charlsの投稿作品一覧
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漂える水草には
浄らかな一輪が
蓮の音に浮かぶくらい
あやふやな華やかさ
気高くも色香に囁く道化師は
美しいそれを、あざとさまでも
鏡に映すの
儚く躍れるリリィのように
未然に慈善に身を焦がせば
私の心は御心という...リリィ
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私が大人になった頃には
あなたはもう
この世にいませんでした
自分の終わりがすぐそばに
来てると知って、こっそり
私の前から姿を消しました
大切な人にこそ見せられない
そんなものって、ありますか?
大切な人だから見せられる
そんなものじゃ、ダメですか?...大切
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私なんかが生きててゴメンね
そんなメールに走り出す背中
涙は、風の中
知らなくてもいいものを
知らずにいたかった
そんな言い訳も能書きも
全部、私のせいなの
そんなキミを堤防で見つけた
頬をはたく 私の震える手
絆は、上の空...堤防
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彼女が彼に恋をした
それを見てるうちに 頬を赤らめていた
でもね、伝えないだけの私じゃないよ
ただ、幼かっただけ
いつしか、私は
身寄りのないフラウのように
風に吹かれることのない
花として産まれてしまったんだ
助走するから飛べてた空も
足も羽根もないからと、飛ばずにいたんだ...フラウ
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スマートフォンの普及から数年経った現在、一つのアプリが一部の闇サイトの中で賛否の嵐に包まれていた。
その内容とは、亡き人とメールのやりとりが行えるというもので、利用方法はいたって簡単。
最初の登録画面で亡き人の情報を百ある設問にすべて入力し、身なりや外見をアバターの要領で投影する事で利用者の携帯に常...PRAY FOR YOU
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「今日を以て、あなたは名前を失う事となりました。今まで名乗っていた名前は今後二度と社会では使用できませんので、覚悟しておいて下さい」
私は自らの思いで、自身の名を失った。
名前を失うという事は、家族という枠組みから外れる事だけでなく、社会からも外れる事になる。世の中には私の姿形は存在すれど、何かに属...MY NAME IS LOST
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上京してしばらく経って、地元に帰る理由は色々とあるけれど、家族に会いに帰る事がやっぱり一番強いものだと思っていた。
でもそれって逆を言えば、地元に友人も家族もいなくなれば帰る事自体望まなくなるんじゃないかって思ったら、すごく淋しい気持ちになった。
家族に喜んでもらうには自分を含めた取り巻く人たちが必...帰郷
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「プレゼント、何が良い?」
明日の彼女の誕生日に、ボクはサプライズを諦めて、勇気を出してそう聞いてみた。
「…わがまま、言っていい?」
意外な彼女からの反応に、ボクは心から構わないと応えた。
「全然、大丈夫だよ?」
すると彼女は、ボクのポケットの中のそれを指差して呟いた。
「祐輔のそれが、欲しいの」...あいこ
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仕事帰りの駅のホームに、点滅している携帯電話が落ちているのにふと気付いた。
ボクは不意にもその携帯電話を手に取り、落とし物として駅員に明け渡そうと周りを見渡したが近くにいなかったので、そわそわしながらも動揺している自分がいた。
次に来る電車に乗って家路に向かうか、いっそ諦めて元あった場所にそれを戻す...幸福のインタビュー
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「今日は、私の誕生日に集まってくれて、本当にありがとう!」
誕生日とは、年に一度訪れる度に祝いの行事として、家庭でも何処でも祝福を繰り返すもの。
「咲花も、これから立派な大人になっていくんだね?」
親友は、私にそう言って祝福してくれた。
歳を取るという事は子供から大人へと変貌していく、という事。当た...おたんじょうび
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「…」
朝焼けの後の地平線の向こうから、大きな乗り物が私の方に向かって来るのを、目を凝らしながらもしばらく疑って止まなかった。
「…な、何?」
凄いスピードで迷いもなくこちらに来るので、私は河の方向を気にしながらそれが来るのを咄嗟に交わした。
「バ、バス?」
まるで河に飛び込もうとしていたかのような...橙のパレット
