魔法使いと兎と月と
一時間以内に使わないと魔法が消えちゃうんだ。
白い兎は小さな毛糸のミトンに優しく掬われたまま世話しなく鼻を動かしている。
頬を寒さに赤く染めて、慎重に魔法の使い道を選ぶ少年をぼんやりと霞む眼で見上げていたら彼とその向こうから降る雪の合間に月が見えた。
実はシルクハットの中に、もう一羽兎が居るのだけれど、月があんまり綺麗で愛おしくなったから、少年が選んでしまう前にシルクハットの兎を人間に。代わりに自分を兎にして下さい。と頼むことにした。
何も知らない少年のミトンに触れながら、魔法の兎になった自分が魔法の代償に消えたら、月はきっともっと愛おしいに違いないよ。