が頷いた。そこまで自信があるようではない。
「じゃあ、楽器、セッティングしてー」
「はーい」
...日常 10
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「――知ってたわよ?」
しれっとメイコが言った。
これには全員、大ブーイングである。
「何で言ってくれなかったの!」
と、ミクがメイコを責める。すると、メイコはまたしれっと
「だって誰も聞かなかったじゃない」
そりゃあ、そうだ。だれも、リンの父がLOIDのメンバーだという前提で考えてなどいな...日常 9
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携帯電話が鳴っている。
カーテンの隙間からこぼれる朝日の中で、リンはもぞもぞとベッドから置きだし、枕もとの携帯電話を取った。新着メールを開いて確認すると、レンからのメールであった。
『今日、学校終了し次第、各楽器持参で集合されたし』
なんでこんな果たし状的な書き方をするんだろう。そんなことを思...日常 8
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ギターが音を鳴らす。
マンションの一室、防音設備だけは整った、安い部屋だが、ギターを弾くのならば、それでもよしとする。スコアを見ながら、一音ずつ鳴らしていく。不慣れながら、その手の動きはいきいきとし、リンの表情は幸せそうに、柔らかな笑顔だった。
「♪―…」
ギターに合わせ、声を出す。自分の声も...日常 7
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「これ、誰が作った曲?」
「ミクだけど?」
また、リンがふぅん、と言う。
「何? どこか駄目だった? ギターのスコアはあまり見ないから、見よう見まねなんだけど…」
不安そうにミクが聞くと、リンは首を横に振って、
「ううん、違うの。ただ、すごく簡単なメロディしかないんだな、って」
「結構難しくない...日常 6
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家に戻ると、リンは部屋の押入れの中をあさり始めた。
「おっかしいなぁ、ここに入れたはずなのに」
入れたはずなのに無いのは、違う場所にしまったから、だろう。しばらく探し続けていると、ずっと奥のほうに、黒と黄色のギターがあった。それを引っ張り出して、軽くひいてみると、弦が緩み、悪くなっているらしい、...日常 5
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うーん、と声を上げながら、リンは伸びをした。
講義が終わったのだ。
「さて、かえってテレビでも見るか」
と、言う状況だ。特に気にする課題もないし…。
「りーんーたんっ」
声をかけてきたのは、ミクだった。
「何か用? あとたんって何」
「えへへー。リンたん、ちょっとついてきてほしいところがある...日常 4