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「大上くん、今日で終わりって…どういう事?」
さらに奥まで続く山林から、足を負傷した私をずっとおぶってくれた獣道を抜け、ようやく辿り着いた山小屋で彼は静かに重い口を開いて言った。
「多分、明日でボクは殺される」
と。
そんなキミと出会ったのは、中学生の頃だったかな。
キミをずっとボクのそばに置いてお...誘拐
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こんなに萎れた花の側には、今にも壊れてしまいそうなトランシーバーが、ジーッと真っ直ぐな電波を芳ばしく放っていた。
「…神様なんか信じてないよ。だからこうして、彼の波形をずっと探してるんだ」
科学的根拠なんか何もない。私は彼と繋がりたい一心で、毎日こうやって片耳に片っぽだけのヘッドフォンを弄りながら、...片っぽのヘッドフォン
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昨夜のニュースから、一夜明けた今日。
空の奥に突如空いた大気圏のヒビは更なる進行を続け、人類は地下に続く一人用のエレベーターでの避難を強いられていた。
残り36時間を目処に地球の大気が全てなくなるまでの限られた時間の中で、全世界に幾度となく告げられていく報道は終焉という文言だけを我々に知らせる他なか...月のバラッド
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「じゃあ、堺くん。塩崎悠里さんの家まで、この連絡ノート届けてくれる?」
「はい」
先生に頼まれたから仕方ないとばかりに、初めて行く彼女の家までの距離は新鮮でしかなく、おまけにこの欠席者に伝達するための連絡ノートのおかげで、彼女に直接会う事ができるなんて。
ボクは不純でしかない心を抑えるのに必死だった...れんらくノート
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「どうしたの、急にこんな所に呼び出してさ」
幼い頃は毎日のようにじゃれ合っていた河川敷に、しばらく疎遠だった二人がそこにいた。
「久しぶりだね、もうどれくらい経つんだろう?」
小学生の頃までは仲の良かった近所の幼馴染としての関係は、中学生になってからは別々の学校に進んでからというもの、全くと言っても...金日輪
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彼女に初めて会ったのは、近所の駅の構内だった。
未だ大人びて人間くさくない彼女を他人としてあしらっていたのを今でもよく覚えている。それが互いに打ち解けたあの日、彼女がボクにくれたその笑顔がすべての始まりであり、高鳴りでもあった。
それから、互いに学生として電車で通う日課を当たり前のものだと、二人は平...ゆきずり
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「ツバサがあれば、こんな私でも空にだって飛べるのに」
夢に、羽ばたいてゆけ。
昔書いた寄せ書きのそんなアツい言葉も、ツバサがなくては到底無理な話。叶えようとするものの中には、ある程度の羽ばたきがやっぱり必要なんだ。
そんな事を思いながら夜も更け、うとうとと机を枕に、夢心地と浸っていた。
「…ツバサが...半分この林檎
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「…ねえ、私たち付き合ってるんだよね?」
高校二年の春、ボクたちは去年の文化祭から意気投合して以来、特にそういう会話をしないまま、二人だけでいつもの放課後を過ごしていた。
「え、ああ…」
ボクたちは、恋愛というものを実はよく知らないのかもしれない。
「なあ、健吾、今日は部活出るんだろ?」
「え?ああ...私と、付き合って
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「大人になったら、青が待ってるの」
手を隠すように繋いでいたボクらを見下ろすように、白い粉雪の舞う冬空がそこにあった。
「マリッジブルーやマタニティブルーは大人の階段を上る度に、大人たちは次第にそんなブルーに頭を抱えていくんだね」
大人は成長する毎に悩みはつきもの。恋の色は赤かピンクだと思っていたけ...恋々たる、堂々
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9月9日。
今日はね、初めてカノンという曲に出会った日。
私は今でも、あの日の事を鮮明に覚えています。
「…え。じゃあ、このコード進行をループさせるだけで弾けちゃうんだ?」
「そう、簡単だろ?」
音楽室の片隅にあるピアノに座って、楽譜の読めない私にコード進行という伴奏理論を教えてくれたのが、当時三年...岬のカノン
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汚れた街を行き交う人々は、こんなにも汚れた格好をしている自分を、何も見てないかのように容易に見過ごして去っていく。
哀れだとか悲しみだとかキレイな意味で使われる事があっても、それを身近で見るとどうして良いのか分からずに、私にそっと冷たい表情を残していくんだ。
いつものように変わらない人生だった自分で...湊のハーモニカ
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その昔。
サンタクロースは、二人いました。白いサンタクロースと、黒いサンタクロース。
今と少し違っていて。
毎年のように、白いサンタクロースは良い子にプレゼントを届けに行き、黒いサンタクロースは悪い子に悪戯をしに行くのです。
そんなある日。
白いサンタクロースは黒いサンタクロースの悪戯がエスカレート...クロースサンタ
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「パパなんて、大嫌い!」
あの日幼い格好をしていた私は、大事な人形を抱えたまま家を飛び出していった。
それから、海の近くにある家から波止場の公園まで走っていって、夜遅く灯りのある場所に座っては泣き崩れていた。
眼の前は、青く澄んだ広い海。
私なんか平気で受け入れてくれる抱擁力を強く感じながら、港町の...海辺のドール
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クリスマス・イヴの今日。
駅の片隅で、一人の彼女を待ち続けていた。
彼女とは幼馴染で、しかも自分の親友の事を好きでいるという、どうしようもない関係の中、彼女の方から珍しくデートに誘ってきたのだ。
人がたくさん行き交う最中、約束の時間はとっくに過ぎて、暗闇を灯す夜空の満月にいつの間にか見惚れている自分...白い贈り物
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「ルールって、この世に必要なもの?」
公園のブランコに飽きた彼女は、靴を飛ばし終えた格好でブランコの前の手摺りに座りながら、そんな事を呟いた。
「どうしたの、急に…」
彼女は滑り台のてっぺんから見下ろすボクを見上げると、首を傾げて話を続けた。
「ルールは守るもの、それとも…」
「破るため、さ」
ボク...すべりだい
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本日を以て、恋は病として正式に認定された。
恋煩いという形で放っておかれた感情は、今後はもう患いという言葉として扱われるのだ。
「恋に冒された方は速やかに処方箋を服用して下さい。でないと、心から体内にまで侵食して死んでしまいますよ」
世界的に有能な医師から世の中の人たちに向けられた、一昔前からしたら...恋は病
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「お前の命を今日から一週間オレに預けろ。どうせ無駄にする命なら、構わないだろ?」
「…」
あの時の私は確かにどうかしていたのだけれど、あの時の彼ほどじゃなかった気がする。
学校という縛りを打破するには、もうこうするしかないんだって。
学校という世界が私の全てだったから、きっと仕方なかったんだ。
「お...イノチノレンタル
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夜の帳の灯が午前零時を過ぎても、ちらほらと僅かにもその光が眼に映るから気になって眼を凝らして観てみると、電信柱の真上には数匹の虫たちが灯を浴びて止まない。
どうも六月になると辺りは重々と蒸し暑いせいか、夜の奥のもっと向こうには怖いと震える意識の向こうに仄かな光がこぼれているのが、最近のボクには少し...夜の奥
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世の中からいなくなる事、所謂死ぬという結果の後に、人は天国か地獄への選択を迫られるという逸話がある。
世の中での生き方によって、それは分別されるというけれど、それが仮に本当だとして。
そんな他愛のない話の下りを、ボクと彼女は目的地である途中の駅のロータリーで、突然の雨をしばらくの間凌いでいた。
「…...天国と地獄
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ポラロイドから出てきた彼女の撮った数多くの写真を油絵のキャンバスに切り取って貼って、それを度々オフホワイトの色で繰り返し塗り潰していく。
そんな彼女の日課にボクは庭で鳴く蝉の声に耳を澄ませては、中絶の悲しみをひた隠しに出来ないでいた。
「今日のあった素敵な事も、またこうやって真っ白になるんだ」
思い...メイのエメラルド
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深夜遅くの、とある仕事帰りの事。
玄関を恐る恐る開けて、寝室にゆっくり足を遣ろうとすると、彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。
すでに眠っているだろうと思っていたボクを尻目に、ベッドに横たわったままの彼女は眠るどころか、寝そべった状態で悲痛のあまり泣いていたのだった。
「…どうしたの?」
キミの隣から...傷モノ